2015.12.11 (Fri)
第133回 文楽『奥州安達原』@国立劇場
幹部出演はなしで、中堅中心。
もっとも有名な「袖萩祭文」のシーン、大夫は千歳。たいへんな熱演で、親子三代の悲劇を語ったが、私は、もう少し細い声のほうが好み。
この物語は、たいへんチマチマした、親子の悲劇が、ラスト、ものすごいスケールの時代物に変貌するところが魅力なのだが、全体的に、少々、小ぢんまりとまとまりすぎた感じがした。
それにしても、近松半二のストーリー・テラー能力には、いつもため息が出る。
前半で、次々と謎の人物やキイワードを提示しておいて、ラストでそれらが一挙に解決する手際は、大ヒットした北欧ミステリ『ミレニアム』(スティーグ・ラーソン)のよう。
『妹背山』でもそうだが、彼は、人物の対比のさせ方が、すごくうまい。シェイクスピアといい勝負だ。
もしもいま、海外のミステリ作家たちが、半二の作劇術を知ったら、絶対に参考にしただろう。
最後に『紅葉狩』がつく。
歌舞伎では何度も観てきたが、人形では初めて。
芳穂の維茂、呂勢の更科姫、とてもよかった。
維茂(一輔)が、ちょっと盃を傾けただけで酔って眠ってしまうのが、かわいい。
毎度のことながら、東京の文楽は、いつも満席。
特に最近は、希望エリアの席が買えたことがない。
今回など、最後列で、ほとんど補助席だった。
東京では、これほどの人気なのに、本場大阪では(補助金カットになるほどの)不人気。
どうにも理解できない。
(2015年12月10日所見)
◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。
◆ミステリを中心とする面白本書評なら、西野智紀さんのブログを。