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2018.08.17 (Fri)

第204回 東京都高等学校 吹奏楽コンクール

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▲コンクールのプログラム500円。
入場料は、A組4日間を全部聴くと9,600円
(当日1,200円×8枚。1日が前半・後半2部制なので)。
交通費とあわせると、けっこうな出費である…。


 毎年8月は、東京都高等学校吹奏楽コンクールのA組(いわゆる東京大会予選)を聴きに行く。今年も府中の森芸術劇場で、朝から夕刻まで、4日間、全75団体を聴いた(他部門もあわせると、6日間でのべ300団体弱が演奏する)。
 若いころは、ほかの部門や、近県の大会にも行き、ひと夏で200団体ほど聴いていたのだが、さすがに還暦ともなるとしんどく、ここ数年は東京の高校A組だけに通っている。だが、わたしなど道楽だから、まだいい。審査員はわたしのように、疲れたからといってウトウトすることもできない。まことにたいへんな仕事だと思う。

 作曲家の故・岩井直溥さんに、昔のコンクール審査についてうかがったことがある。
「地方予選に行くと、演奏中に船をこぎはじめ、終わるとハッと目が覚める審査員がよくいたよ。そして、隣りのボクに小声で『すいません。いまの演奏、どうでしたか』と聞いてくる。そんな時代でしたよ」
 というのも、往時のコンクール進行は、かなり荒っぽかったようで、
「1980年代あたりは、地方によっては、まともな休憩もなく1日中ぶっつづけで演奏・審査をやる予選があったんだ。全部終わるともう外は真っ暗。参加団体が急速に増えた時期だったからね。でも演奏するほうは12分で終わるからいいけど、審査員はそうはいかない。昼休みもないんだよ。昼食は、席に弁当がとどいて、その場で大急ぎで食べさせられる。トイレに行きたくなったら、演奏団体の入れ替わり中に走って行ってこいという。いまのようないいホールが少ない時代だったから、狭い会場で、1日中、爆音を聴いていると、頭の芯がボーッとしてくる。座席も小さくて、尻も腰も痛くなってくる。いまでいう、エコノミー症候群だね。あれじゃあ、白河夜船も無理ないよ」
 1970年代前半は戦後第2次ベビーブームで、毎年200万人以上の赤ちゃんが生まれていた。この子たちが、1980年代に中高生となり、続々と吹奏楽部が誕生した、そんな時代の話である(ちなみに昨年の出生数は約95万人)。

 わたしは、昨年、3日目に突発性難聴を発症した。ただし爆音による外傷性ではなく、ストレスと体調不良によるものだったらしい(突発性難聴は、ほとんど原因不明)。その後、聴力は回復したが、耳鳴りや耳づまり感は、完治していない。
 こんな道楽者でさえ、そんな目にあうのだから、審査員は何をかいわんやだ。それでも、現在の東京A組の場合、ほぼ5団体ごとに15分の休憩が入り、昼休みもちゃんとあるので、上述の岩井体験談のようなことは、まずない(と思う)。

 以前、『一音入魂! 全日本吹奏楽コンクール名曲名演50』正続(河出書房新社)の編集執筆に参加した際、作曲家の故・真島俊夫さんに、コラム「審査員にも言わせてほしい」を寄稿していただいた。各地でコンクール審査員をつとめてこられた経験から、本音を聞かせてほしいとお願いした。ここで真島さんは、こんなことを書いている(部分抜粋)。
「なぜ、そんなきつい思いをしてまで、審査員を引き受けるのか。まず第一に、楽譜を書く立場の人間として、大多数のバンドの現状レベルを知っておきたいという気持ちがある。そしてもうひとつ――この十数年間の審査中に思わず涙ぐんでしまった演奏が三つあった。まさに忘れ得ぬ思い出だ。審査員は、肉体的にも精神的にも、そして金銭的にもつらい仕事だが、僕が引き受ける理由の一つはここにある。またいつか、あのような感動的な演奏に出会えるかも知れない……そんな期待を抱きながら、僕は審査員をつづけてきたのである」
 わたしがヒイコラいってコンクールに通うのも、これが理由だ。一応、音楽ライターなんて名乗っている以上、予選を全部聴いて、今年の選曲傾向や、人気作曲家、演奏レベルなどを知っておきたい(上位の東京支部大会になるとレベルが高すぎて、全容平均がわからない)。そして、今年もまことに素晴らしい演奏に出会えた。あれが聴けただけで、4日間通った甲斐があったというものだ。
 あと何年通えるかなと思いながら、最終日、雷鳴と豪雨の中、びしょ濡れになりながら、東府中駅に向かって歩いた。


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