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2016.01.18 (Mon)

第143回 文楽 八代豊竹嶋大夫引退披露狂言

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 国立文楽劇場、昼の第1部は、八代豊竹嶋大夫の引退披露狂言『関取千両幟』(猪名川内~相撲場)。
 昨年10月に人間国宝に認定され、最初の本格的舞台が引退興行とは。

 かつて、ふっくらとしていた顔も、さすがに83歳の高齢とあって、すっかり痩せて一回り小さくなった。
 あの、顔中から汗を噴き出させ、真っ赤になって語る様子も、今ではもう見られない。
 だが、鼻にかかった高音の美声は十分健在で、若いころのジュゼッペ・ディ・ステーファノのようなこの声がもう聴けなくなるのかと思うと、感慨を覚えた。

 掛け合い上演につき、嶋大夫は、猪名川女房「おとわ」を演じるのみ。
 よって、ほんの少ししか聴きどころがなく、その点では、いささか寂しかった。
(そもそも、一人で切場を全部語れるほどのパワーがあるのなら、引退など考えないはずで、「そろそろ限界だ」と感じたからこそ引退するのである。だから、こういう形になるのも無理はない)

 だが、三味線を名コンビ・寛治が付き合い、「おとわ」を遣うのが蓑助
 つまり「人間国宝トリオ」である。
 その上、門弟勢揃いによる掛け合いだったので、たいへん賑やかで、華々しい一幕だった。

 上演前に口上がある。
 文楽の引退興行では、当人は何も語らない。
 ひたすら低頭しているのみで、高弟が横で口上を述べる。
 今回は呂勢大夫がつとめたが、いうまでもなく見事な滑舌と声、口跡で、必要最低限のことだけをすっきりと述べ、たいへん立派だった。
 若手の歌舞伎役者は見習ってほしい。

 途中、櫓太鼓を三味線で模倣する「曲弾き」を、寛治の孫で、29歳の寛太郎がつとめる。
 これが、前代未聞の出し物で、客席は唖然呆然となっていた。
 三味線による変わった奏法は、いままで何度か見てきたが、今回は、ほとんど「アクロバット」だった。
 才尻(撥の尻)で弾くなどは朝飯前で、「両手の指」で同時に弾く、逆さまに持って弾く、撥が宙を舞うなど、およそ考え付く、ありとあらゆる奏法が、次々と登場する。

 私も、一応「音楽ライター」なぞと名乗っている以上、体験だけでもしておこうと、義太夫の太棹三味線をいじったことがあるのだが、楽器も撥も、客席から見ている以上に大きくて、重いものである。
 それを、あのように扱うとは……文楽が、肉体を酷使する芸能であることに、あらためて思いが至った。
 人形遣いと太夫と三味線が、文字通り「三位一体」となり、全身全霊を傾けて、音楽を奏で、物語を演じる。
 若い寛太郎の挑戦が、祖父の親友の花道を飾ったわけで、なかなか感動的だった。

 この「曲弾き」は、2月の東京公演でも上演される予定なので、ぜひ、多くの方々にご覧いただきたい。
 文楽や伝統芸能に対するイメージが一変するはずである。

 嶋大夫は、昭和23年に、15歳で愛媛から大阪に渡り、入門した。
 『封印切』『酒屋』など、美声で語る世話物が素晴らしかった。
 住大夫も引退したいま、これで太夫から人間国宝はいなくなり、切場語りは咲大夫ひとりとなる。
 早急な世代交代が望まれるところだ。

 嶋大夫師匠、長年、お疲れ様でした。

(1月17日所見。ほかに『野崎村』『釣女』が付いた)
(敬称略)

※第2部『国性爺合戦』については、次回、書く予定です。

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