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2024.01.25 (Thu)

第445回 【TV/映画/本】「新刊」と「新作映画」におくられて旅立った、山田太一さん

ドラマ2月号
▲「月刊ドラマ」2月号

昨年11月29日、脚本家・作家の山田太一さんが亡くなった(享年89)。

あたしは、三島由紀夫賞・山本周五郎賞が1988年にはじまってからしばらく、選考会・授賞式での“配車係”をやっていた。選考委員や受賞者の、会場(ホテルオークラ)~自宅間の車の送迎手配である。

第1回の山本賞は、山田太一さんの『異人たちとの夏』(新潮社刊)だった。この作品が第1回受賞作となったことで、新しい賞の性格や方向性が、はっきり示された。その意味で、とてもいい作品が選ばれたと思った(ちなみに第1回三島賞は、高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』だった)。

授賞式の日、山田さんは、たしかTBSかどこかで仕事をしており、直接行くから車は不要とのことだった。

あたしは、観るたびに号泣する映画『あこがれ』(恩地日出夫監督、1966)や、TV『岸辺のアルバム』『男たちの旅路』などの脚本家として、山田さんを大尊敬していた。どんな方かと思って緊張しながらお迎えしてみれば、小柄で、小さな声で話す、たいへん地味で静かなひとだった。授賞式の間も、ずっと、はにかむような表情をしておられた。

その山田さんは、第5回(1992年)から8年ほど、山本賞の選考委員をつとめた。その間の第7回(1994年)の受賞作が、久世光彦さんの『一九三四年冬 乱歩』(集英社刊)だった。いうまでもなく、久世さんも、山田さんとおなじTV業界人。1976年のドラマ『さくらの唄』(TBS)は、山田太一脚本、久世光彦演出だった。年齢も久世さんが1歳だけ下の、同世代である。

選考会で受賞作が決まると、すぐに受賞者に駆けつけてもらい、記者会見となる。そのときも久世さんが、いままでどこかのスポーツジムにでもいたのか、ジャージ姿のまま、タオル片手にホテルオークラの記者会見に来てくださった。

そのころ、選考委員たちは、別室の慰労会場で、軽食をつまみながら、イッパイやっている。山田さんは、お酒はあまり強くないのか、顔を真っ赤にしながら、ほかの委員と談笑していた。

そこへ、記者会見を終えた久世さんが、緊張した様子で「ありがとうございます……」と入ってきた。そのときの山田さんの表情が忘れられない。満面の笑みを浮かべて、「いやあ、おめでとうございます、さあ!」と、すぐ隣りの席をすすめていた。たぶん、久世さんと話したくて、強くないお酒を舐めながら、待っていたのだと思う。長年、TV業界で活躍してきた同士が、視聴率以外でこのような評価を得たことがうれしくて仕方ないといった様子だった(このとき、同室内に三島賞選考委員もいて、奥で、石原慎太郎・江藤淳の両氏が、“かなり”盛り上がっていたのも忘れられない)。

   *****

男たちの旅路
▲これさえあれば生きていける『男たちの旅路』DVD全集

ところで、『岸辺のアルバム』(1977)、『男たちの旅路』(1976~82)である。大学で同級のS君は、これら山田ドラマの物まねが絶品だった。

▶岸辺のアルバム
「浮気の提案です。お互いの家庭は決して壊さない。絶対に秘密は守る。深入りはしない」(竹脇無我)

「アルバムよ! 2冊でも3冊でもアルバムを取ってきたいんです。家族の記録なんです! かけがえがないんです!」(八千草薫)

▶男たちの旅路
「甘ったれたことを言うな! こんな場所を選んで、わざわざノコノコ上がって来る奴に、死ぬ資格などない!」(鶴田浩二)

「戦争って、案外、勇ましくていい事がいっぱいあるのかもしれないなんて、思っちゃうよ。それでもいいんですか? 俺は五十代の人間には責任があると思うね!」(水谷豊)

