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2023.12.05 (Tue)

第437回 【映画】「音楽と政治」を描く、3本のドキュメンタリ映画(上)

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▲第18回難民映画祭 ※HPや予告編は文末に。

「音楽と政治」にまつわるドキュメンタリ映画を、たまたま3本つづけて観たので、簡単にご紹介しておきたい。最初の2本は、この11月、第18回難民映画祭で上映され、すでに終了しているが、最後の1本(次回紹介)は、現在、YOUTUBEで無料公開されており、いつでも視聴できる。

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まず、最初の2本を上映した「難民映画祭」について。これは、国連UNHCR協会(UNHCR=国連難民高等弁務官事務所の活動を支える日本の公式支援窓口)の主催。難民を扱った海外の劇映画やTVドラマ、ドキュメント映像の特集上映である。今年で第18回になる。入場無料のドネーション方式(任意の寄附)で、ほとんどが日本初公開。全作、日本語字幕付きである。

あたしは最初期から参加しているが、当初は毎回20本以上の作品が一挙上映される、巨大な催しだった。それほど海外では「難民」にまつわるTVドラマや劇映画、記録映像がつくられているのだ。

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▲第8回(2013年)に上映された『脱出』

なかでも、第8回(2013年)で上映されたオランダ映画『脱出』(EXIT/ボリス・パヴァル・コーネン監督)は、あたしがここ10年余の間に観た外国映画のなかで、何本かの指に入る衝撃度だった。もとはTV作品で、オランダ映画祭で最優秀TVドラマ賞を受賞している。ヨーロッパでは、このレベルのドラマを平然とTVで放映しているのかと、仰天したものだ。だが、これまた述べだすと遠回りになるので、これぎりに。

そんな難民映画祭も、コロナ禍以降は上映作品数も減り、ドキュメンタリを中心に劇場公開よりもオンライン上映に傾注するようになった。それでも本年も、6作品が上映された。そのうちの2本が、音楽にまつわるドキュメンタリだった(あたしは2本ともオンラインで観た)。

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◆ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦(¡Viva Maestro! /Ted Braun監督、2022年) 
※日本初公開(海外DVDあり。Prime Video配信はあるが、日本では視聴できないようだ)

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いまもっとも人気のあるベネズエラ出身の指揮者、グスターボ・ドゥダメルに密着取材。手間と時間と多くのカメラを駆使し、世界中をまわって撮影・制作された、たいへんな労作である。

ドゥダメルは、ロサンゼルス・フィル音楽監督のほか、2017年にはウィーン・フィルのニュー・イヤー・コンサートに登壇。ベルリン・フィルも指揮している大スターである。ベネズエラ政府が支援する音楽教育プログラム「エル・システマ」出身。貧困や麻薬、犯罪から子供たちを守るシステムでもある。ここから育った若者たちで結成されたのが、シモン・ボリバル交響楽団。ドゥダメルが音楽監督をつとめ、いまやDeutsche Grammophonと専属契約を結ぶほどの人気オーケストラに成長させた。

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▲シモン・ボリバル響を指揮するドゥダメル(ロンドン公演) 【写真:Wikimedia Commons】

この映画は、おおむね3部構成。第1部は、2017年、シモン・ボリバル響がドイツ・ハンブルクで、ベートーヴェン交響曲全曲演奏会に挑む様子。出発前のリハーサルで、どうしても《運命》冒頭部が揃わない。必死に口と身振りで説明するドゥダメル。日本の高校吹奏楽部の熱血練習にそっくりである。だがその真摯な教え方は、なかなか感動的だ。

そしてハンブルクでの本番。ここで見事にそろう冒頭部には、驚く。どれくらいの練習期間があったのか不明だが、映画は、まずここを見せて、ドゥダメルの指揮者としての力量や、母国の若者たちから慕われている様子をうまく説明してくれる。

中間では、ベネズエラが国情不安となり、団員が次々と国外へ逃れ、欠員が増えていく様子が描かれる。アメリカ・ツアーもアジア・ツアーも中止となった。

そして最終部。ドゥダメル自身が母国の政策に反旗を翻す発言を連発し、そのため、自身も帰国できなくなる。

2018年、エル・システマの創始者で恩師ホセ・アントニオ・アブレウが逝去する。チリのサンティアゴで追悼コンサートを開催することになった。だが、もはやシモン・ボリバル響だけでは人数が足りない。すると、ドゥダメルが指揮してきた世界中の一流オーケストラから助っ人が駆けつけてくる。ロス・フィル、ウィーン・フィル、エーテボリ響……ベルリン・フィルからは、大人気ホルン奏者、サラ・ウィリスが来てくれた。曲は、アブレウ先生が好きだった、チャイコフスキーの4番。ドゥダメルは、数少なくなったシモン・ボリバル響のメンバーに「残ってくれて、ありがとう」と頭を下げる。

政治に翻弄されながらも、とにかく音楽を貫こうとするひとたちの姿を描いて、静かな感動を呼ぶドキュメンタリである。
  
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◆私は歌う ~アフガン女性たちの闘い~(And Still I Sing /Fazila Amiri 監督、2022年) 
※日本初公開

私は歌う

アフガニスタンの人気オーディションTV番組「アフガン・スター」は、過去13シーズン、一度も女性の優勝者が出ていない。イスラム社会では、女性がこのような番組に出て目立つことを嫌う。この番組を縦軸に、初の優勝に挑む2人の若い女性と、審査員で国民的人気歌手アリアナ・サイードの姿を横軸にして、米軍撤退やタリバン政権に翻弄される女性たちの姿を描く。

アリアナ
▲アフガンの「戦う女性歌手」アリアナ・サイード  【写真:Wikimedia Commons】

アリアナはイスラム社会の女性差別と戦う活動家でもある。ヒジャブも着用せず、ボディラインの出る服を、平気で着る。その生き方に憧れる女性も多い。かつてタリバン政権時代に処刑場だったスタジアムでコンサートを開こうとするのだが……。

番組に挑む2人は、勝ち抜くことができるのか。アリアナはコンサートを開けるのか。まるでサスペンス映画のような展開だが、ついに米軍の撤退が始まってしまう。タリバン政権が復活するのか……?

アフガンの「スター誕生!」を追うことで、この国の問題点を描いた、その着眼点に感心させられる。アフガンに、ここまで“戦う女性たち”がいることも新鮮だった。彼女らの生き生きとした姿、美しいファッション、魅力的な音楽……見どころ聴きどころ満載のドキュメンタリである。

上記2本とも、いま日本ではすぐに観ることはできない。ミニシアターでいいので、一般公開してくれないものだろうか。なお、もう1本は、現在、YOUTUBEで正式に公開されている作品である。
(つづく)

◇第18回難民映画祭HPは、こちら。
◇『ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦』予告編は、こちら。
◇『私は歌う ~アフガン女性たちの闘い~』予告編は、こちら。


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