2020.07.27 (Mon)
第289回 市松模様

▲静まり返る、千駄ヶ谷駅前の「東京体育館」。
東京五輪で卓球の会場になるはずだった。
7月21日、東京・千駄ヶ谷にある国立能楽堂へ行った。
日本芸術文化振興会が運営する6つの国立劇場(国立劇場、新国立劇場、国立演芸場、国立能楽堂、国立文楽劇場、国立劇場おきなわ)のなかで、比較的早く、主催公演を再開させたようなので、どんなふうに上演しているのか、気になったのだ。
ひさしぶりで、JRの千駄ヶ谷駅に降りて驚いた。少々薄暗かった駅舎が、ピカピカに改装されていた。
ここは、国立競技場の最寄り駅なのだ。
能楽堂に着くと、入り口で検温、手の消毒。
場内スタッフは、全員、マスク、フェイスガード、手袋を着用。
座席配置は映画館などと同様、市松模様で、最前列は売り出しナシ。
謡は覆面を着用。
公演中もドアは開け放し。庭に通じるガラスドアも全開放で、廊下には扇風機が置かれ、随所で蚊取り線香が炊かれている。外気や蚊取り線香の香りが微かに客席に流れ込んできて、なんとなく「薪能」の気分である。
ふと見ると、前の座席の背もたれにある「字幕表示機」が、一新されていた。前は、たしかボタンで操作していたが、いまはタッチパネル式で、なんと「6か国語」が表示できるようになっている。
終演後は「密」防止のため、正面→脇正面→中正面の順で、スタッフの指示に従って客席を出る。
上演されたのは「国立能楽堂ショーケース」と題するもので、解説20分+狂言《萩大名》和泉流30分+休憩+能《猩々》金春流30分。計90分強で終了する、ミニ入門公演である。従来の普及公演ともちがう新しいスタイルで、明らかに外国人向けに構成されていた(口頭解説でも、ほぼ同じ内容の外国語字幕が出る)。
チラシを見ると、7月20~26日にかけて、3種6公演の「ショーケース」がある。いうまでもなく、オリンピック開会に合わせた企画だったのだ。
終演後、千駄ヶ谷駅に向かってトボトボと歩く。新型コロナ禍とあって、ひとの気配もまばらだ。
駅の真向かいにある東京体育館は、本来、オリンピック/卓球の会場だった。おそらく、そのための一部改修が行われたようだが、それも中止になったのか、白壁に囲まれて立ち入り禁止となり、静まり返っていた。
夜なので見えないが、その向こうに、国立競技場があるはずだ。
本来なら、このあたりは、いまごろ、世界中から来た観光客や五輪関係者で、ごった返しているはずだった。もちろん、国立能楽堂で「ショーケース」を堪能する外国人もいただろう。
そういえば、東京五輪2020のエンブレムマークも市松模様だったなあと思いながら、ガラ空きのJRに乗って帰った。
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