——ドラマよりも、口角泡を飛ばしてこれらの物まねをするSくんのほうが印象に残っているくらいだ。つまり、それほど、山田ドラマには、不思議な熱量があるのだ(すでに名作『ふぞろいの林檎たち』もはじまっていたが、あたしもSくんも、群像劇のせいか、それほどは熱狂しなかった)。

余談だが、『男たちの旅路』第4部第2話〈影の領域〉(1979)では、鶴田浩二、梅宮辰夫、池部良の3人が、同一画面内に登場する。東映ヤクザ映画のスター3人がそろったわけだ。第3部第1話〈シルバーシート〉(1977)でも、笠智衆、殿山泰司、加藤嘉、藤原鎌足、志村喬ら“昭和映画界の老名優”がそろい踏みしていた。このドラマは、映画ファンにとってもたまらないキャスティングだった。

   *****

山田太一 本
▲”山田太一本”の数々

山田ドラマに強烈な記憶があるのは、多くが“活字”で読めたからでもある。

『岸辺のアルバム』は、東京新聞連載の「小説」が原作だった(挿絵が深井国氏だった)。『異人たちの夏』も、のちに大林宣彦監督で映画化されたが、もとは「小説新潮」連載の「小説」である。

そのほか、脚本も、多くが出版されている。『ふぞろいの林檎たち』も新潮文庫化されたし、『男たちの旅路』に至っては、3~4回、単行本化されている。菅原文太・和田アキ子主演の、女子プロレスに挑む少女たちを描いた『輝きたいの』(1984)も単行本化され、夢中になって読んだ記憶がある。

倉本聰とならんで、これほど出版化された脚本家は、珍しいのではないか。もちろん読者は、あの“山田太一ブシ”とでもいうような、強烈な説教調のセリフを目でも確かめたかったのである。選び抜かれた、確固とした言葉で書かれているので、「小説のように読める」脚本だった。

   *****

脚本
▲昨年10月刊の、山田太一さんの「最新刊」

そんな山田太一さんだが、亡くなる直前に「新刊」が出ていた。『山田太一未発表シナリオ集』(山田太一著、編・解説:頭木弘樹/国書刊行会)である。

これは驚くべき本で、パートⅣで終わっていた『ふぞろいの林檎たち』の7年後、40歳代になった彼らを描いた〈パートⅤ〉が収録されている。さらに、『男たちの旅路』では、本来の第4部第2話になるはずだった〈オートバイ〉なる作品までも! それら未映像化脚本2作を中心に、まぼろしのTBS「2時間サスペンス・ドラマ」『今は港にいる2人』も収録されている。

どれも、さすがは山田太一さんといいたくなるシナリオである。これらが未発表に終わった理由は、解説に詳しい(編者の頭木弘樹氏は、ずっと山田さんのもとへロング・インタビューで通っていたらしい)。

そのうち、『男たちの旅路』〈オートバイ〉については、準主役の水谷豊が売れっ子になってしまい(日本テレビ『熱中時代』の大ヒットで)、継続出演が難しくなったことがボツの理由だったようだ。

第4部第2話〈オートバイ〉は、その前の回〈流氷〉に引き続き、水谷豊が重要な役を演じる。今回も、陽平(水谷豊)が、上司の吉岡司令補(鶴田浩二)と“対立”する。

郊外の静かな団地に、毎晩オートバイであらわれて騒音をまき散らす若者。徹底的に排除しようとする警備担当の鶴田浩二。それに対し、水谷豊は、ここまでしつこくあらわれるには、彼にもなにか理由があるはずで、それを聞くべきではないかと主張する。だが、業務として“警備”を請け負った吉岡にすれば、そんな甘い対応は許されない……。

第4部に入って、鶴田浩二と水谷豊の関係が逆転するのでは……と感じはじめた視聴者の期待に応える回である。実現していれば、今回も(歌舞伎でいう)「ジワがくる」クライマックスになったと思う。

だが水谷豊の起用は不可能になった。そこで〈オートバイ〉はボツになり、この回から水谷豊は降板、上述〈影の領域〉に変更されたのだった。

山田さんは2017年に脳出血を発症。以後、本格的な執筆活動にはもどれないまま、11月末に逝かれた。まるで、『山田太一未発表シナリオ集』の10月末刊行を待っていたかのようだっだ。

