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2021.03.15 (Mon)

第304回 合唱で聴きたい~よみがえる岡林信康

岡林
▲23年ぶりの新曲アルバム『復活の朝』


 岡林信康(1946~)が新アルバム『復活の朝』(FUJI)をリリースした。ライヴ盤などを別にすれば、23年ぶりの新曲アルバムだという。これがとてもいい内容だったので、ご紹介したい。

 岡林信康といえば、1960年代後半~70年代にかけて、《山谷ブルース》《友よ》《手紙》《チューリップのアップリケ》《流れ者》といった、社会の矛盾や不公正を衝くプロテスト・ソングで知られるシンガー・ソング・ライターだ。“フォークの神様”とも称されていた。
 いままでに10社前後のレコード会社を渡り歩き、そのたびに新しいジャンルに挑んできた。あるときなど、ド演歌の世界に入り込み、西川峰子や美空ひばりに楽曲を提供した。かと思えば、TV時代劇のエンディング・テーマを歌ったこともある。ボブ・ディランを彷彿とさせる作風だった時期もあった。

 そんなカメレオンぶりのせいで、ずっと追いかけてきたファンを別とすれば、一般には、名前こそ有名だが、一筋縄ではいかない、不思議な存在だったのではないだろうか。
 特に、ある時期から農耕生活に入ったため、引退したと思っているひともいるかもしれない。だが、ライヴ・コンサートはずっと続けてきた。

 岡林のウェブサイトで、今回のアルバム製作の過程を、編曲・ピアノなどを担当した加藤実が綴っている。
 コロナ禍で出歩きにくくなった昨年、岡林から、加藤のもとへ音源が送られてきた。ギターを弾きながら歌われた新曲が3曲入っていた。「これにピアノなど、他の楽器を重ねてほしい」とのことだった。
 さっそく加藤が音を重ねて返送すると、たいへん気に入ったようで、その後も新曲が続々と送られてきて、結局、CD化することとなった。
 加藤は、こう書いている。
「今回のレコーディングは、対面をせずに音源のやり取りだけでアルバムを制作するという、コロナ禍ならではのやり方で、自分にとっても初めての試みでした」
 
 アルバムは、以下9曲で構成されている。
1)復活の朝、2)蟬しぐれ今は消え、3)コロナで会えなくなってから、4)恋と愛のセレナーデ、5)お坊ちゃまブルース、6)アドルフ、7)BAD JOKE、8)冬色の調べ、9)友よ、この旅を

 《お坊ちゃまブルース》や、《アドルフ》などは、いかにも往年の岡林ブシを思わせる反骨ぶりでうれしくなる。環境破壊を憂える《復活の朝》や、名曲《友よ》のアンサー・ソング《友よ、この旅を》も素晴らしい。
 どの曲もメロディ・ラインが美しい。むかしから岡林は、反戦歌手である以前に、稀代のメロディ・メーカーだった。声も74歳とは思えないほどしっかりした声質で、高音も十分に出ている。前出の加藤実は、こう綴っている。
「デジタルピアノは岡林さんの世界に溶け込まないんです。アコースティックに差し替えると落ち着くんですよね。デジタルは岡林さんの詩、曲、声、の持っている力に負けてしまうんでしょうか」

 わたしは、《蟬しぐれ今は消え》に、特に感動した。
 これは、路上で見かけた蝉の抜け殻をモチーフに人生を振り返るバラード曲だが、旋律の美しさでは、9曲中、群れを抜くレベルである。詩も見事、編曲もシンプルできれいだ。
 わたしは、なんとしても、ぜひ、絶対に、お願いだから、この曲を合唱曲に編曲して、若者にうたってほしい(おとながうたうと、生々しくて、よくない)。朝コン〈全日本合唱コンクール〉か、Nコン〈NHK 全国学校音楽コンクール〉でうたってほしい。できれば、朝コンの金賞常連校、「黎明トーン」で知られる福島県立安積黎明高等学校合唱団で聴きたい。合唱王国にして被災地でもある福島への慰撫にもなるはずだ。
 できれば編曲は、「信」の字つながりで、信長貴富さんにお願いしたい。《若者たち~昭和歌謡に見る4つの群像》で、《戦争を知らない子供たち》や《ヨイトマケの唄》を合唱曲に編曲している信長さんなら、きっといいスコアにしてくれるはずだ。

 ……などと勝手なことを述べたが、《友よ》は、むかし、音楽の教科書にも載っていた。中学生のころ、キャンプ・ファイヤーでうたった記憶もある。岡林ブシは、みんなでうたうと気持ちがひとつになる。そもそも岡林信康は牧師の息子で、若いころはキリスト教信者だったのだ。
 この状況下、もうオリンピックなどやめて、国立競技場で岡林信康コンサートをやるほうが、よっぽど五輪精神にかなうのではないか。
<一部敬称略>

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