2017.02.19 (Sun)
第179回 テレビをほとんど観ないので

▲日刊スポーツのスクープだったらしい。
例の「出家騒動」で、わたしは、清水富美加なるタレントを初めて知った。
そのことを周囲に話すと、2~3人、「わたしも知らなかった」と言うひとがいた(すべてわたしと同年配の中高年だが)。
わたしと彼らに共通しているのは「テレビをほとんど観ない」点である。
だから清水富美加なんて、知りようがないのである。
では、「テレビを観ない」で、何を観て(聴いて)いるのか。
朝は、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(6:30~8:30)を聴く。
森本毅郎氏には、週刊誌のデスクを思わせる雰囲気がある。
誰もが妙に感じている話題を、担当記者に質問しながら、うまく解きほぐしてくれるようなイメージがある。
そのバランス感覚は、池上彰氏ほど説明しすぎず、佐藤優氏ほど本格的すぎず、見事に中庸を行っている。
朝、蒲団の中で聴いていると、この「中庸」感覚が心地よく、次第に頭脳が覚醒していく。
若いころは、朝、テレビのワイドショーを観ていたが、あれは「中庸」ではなく、「押しつけ」である。
毎朝、やかましい話題を無理やり押しつけられると、思考停止して疲れてしまう。
そもそも、朝、目覚めてすぐに、目と耳の両方をフル回転させるのは無理がある。
「森本毅郎・スタンバイ!」は、数年前まで、本の情報に力を入れており、書評家の岡崎武志氏、目黒孝二氏、詩人の荒川洋治氏などがレギュラーだったのだが、すべてなくなってしまったのが残念だ。
わたしがかかわった本も、ずいぶんと紹介していただいたものだ。
この番組が終わると、電車で新聞を読みながら、仕事場に向かう。
昨年3月までは、8時半からのTBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」の冒頭部を聴いてから家を出たのだが、残念ながら終了してしまった。
後継番組はどうもわたしには合わないので、聴かなくなった。
仕事場に着いてパソコンを起動させたら、クラシック専門のインターネット・ラジオ局「OTTAVA」を流しっぱなしにする。
午前中は、ゲレン大嶋氏(三線奏者)の、男でも嫉妬したくなるような爽やかな声の案内でクラシックが流れている。
午後は、林田直樹、斉藤茂、本田聖嗣各氏の、なかなか突っ込んだ解説でクラシックが流れる。
本田聖嗣氏はピアニストだがたいへんな博識で、音楽よりも、話のほうが長いんじゃないかと思うくらい、いつまでもしゃべっている。
時々、息が切れて、ハアハア言っている感じが伝わってくる。
わたしも素人ながらラジオでしゃべっているので、他人事とは思えない。
OTTAVAで、聴いたことのない作曲家や楽曲が登場すると、あわてて、NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に飛んで、再確認する。
NMLは、ストリーミングの、会員制CD聴き放題サイトである(現在、786レーベル、約10万枚のCDがストックされている)。
OTTAVAはナクソスが運営しているので、使用CDの大半は、ナクソス盤である。
NMLに行くと、時折、泥沼にはまり込んで、出られなくなる。
以前、ショスタコーヴィチの交響曲第10番を聴こうとしたら、30数枚の同曲異演CDがあって(いまはもっと増えている)、最初の2枚で第2楽章を聴き比べてみたら、あまりに面白くて、結局、全部のCDの第2楽章を聴き通してしまったことがある。
その日は妙に興奮して、仕事が手につかなかったものだ。
最近では「祝!直木賞受賞! 著者・恩田陸さん監修『蜜蜂と遠雷』登場楽曲プレイリスト」なる企画も展開されている。
昼間は、そんなふうにOTTAVAやNMLを聴きながら仕事をしているが、時折、YAHOOニュースやツイッターを覗く。
インターネットTV局「AbemaTV」のニュースを観ることもある。
火災などが発生すると、ヘリコプターからのライブ中継をえんえんと流しており、不謹慎ながら、つい見入ってしまう。
時々、全国各地のコミュニティFMを聴く(パソコンやスマホで、「サイマルラジオ」「リッスンラジオ」経由で聴ける)。
自分の番組が放送されている「FMカオン」「調布FM」はもちろん、選曲センスがいい「FM軽井沢」や「FMうるま」、あるいは、地元CMが楽しい「FMいしがきサンサンラジオ」などを聴く。
夜は、仕事柄、映画か芝居かコンサートか書店めぐりが多い。
そして、安酒場で夕食をかねてイッパイやる。
呑みながら、複数の全国紙夕刊を読む。
いまの全国紙夕刊は、事実上、カルチャー情報紙なので、わたしのような職業のものには、ネタの宝庫である。
あまり酔いがまわっていなければ、呑みながら本を読む。
すると時折、近くの客から「よく酒を呑みながら、本が読めますね。頭に入りますか」と訊かれる。
酒場で本を読んでいるひとなど、いくらでもいる。
ただし、「呑み読み」に向いている本と、向いてない本がある。
『酒場のカウンターでイッパイやりながら読んでもちゃんと頭に入る本ベスト50』なんてガイドブックがあったらいいのに――なんて、ときどき考える。
スマホ+イヤフォンで音楽を聴きながら呑むこともある。
わたしの場合、デュファイやフォン・ビンゲン、ジョスカン・デ・プレといった「思い切り古い音楽」か、ライヒ、グラス、クセナキスなどの「思い切り新しい(なるべくミニマルの)音楽」が、「呑み聴き」に合う。
こういうときもNMLの出番で、酒場に10万枚のプライベートCD棚があるようなものである。
帰宅したら、TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」(22:00~23:55)か、NHKラジオ第1「ラジオ深夜便」(23:15~)を聴きながら寝る。
もう疲れているので、朝とは別の意味で、「目と耳の両方を使う」のはシンドイのである。
余談だが、昨年、妻子のいる荻上チキ氏に愛人がおり、まるで「一夫多妻」状態だったことを週刊文春が報じた。
ところが、テレビのワイドショーは、ほとんど取り上げなかった(と、知人が言っていた)。
もしやこの荻上チキ氏は、例のB系事務所なのかと思いきや、なんと、ワイドショーのスタッフたちは「荻上チキなんて、知らない」「ラジオのひとだから、ニュースにならない」と判断したというのである(と、知人が言っていた)。
ラジオとは、それほど狭い世界らしいのだ。
しかしとにかく、こんな生活をしているので、テレビを観ている余裕は、あまりないのである。
だから清水富美加なんて、知りようがないのである。
<一部敬称略>
◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。
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