   *****

異人たち
▲イギリス映画『異人たち』(4月公開)

そしてこの4月、山田さんの小説、第1回山本賞受賞作『異人たちとの夏』が、イギリスで再映画化され、日本公開される。1988年、大林宣彦監督・市川森一脚本によって映画化されて以来、35年ぶりのリメイクである。風間杜夫、片岡鶴太郎、秋吉久美子、名取裕子らによる、名作であり迷作であり怪作であった。だが不思議と忘れがたい映画で、あたしは嫌いではない。この映画を観て、浅草のすき焼き屋「今半別館」へ行くひとが続出したといわれたものだ。

今回のリメイク『異人たち』(All of Us Strangers/アンドリュー・ヘイ監督)は、あたしも先日試写会で鑑賞させていただいたが、予断を与えたくないので、あえて感想は記さない。プレス資料によれば、まだ山田さんが伏せる以前から、ご家族ぐるみで進めていた企画らしい。こういう映画になることを、山田さん自身、承知していたようである。おそらく完成作を観たら「いまの時代、これでいいんじゃないでしょうか」と、穏やかに微笑まれたような気がする。

山田さんは、「新刊」と「新作映画」におくられて旅立った。こんな最期をむかえた脚本家は、いない。ご冥福をお祈りします。
(一部敬称略)

あこがれDVD
▲山田太一さん脚本の名作『あこがれ』(内藤洋子主演、恩地日出夫監督、1966)。語りだしたらとまらないので、今回はなにも述べません。

映画『異人たち』のHPは、こちら。



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2023.05.28 (Sun)

第402回 日曜夜11時、バッハを愛する自閉症のアストリッドに声援を

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▲右が自閉症のアストリッド。左が猪突猛進のラファエル。(NHK番組HP~「壁紙」)

昨年夏、NHK総合で日曜日夜11時から放送されていた、『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』をはじめて観たときは、ちょっと驚いてしまった。

フランスの刑事ドラマで、主人公は2人の女性コンビである。
1人は少々ガサツで猪突猛進のパリ警視庁・刑事、ラファエル・コスト。シングルマザーだが、息子の親権は元夫にあるので、時々しか会えない。TVドラマにしては珍しい、なかなかのドスコイ体形である。

もう1人のアストリッド・ニールセンはガリガリ体形。パリ警視庁・犯罪資料局の文書係に勤務しており、犯罪調書などの整理が仕事である。

驚いたのはこのアストリッドのほうで、彼女は「自閉アスペルガー」なのである(autiste asperger…本国の番組HPより。Wikipediaでは「自閉スペクトラム症」)。日本の告知宣伝では「論理的」「几帳面」とされているが、そんな生易しい状況ではない。

この病気について、あたしに正確な知識はないのだが、このドラマで見るかぎり、「ひとの目を見て話せない」、「手つきに落ち着きがなく、指が常に動いている」「パズルが得意で、いつも手にしている」、「予定外の行動をとることが苦手」、「他人に触れられたくない」……なので、通常の社会人生活はおくれないようである。
定期的に「自閉症友の会」に通って、おなじ病気のひとたちと交流している。

彼女は、1日中、資料室の奥で1人で資料を整理している。
子供のころに自閉症と診断されて以来、一般社会での生活が困難とあって、早逝した父親(警察官)にかわり、友人の犯罪資料局長官が後見人となった。そのおかげで、いまは、ひとと接する必要のない文書係で働いている。天涯孤独で病を抱えながら。

演じている女優、サラ・モーテンセンは、異様なまでに目を見開きながら、たいへんな名演をみせる。
最初は「これを地上波の全国放送で流して大丈夫なのか?」と思ったほどだった。

だが、その一方で、記憶力・分析力は抜群で、犯罪資料を整理しているうちに、廃棄された記録まで記憶してしまう。パズルが得意なだけあって、別個の資料を組み合わせて新たな推論を提示する。
そんな彼女が独自分析をラファエルに教示しながら、2人で怪奇事件を解決に導くのである。
(なぜかこのドラマでは、『怪奇大作戦』のようなオカルトっぽい事件ばかりが起きるのである)

