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2019.06.10 (Mon)

第242回 岩波ホールの50年(上)

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▲ドキュメンタリ映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』

 今年、創立50周年を迎えた岩波ホール『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』が上映されている。ドキュメンタリ映画の巨匠、フレデリック・ワイズマン(今年、89歳)が、ニューヨーク公共図書館(NYPL)の活動を記録したものだ。

 ただし、一筋縄でいく映画ではない。
 宣伝文に「世界で最も有名な図書館のひとつ、その舞台裏へ」とあるが、物理的な「図書館の裏側」は、ほんの少ししか出てこない。それどころか「本」そのものが、ほとんど登場しないのだ。
 全3時間半(休憩10分)中、大半を占めるのが、NYPLの「啓蒙活動」の様子である。

 とにかく、その多彩さに、驚かされる。
 講演、著者トーク、読書会、コンサート、就職支援、障害者のための住宅支援、デジタル機器の貸し出し、中国系市民のためのパソコン教室、黒人文化研究、手話指導、子ども読み聞かせ、ダンス教室、点字・録音本作成……本館のほか、88もある分館と4つの専門図書館すべてで、この種のイベントが連日開催されており、まるで巨大カルチャーセンター状態である。

 映画は、これらの様子を、淡々と映す。時折、図書館内の会議や、本がベルトコンベアで運ばれるシーンなどもあるが、それらは、わずかだ。中には、いったい何をやっているのか、理解できないシーンもある。
 よって、「図書館内部を観たかった」ひとには、期待外れだろう(わたしは、閉架から本が運び出されて、カウンターで貸し出されるまでの過程を見たかった)。

 そもそも、ご存知の方も多いと思うが、ワイズマンの映画には、解説もナレーションも、テロップも、BGMも、一切ない。インタビューも、ない。ただ、誰かが何かをやっているところを、近くから勝手に眺めているだけである。
 そのため、スクリーンに登場しているのが、どういうひとなのか、まったくわからない。人気歌手のエルビス・コステロや、パティ・スミスでさえ、なんの説明もない。冒頭、リチャード・ドーキンス財団について講演している男性が、そのリチャード・ドーキンス(名著『利己的な遺伝子』の著者)本人であるとの説明も、ない。館長がしばしば登場するが、その説明もない。観ているうちに、「どうも、このひとがトップらしい」と感じるしかない。
 この点は、ドキュメンタリに対するワイズマン監督の考え方なので、なんともいえないが、やはり、人物の名前と立場くらいは教えてほしかった。

 結局、この映画は、NYPLが、膨大なエネルギーと細かさで、ニューヨーク市民の知的生活を支えていることを描いているのだ。
 会議では、公的予算を獲得するため、政治家にいかにアピールするかも検討されている(NYPLは、公的支援を受ける、民営図書館なのだ)。

 翻って、日本の図書館は、やたらと利用者数(貸出し数)を競い合って、貸出し人気リストなどを発表している。
 さらにCCC(TSUTAYA)に運営委託し、館内にスタバを開設する「ツタバ図書館」が続出している。
 そんなことばかりが話題になっているのに比べて、あまりの彼岸の差に、呆然となった。

 なお、この映画は空前の人気で、1日3回上映のほとんどが満席か、満席寸前である。休日は、朝から並んで、午後の上映回チケットを入手するようなありさまだ(岩波ホールは、いまだにネット購入できず、売場で番号順入場券を購入するしかない)。

 このような、説明なし、3時間半の長尺映画に、これほどのひとたちが詰めかけていることも驚きで、日本中の図書館員が来ているのだろうかなどと、あれこれ想像しながら、あの小さな堅い座席に座って、岩波ホールに通いつづけた40数年間を思い出していた。
(この項つづく)

※『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』の、岩波ホールでの上映は、7月5日(金)までとなっています。

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