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2017.05.10 (Wed)

第184回 ナクソス30周年記念ボックス

ナクソス
▲ナクソス30周年記念ボックス(CD30枚組セット)

 約20年前、ある音楽雑誌を起ち上げた際、真っ先に飛んできてくれたレコード会社が2社あった。
 どちらも、雑誌の詳しい内容も聞かず、広告の年間出稿を申し出てくれた。
 うれしくて涙が出た。
 そのうちの1社が、ナクソス・ジャパンである(正確には、当時の日本総代理店「アイヴィ」)。

 あるとき、同社のN社長から、1枚のFaxを見せられたことがある。
 レコード業界団体から小売店に発信されたらしい文書で、「最近、香港で製作された安価なCDが大量に輸入されているので、扱いに注意してほしい」といった主旨だった。
 明らかにナクソスを指していると思われた。
 うろ覚えだが、「海賊盤」、もしくはそれに近いニュアンスの用語が使われていた記憶がある。
 N社長は、そのFaxを握りしめながら、「ナクソスは海賊盤ではありません。全部、自前の正規新録音です」「演奏者は無名かもしれませんが、内容には自信があります」「日本のレコード業界は輸入盤を頑なに拒否する。まるで鎖国ですよ」と、目を赤くさせながら述べたのを、いまでも覚えている。
 確かに1枚1,000円で、古今東西のクラシック音楽を音盤化しようとするナクソスは、当時、雑駁な廉価盤CDと同一視されていたことは否めない(現在は1,200円前後)。
 しかも、日本のレコード店は、まだまだ国内盤重視で、「レコード芸術」誌でも、輸入盤は本格的に取り上げられていなかった(そこで、「タワー・レコード」「HMV」「WAVE」などが隆盛を誇ることになる)。

 そのナクソスが創業30年を期して、30枚入りの記念ボックス・セットを発売した。
 価格は3,490円(税込)、なんと1枚あたり「116円」である(楽天市場内、ナクソス・ミュージック・ストアでの価格)。
 内容は新録音ではなく、既発の名盤集で、紙ケース入りの軽装仕様である。
 だが、そのラインナップを眺めると、相応の感慨を抱かざるをえない。

 ナクソスが世界的に認知されるきっかけとなったディスクはいくつかあるが、その一つが、コダーイ・クァルテットによる、ハイドンの弦楽四重奏曲全集だった(BOXセットには、第4~6番=1989年録音=を収録)。
 ゲオルク・ティントナーのブルックナーは、廉価盤のイメージをすっかり変えた(第5番=1996年録音を収録)。
 ドアティの《メトロポリス・シンフォニー》は、グラミー賞で3部門を受賞した名盤である(ジャンカルロ・ゲレーロ指揮、ナッシュヴィル交響楽団=2007年録音)。
 マリン・オルソップは、2007年、ボルティモア交響楽団に、アメリカ・メジャー・オーケストラ初の女性音楽監督として就任するや、ナクソスでのリリースを開始し、レーベルの「顔」となった(ドヴォルザーク《新世界より》=2007年録音を収録)。
 アントニ・ヴィト指揮、グレツキの交響曲第3番《悲歌のシンフォニ―》もおさめられているが、「1993年録音」とあって、ずいぶん初期のラインナップだったのだ。
 ピアニスト、イェネ・ヤンドーは、ベートーヴェンの《悲愴》《月光》《熱情》が収録されているが、これなども1987年の収録で、レーベル発足当初から活躍していたことがわかる。

 今回のボックス・セットに収録されていないものの、個人的に忘れがたいディスクも数多くある。
 たとえば佐渡裕&コンセール・ラムルーによるイベール作品集(1996年録音)。
 カリンニコフの交響曲を定着させた功績も大きい。
 「日本作曲家選輯」シリーズについては、いうまでもないだろう。
 わたしのような吹奏楽ファンにとって、もはや執念としか思えない、スーザ吹奏楽作品集シリーズ(2001年~)や、Wind Band Classicsシリーズは、ネタの宝庫である。

 ナクソスは、その後、音楽配信事業に進出し、「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」で、他社も含めて10万枚のCDが聴き放題のサービスを開始している。
 これによって、わたしたちのクラシック音源への接し方は、大きく変わった。
 近年は、優勝すると、ナクソスでのCDデビューが付帯する国際コンクールもあるらしい。

 ところで……。
 その後、わたしが起ち上げた音楽雑誌は鳴かず飛ばず、短命に終わり、スポンサー各社にもご迷惑をかけてしまった。
 先述の「真っ先に飛んできてくれた」もう1社のレコード会社とは、いまはなき、東芝EMIクラシックスである。
 残念ながら、その後、他社に吸収され、現在、クラシック音源はワーナーに移譲されている。
 そのワーナーの音源が「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」で配信されている。
 つまり、マリア・カラスや、一時期のカラヤンなど旧EMIの音源を、ワーナー音源として、30年を迎えたナクソスで聴くのである。
 「相応の感慨」と言いたくなるのも、ご理解いただけると思う。
 <敬称略>

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