誰もが観ているうちに、次第にアストリッドを応援したくなるはずだ。
ラファエルと親しくなるにつれ、彼女の助けで次第に社会復帰できそうになるところも見逃せない。ちょっと同性愛っぽい感じなのも、いかにもいま風だ。
(ちなみに「ラファエル」の名は、キリスト教三大天使のひとりで、病人の守護天使の名でもある)

だが、音楽ライターのあたしが本作を紹介する理由は、他にある。
アストリッドは、バッハを愛好しているのである。

それは、昨年放映された、第1シーズン最終回「五線譜の暗号」で明確になる。
アストリッドは、なぜバッハが好きなのかをラファエルに話す(他人に自分の過去を話すこと自体、異例である)。
子供のころ、父親にバッハ《フーガの技法》を教えてもらい、好きになった。バッハには、パズル的な魅力があるので…。

そして、おなじみ怪奇事件が発生する。この最終回では、なんと、アストリッドが連続猟奇殺人犯に誘拐されてしまう。ひとに触れられることがダメな「自閉症」の、天涯孤独の女性が、拉致され、縛られて監禁されるのだ。
この回は、観るのがつらいほど、アストリッドが可哀想な目にあう。

だが、アストリッドは、ある暗号で、犯人の名を残していた。それは、バッハにまつわる暗号で、しかも《フーガの技法》とくれば、音楽ファンにはもうおわかりだろう。
だが、ここで重要なのは、彼女がバッハ好きであることを知っているのは、ラファエルだけである点だ。果たしてラファエルは、彼女のバッハ好きを思いだしてくれるだろうか(何しろ、ガサツな性格なので)。
そして、暗号を解読できるだろうか。

これが第1シーズンの最終回だった。
おそらく好評だったのだろう。5月21日から第2シーズンの放映がはじまっている。ここでは、アストリッドが後見人なしで、独立して生きていくところから物語がはじまっている。
(アストリッドの吹き替え=貫地谷しほりが、なかなかいい。「あ」と言葉が詰まるところなど、不思議な魅力がある)
本国フランスでは、平均視聴占拠率が27%に達し、第4シーズンに入っている国民番組らしい。

日曜夜11時、ぜひバッハ好きな自閉症のアストリッドに、声援をおくってあげてください。

□『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』NHKの番組HPは、こちら。現在、シーズン2を放映中。

□第1シーズンが、アマゾン・プライム・ビデオで配信中(上記、第10話「五線譜の暗号」も見られます)。ほかにU-NEXTなどでも配信されています。

15:39  |  TV  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2022.10.17 (Mon)

第365回 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の音楽

鎌倉殿の13人
▲エバンコール音楽《鎌倉殿の13人》サントラCD


 日刊ゲンダイDIGITALに、作曲家の三枝成彰氏が、気になるコラムを寄稿していた(10月8日配信)。タイトルは、「NHK大河『鎌倉殿の13人』“劇伴”への違和感…音楽にもウソが通る社会が反映される」と、挑発的である。

 内容を一部抜粋でご紹介する。
〈NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を見ていると、たびたび驚かされる。その音楽に、聞き覚えのあるメロディーが出てくるからだ。ドボルザークやビバルディなど、クラシックの名曲のメロディーである。〉
〈視聴者の受けも悪くないようで、「感動した」「大河にクラシックは素晴らしい」といった声も多いようだ。〉
〈私はどうにも違和感を禁じ得ない。これだけ引用が多いと意識的にやっていることは明らかで、「たまたま既成の曲と似てしまった」というレベルではない。もとより悪意があるはずもないのだろうが、私などは「剽窃(ひょうせつ)」だと考えてしまう。〉


