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2020.08.07 (Fri)

第290回 「非常勤」はつらいよ

リモート写真
▲リモート体制のパソコン


 こんなわたしでも、もう20年近く、大学で非常勤講師なんてことをやっている。もちろん、今年度の前期は、他の多くの大学同様、登校禁止なので、リモート(遠隔)授業である。

 リモート授業には、ほぼ3種類ある。
【A】オンライン授業……Zoomなどで教員と学生をつなぐ、リアルタイム授業。
【B】オンデマンド授業……動画授業を、YOUTUBEなどで配信。学生は好きな時間に受講(視聴)する。
【C】課題送付授業……授業内容を、レジュメもしくはパワーポイント画像などで送信し、学生はそれを見る(読む)。

 どのシステムでも、毎回「課題」を提出し、双方向的な授業にするよう、大学側から強くいわれている。しかも、たとえば「事前学習30分」「オンライン/オンデマンド授業30分」「課題作成30分」などにして、90分の対面授業と同格にしろという(学生からの「学費減免」要求を退ける理由のひとつにするためもありそうだ)。

 課題などのやりとりは、Googleがクラウド上に公開している教育システム「Classroom」を使う。ここに、わたしの教室を開設し、出欠確認や資料配布、課題提出・返却・単純採点などをおこなう。アンケートや、リアクション(感想や質問)なども、自動的に整理してグラフ化してくれる。さすがは、機能優先のアメリカ産システムだと感心するが、肝心の“動画作成”は、一筋縄ではいかない。

 わたしの場合、上記【B】のオンデマンド授業なので、ワンテーマ15~20分の動画をZoomで3本作成し、YOUTUBEで限定配信している(パソコンで長時間動画を集中して観るのは苦行なうえ、収録後の編集がたいへんなので、3本に分けている)。
 わたしは、昼間は本業があるので、作業は、帰宅後、深夜におこなう。
 動画は、本来の時間割りに合わせ、(土)午前中に配信している。そのためには、まず(水)夜までに資料を収集整理し、PDFやパワーポイントなどに加工する(約2時間)。
 それらを事前学習用の資料にまとめ、(木)昼に学生に送付。夜に撮影収録と編集をおこなう。リハーサルというほど大げさなことはやらないが、それでも、ざっと一度通してから撮影し、出力して編集する(約2~3時間)。
 よく「休日にやればいいのに」といわれるが、私の授業では、直近のニュース解説があるので、(土)(日)に撮影収録したのでは、配信まで1週間空いてしまい、最新情報を盛り込めない。だから(木)深夜の収録がギリギリのリミットなのである。
 そして(金)昼にYOUTUBEへのアップ作業(約1時間)、リンクURLを学生に送付……要するに、3日がかりだ。
 これとは別に、毎日、上記「Classroom」で、課題の出題・提出やリアクション収集、質問への回答などをおこなう。

 最初のうちは、初めての体験で、それなりに新鮮だった(ひとりでブツブツ話しているので、家人が不審に思い、のぞきに来た)。だが、さすがにこの作業が10週を超えた頃には、目はショボショボ、腰はガクガク、悲鳴をあげはじめた。先述のように、わたしは専任教員ではないので、本業を終え、帰宅後に深夜作業でこなすしかない。もう、ヘトヘトだ。休日にウォーキングに出る気力もなくなった。

 出費も想像以上だった。パソコン内蔵のカメラやマイクでは、鮮明な映像・音声にならないので、Webカメラやピンマイク、動画編集ソフト、最新型のプリンタも購入した。
 さらに、部屋のエアコンが古くてガタついており、まさか汗だくハダカで動画に出演するわけにもいかないので、無理して買い替えた。
 世知辛いことをいえば、連日の深夜作業における電気代や通信代も、バカにならない。
 これで「1カ月の講師料」は、いままで同様、「東京~新大阪の新幹線指定席・往復代」とほぼ同額なのだから、泣けてくる。

 学生も、朝から晩まで、室内で黙々とパソコンに向かって動画を観たり、課題を送ったりで、これでは神経をすり減らして当然だ。しかも、学食も図書館も使えないのだ。
 わたしの授業は2年生以上の履修だからまだいいが、新入学の1年生は気の毒だ。彼らは、まだ一歩も大学構内へ入ったこともなく、同級生や教員の顔も、直接に見ていない。「学費を減免してほしい」といいたくなる気持ちもわかる。

 ところが、新聞などでは、このリモート授業がコロナ禍で定着し、しかも、なかなかいいものであるかのような論調が、チラホラと目につく(特に小中高の先生の多くは、リモート授業を賞賛している)。これからの時代は、対面授業とリモート授業を組み合わせることが重要らしいのだ。
 だが、喜ばしく思っているのは、「専任教員」である。彼らは、これが「本業」だ。しかし「非常勤」は、本業の合間にこなしているのである。たとえば、わたしの勤務校には、約400人の非常勤講師がいる。わたしは1校のみだからいいが、多くの講師は、複数の大学をかけもちしているはずだ。彼らの労苦は、想像するだにゾッとする。

 小中高は、どこも学校ぐるみでリモート・システムに取り組んでいる。だが、(少なくともわたしの勤務する)大学では、そうではない。春に、簡単な説明レジュメが送られてきただけだ。しかも、その中身は、YOUTUBEで山ほど公開されている「動画の作り方」「Zoomを使った授業方法」といったガイド動画の存在を示唆し、あとはそれを見て自由にやれといわんばかりである。
 そういえば、いま、この非常時に、事務局は夏休みで閉まるという。前期授業は、(GW明けから始まったので)8月末までつづいているというのに、なんとも浮世離れしたありさまだ。

 昨年度までは、毎週、教員控え室で、語学カセットテープ&ラジカセの準備をしている外国人の老婦人講師と一緒だった。彼女は、果たして、このリモート授業をこなせているのだろうか。
 そんなことを考えていたら、昨日、大学から「Classroom」経由で通知が来た。
 後期も、このままリモート授業で通す旨が、サラリと、当然のことであるかのように書かれていた。
 妙な表現だと思っていたコトバ「心が折れる」を、初めて実感した。

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

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