 この文章は、紙幅の関係か、あるいは作曲家のエバン・コール氏に気を使っているのか、少々隔靴掻痒なので、補足しよう。
 要するに、あのドラマでは、しばしば、クラシックの有名旋律が、すこしばかり形を変えて流れるのだ(ほぼそのまま流れることもある)。ドヴォルザーク《新世界より》、バッハ《無伴奏チェロ組曲》、ヴィヴァルディ《四季》、オルフ《カルミナ・ブラーナ》……。
 原曲を知らなければ「カッコいい音楽だなあ」と感じるかもしれないが、原曲を知っていると、たしかにちょっとビックリするような”変容”が施された曲もあるのだ。
 三枝氏は、それらを「剽窃」と感じるという。そして、こう綴るのだ。

〈ここまでくると、劇伴の概念が変わったというより、社会が変わったのだと考えるしかない。ドラマ音楽のひとつにも、変質した社会の影響は必ず反映される。その変化はどこから来たのか? やはり安倍さんが総理大臣に就任して以来のことに思える。〉
〈この国のリーダーたる総理大臣が公の場で平然とウソをつき、閣僚も官僚も、臆面もなくウソをつく。文書を改ざんし、事実を隠蔽し、白を黒、黒を白だと言い張り、事実にしてしまう。/彼らは「ウソが通る社会」をつくり上げ、まがいものを本物だと堂々と言える社会にしてしまった。〉

 なんと、『鎌倉殿の13人』の音楽でクラシックが”剽窃”されているのは、安倍総理の誕生が原因だといわんばかりである。わたしは決して安倍政権時代を礼賛する気はないが、それにしたってこれは、あまりに極端な”風が吹けば桶屋が儲かる”論理ではないだろうか。
 
 わたしは、あまり熱心な大河ファンではなかったのだが、歌舞伎・文楽ファンとしては、ここまで「鎌倉」「頼朝」「義経」「北条」「曽我兄弟」といったキイワードを並べられては、さすがに観ないわけにはいかない。むかしから『炎環』『北条政子』など永井路子作品のファンだったせいもあり、今年は、ひさびさにNHKプラスで、全回を視聴している。

 そうしたところ、わたしも三枝氏同様、第1回でちょっと驚いた。クライマックス、女装した頼朝が馬で脱出するシーンに、ドヴォルザーク《新世界より》が流れたのだ。しかも、なぜか原曲ではなく、少しばかりいじってある。
 わたしは、エバン・コール氏なる作曲家をまったく知らなかったが、オープニング・テーマ(下野竜也指揮、NHK交響楽団)は、なかなかよかった。バークリー音楽院で映像音楽を学び、日本でドラマやアニメの音楽で活躍しているひとだという。

 そこで、さっそくサントラCDをじっくり聴いてみた(現在、Vol.1とVo1.2がリリース中)。そうしたところ、”変容クラシック”のオンパレードではないかと、妙な心配もあったのだが、それほどではなく、どれも魅力的な曲ばかりだった。おそらく、ドラマでは、すべてが流れていないだろう。もったいないと思わされる曲も多い。

※演奏は、ブダペスト・スコアリング交響楽団。ここは、ハンガリーの国営レーベル「HUNGAROTON」スタジオを買収したブダペスト・スコアリング社が運営するオーケストラである。指揮のペーテル・イレーニは、映像音楽の人気指揮者で、同交響楽団を指揮して、イギリスの作曲家、オリヴァー・デイヴィスの作品集などもリリースしている。

 楽曲イメージの背景には、品のいいアイリッシュやケルトの香りがある。もしかしたら、エバン・コール氏のルーツかもしれない。そこに、時折、エキゾチックな要素がからみ、西洋人の視点によるアジア(日本も中国も一緒)のムードも漂うが、決して安っぽくない。ジョン・バリーの名サントラ《ダンス・ウィズ・ウルヴズ》(米アカデミー作曲賞受賞)を思わせる響きも感じられたが、少なくとも”剽窃”とまでは思えなかった。
 
 そして、ほんの少しだが、たしかに”変容クラシック”もあった。先述のドヴォルザークや、オルフ、ヴィヴァルディなど。だが、これは、明らかに確信犯だ。原曲を熟知したうえで、音楽のお遊びをやっている。剽窃というよりはパロディではないか。過去、さんざん、ドラマやヴァラエティで手垢にまみれた泰西名曲をわざと”変容”して、おおむかしの出来事であっても、結局は、同じことが繰り返される歴史の必然性みたいなことを表現しているような気がした(時折、変えるなら、もっと大掛かりに変容してほしい曲もあるが)。
 三枝氏の文章だと、毎回、”変容クラシック”が流れているようにも読めるが、それほどではない。この程度の使用で”剽窃”といっていたら、ジョン・ウィリアムズ《スター・ウォーズ》や、ビル・コンティ《ライトスタッフ》(米アカデミー作曲賞受賞)などは、どうなってしまうのか(前者はホルストが、後者はチャイコフスキーやグラズノフが基調)。

 三枝氏には、エバン・コール氏の『鎌倉殿の13人』サントラCDも、ちゃんと聴いてほしかった。

エバン・コール作曲《鎌倉殿の13人》メイン・テーマ(下野竜也指揮、NHK交響楽団)
※オープニング映像ですが、クレジットなし。ここでしか観られない珍しいヴァージョンです。
日刊ゲンダイDIGITAL/三枝成彰の中高年革命【全文】

◆『東京佼成ウインドオーケストラ60年史』(定価:本体2,800円+税)発売中。ドキュメント部分を執筆しました。全国大型書店、ネット書店などのほか、TKWOのウェブサイトや、バンドパワー・ショップなどでも購入できます。限定出版につき、部数が限られているので、早めの購入をお薦めします。

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「Band Power」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

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2021.03.04 (Thu)

第301回 「五十代には責任がある」~ドラマ『男たちの旅路』

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▲ドラマ『男たちの旅路』DVD全5巻

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▲サントラLP(音楽:ミッキー吉野)


 最近のNHKは見逃し配信をやってくれるので、朝ドラや大河ドラマを、時々、ネット配信で観る。
 それで、いまさら思うのだが、昨今のドラマは、どこかつくりがおかしいのではないか。なにやら、こうつくれば盛り上がるとか、こんなふうにすれば話題になるといった、マニュアルみたいなものがあり、それに従ってつくっているとしか思えない。
 最初の数回で主人公の幼少時代が描かれる。不遇の環境に負けず、明るく成長する。誰もがハイテンションで、始終、叫んだり怒鳴ったりしている。
 人間の自己形成(成長)を描く小説を「ビルドゥングスロマン」と呼ぶが、昨今の大河や朝ドラがそれだと誤解されているのではないかと、不安になる。

 放送翌日には、昨夜の回が日本中で話題になっているような、宣伝ともヤラセともとれるネット・ニュースが必ず流れるのも、気持ち悪い(特に、子役をやたらと賞賛するのだが、正直いって、どのドラマでも、それほどうまいとは思えない)。
 NHKがそんな体たらくなのだから、民放ドラマなどは、語るに及ばないだろう。

 むかしのドラマは、もっとバラエティに富んでいた。
 わたしがNHKで忘れられないのは『男たちの旅路』(山田太一・脚本/1976~82年)で、全4部(計12話)+長編1話が放映された。
 あまりにも名作なので、ご存じのかたも多いだろうが、これは、太平洋戦争における特攻隊の生き残り(鶴田浩二)が、戦後社会になじめないまま、若者と衝突しながら、生真面目かつ不器用に、警備会社の管理職として生きていく物語である。

 共演者やゲストがすごかった。
 「シルバー・シート」には、志村喬、笠智衆、殿山泰司、加藤嘉、藤原鎌足、佐々木孝丸が登場する。往年の日本映画でも、これだけの老・名脇役が勢ぞろいすることはなかっただろう。
 「影の領域」では、池部良、梅宮辰夫、鶴田浩二の3人が同一画面のなかで共演する。東映ヤクザ映画ファンにはたまらない奇跡的な場面だった。
 身障者の生き方に踏み込んだ名作「車輪の一歩」では、車椅子の若者たちを、斉藤とも子、京本政樹、斎藤洋介(昨年逝去)、古尾谷雅人(2003年に自殺)らが演じていた。

 ドラマ全体が成長物語(ビルドゥングスロマン)の正反対で、後半はカタブツの鶴田浩二が若い部下(桃井かおり)に溺れてしまう。そして彼女が病死すると半ば自暴自棄になって退社、根室へ流れ、居酒屋の皿洗いに身を転じる。
 あまりの意外な展開に、この先、どうやって物語をまとめるつもりなのか、不安を覚えながら観た記憶がある。
 だが、さすがは山田太一で、ちゃんと「成長」を見せてくれる。
 その役は、部下の一人で、鶴田浩二に反発しながらも惹かれていた水谷豊が、見事に演じた。社長の命令で、わずかな手がかりをもとに、苦労の末、根室にいた鶴田浩二を探し当てた水谷豊。「ほっといてくれ」という鶴田に対し、えんえんと説教をはじめる。

 「気に入らないね」「あの頃は純粋だった(略)とか、いい事ばっかり並べて、いなくなっちまっていいんですか?」「戦争にはもっと嫌な事があったと思うね」「戦争に反対だなんて、とても言える空気じゃなかったって言ったね」「いつ頃からそういう風になって行ったか、俺はとっても聞きたいね」「そういう事、司令補まだ、なんにも言わねえじゃねえか」「そうじゃないとよ(略)、戦争ってェのは(略)案外、勇ましくて、いい事いっぱいあるのかもしれないなんて、思っちゃうよ」「それでもいいんですか? 俺は五十代の人間には責任があると思うね

 いままで、説教はすべて鶴田浩二の役目だったが、ここではついに、部下の水谷豊が説教するまでに「成長」したのだ。かくして、鶴田ありきでつくられたドラマのはずが、歴史にのこる名場面は、水谷豊がさらってしまった。

 いま、観なおしたり、シナリオを読み返すと、「五十代の人間には責任があると思うね」のセリフに胸を衝かれる。このころ、たしかに鶴田浩二は、まだ50歳代半ばだった。
 ここでいう「責任」とは、戦争を語り継ぐことの重要さみたいなことをいっているのだが、戦争の有無にかかわらず、五十代には、社会に対してある種の「責任」があるのだといっているようにも聞こえる。だから、とっくに五十代を超えてしまったわたしなどは、このドラマに戦慄すら覚える。戦争体験を題材にしていながら、いまでも通用する時代を超越したドラマだと思う。昨今のTVドラマでこんな思いに至ることは絶対にない。
 いま国会で、接待されただの忘れていただのと騒がれている50~60代の連中など、恥ずかしくて、このドラマは観られないのではないか。

 なお、このドラマの音楽は、元「ザ・ゴールデン・カップス」で、バークリー音楽院に留学~卒業・帰国直後のミッキー吉野が担当した。演奏は「ミッキー吉野グループ」となっているが、これは、実質、結成したばかりの「ゴダイゴ」である。
 アメリカ仕込みの乾いた楽想に、時折、浪花節のような抒情が混じる。そのさじ加減が絶妙で、これまたTVドラマ音楽史にのこる名スコアとなっている。
<敬称略>

※ドラマ『男たちの旅路』は、U-NEXTの配信で観ることができます。
※文中のセリフは、『山田太一セレクション 男たちの旅路』(山田太一著、里山社)より。


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 パソコンやスマホで聴けます。 内容の詳細や聴き方は、上記「BandPower」で。

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17:02  |  TV  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2019.02.19 (Tue)

第226回 ひとことで言え、大河ドラマ

なめくじ艦隊
▲これを大河ドラマにすればよかったのに。古今亭志ん生『なめくじ艦隊』(ちくま文庫)


 NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺』が、凄まじい低視聴率である。
 第1回を観たとき、「ずいぶん、ややこしい話だな」とは思ったが、ツイッター上では絶賛の嵐だった。脚本の宮藤官九郎が大人気で、「さすが、クドカン」と、みな大喜びである。
 わたしのような初老には無理らしいが、今年の大河ドラマは幸先よさそうだ……と思った。

 ところが、ツイートの中に「史上最低視聴率は確実」といった主旨の投稿があって、ひときわ、異彩を放っていた。見れば、文芸評論家・作家の小谷野敦氏である。『大河ドラマ入門』(光文社新書)を著しているほどの専門家が、そこまでハッキリ言うとは……だが果たして、事態は、そのとおりとなった(同時に、ツイッター上の声は、世論大勢でないことがはっきりした)。

 低視聴率の原因は、あれこれと挙げられているが、二点だけ、わたしなりに気づいたことがある。
 まず、最初の数回を観て、「ドラマ」ではなく、「ひな壇バラエティ」に近い感覚を覚えたこと。
 民放では、ひな壇にタレントがならんで、ビデオ映像を観ながら、言いたいことを言うバラエティが大人気である。さまざまなタレントや、文化人(っぽいひと)があらわれて、勝手なことを言い、ひとの揚げ足をとって、からかう。
 『いだてん』を観ていると、ドラマ全体が、あのバラエティの空気でできているように感じる。人物の発言や行動の「原理」ではなく、「展開」が重要なようだ。昭和30年代から明治に飛び、すぐに、その逆になる……こういったドタバタした「展開」そのものが、主役になってしまっている。
 バラエティばかり観ている若者にはいいだろうが、シニア以上にはしんどい。

 もう一点は、ドラマの内容が「ひとこと」では言えないこと。
 日曜夜8時は、三世代がそろう時間帯である。しかも全国放送だ。小難しい説明なしで、子供も老人も、ひとことで説明されてわかる話でなければならない。
 『いだてん』の場合は、ひとことで言うと「金栗四三と田畑政治の生涯を、古今亭志ん生の回想で描く」となる。だがこれでは、何が何だかわからない。金栗四三も田畑政治も、ふつうのひとは、知らない。志ん生でさえ、いまの若者は、知らない。

 そこで、もう少し説明を増やすと「日本人として明治45年に初めてオリンピックに出場したマラソン選手・金栗四三と、昭和39年の東京五輪招致に尽力した元朝日新聞記者で水泳指導者の田畑政治――この2人の生涯を、昭和の落語名人・古今亭志ん生の回想で描く」となる。それでも、多くのひとにはピンとこないだろう。「なぜこの2人なのか?」「円谷幸吉や東洋の魔女ではダメなのか?」「志ん生は、彼らと知り合いだったのか?」といった疑問がわく。ファンなら「だってクドカンは志ん生の大ファンだから」と直感するだろうが、では脚本家が近衛秀麿のファンだったら、近衛の回想になるのか(きっとすごい昭和史ドラマになるはずだが)。
 志ん生を描くなら、『なめくじ艦隊』(ちくま文庫)のような抱腹絶倒の自伝があるのだから、これをそのままドラマ化したほうが、絶対に面白い。「志ん生の生涯を描くドラマ」と、ひとことで言える。「秀吉」「信長」「家康」(の生涯を描くドラマ)みたいに。

 ここ1~2年、中公新書で戦乱日本史ものが売れている。『応仁の乱』『観応の擾乱』『承久の乱』――だが、よほど歴史に詳しいひとでないと、知らない戦乱だと思う(わたしも、応仁の乱しか、聞いたことなかった)。では、なぜ、これらは売れたのか。ひとことで内容をあらわす、うまい副題が付いていたからだ。
 「戦国時代を生んだ大乱」(応仁の乱)
 「室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い」(観応の擾乱)
 「真の『武者の世』を告げる大乱」(承久の乱)。
 これなら、わかる。

 いまはなき名コラムニスト、山本夏彦は、しばしば「ひとことで言え」「かいつまんで言え」と述べた。
「NHKは朝のニュースを八十分にすると自慢しているが心得ちがいである。むしろ短かくせよ。ひと口で言え。(略)それがジャーナリストの任務である」(「夏彦の写真コラム」週刊新潮 昭和63年4月7日号)
 この言葉を今年の大河ドラマに捧げたい。 
<敬称一部略>

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