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2019.06.13 (Thu)

第243回 岩波ホールの50年(下)

宋家の三姉妹
▲岩波ホールで半年間上映が続いた、ロングラン第1位の作品。


(前回よりつづく)
 岩波ホールは、いまでは、文芸作品の封切り劇場として定着しているが、1968年の開設当初は、多目的ホールだった(だからスクリーンが「舞台」の奥にある)。
 映画専用劇場になったのは1974年で、その第一弾は、『大地のうた』(サタジット・レイ監督/1959/インド)だった。
 この「映画館」は、ちょっとした話題になった。日本で初めての「完全入れ替え制」「定員制」だったからである。立ち見もダメ。いまでは当たり前となったこの興行形態は、岩波ホールによって定着したのだ(当時、どこかの雑誌で「遠方から行って満席で入れなかったら、どうしてくれるのか」といった主旨のコラムを読んだ記憶がある)。

 わたしが初めて岩波ホールに入ったのは、1977年。大学生だった。番組は『惑星ソラリス』(アンドレイ・タルコフスキー監督/1972/ソ連)。
 大学が近くだったせいもあり、かっこよさそうなSFだと思って気軽に出かけたのだが、あまりのわけのわからなさに、かえってビックリした。なぜか日本の高速道路なども出てくる。どうやら、惑星ソラリスの「海」自体が生命体で、こいつのせいで、幻覚を見たりするらしい……それくらいしか、理解できなかった。
 たしか平日の昼間だったが、8割がた埋まっており、こんな映画を昼間から、満席寸前になるほどのひとたちが観に来ていることにも、驚いてしまった。

 そんな出会いだったので、当初、岩波ホールに対する印象は、あまりよくなかったのだが、それが変わったのは、翌1978年から79年にかけてだった。
 この時期、下記のような超ド級の名作を、たてつづけに観せられたのだ。
 『家族の肖像』(ルキノ・ヴィスコンティ監督/1974/伊=仏)
 『木靴の樹』(エルマンノ・オルミ監督/1978/伊)
 『旅芸人の記録』(テオ・アンゲロプロス監督/1975/ギリシャ)
 どれも連日ほぼ満席で、特に『旅芸人の記録』は、何回目かに行って、やっと入れた(さすがに後半は、休日のみ、前売整理券が発売されていた)。4時間近い長尺だったが、映画とはすごい表現ができるのだと仰天した。やがて、生涯ベスト級の1本になり、アンゲロプロスは神様になり、のちに作曲家エレニ・カラインドゥルーの大ファンになった。

 ほかに忘れられないのは、1989年に観た『八月の鯨』(リンゼイ・アンダーソン監督/1987/英)で、これまた尋常な混み方ではなかった。連日全回満席で、数か月のロングランになっていた。すでに社会人だったが、平日に休みをとって、朝から並んで、午後の回をなんとか買った。その後、何回となく、同劇場でリバイバル公開された。撮影時93歳のリリアン・ギッシュ、79歳のベティ・デイヴィスは圧巻の名演技であった。2012年にニュープリントで再上映してくれたときは、うれしくて、3回通った。

 このほか、『ファニーとアレクサンデル』(イングマール・ベルイマン監督/1982/スウェーデンほか)、『芙蓉鎮』(シェ・チン監督/1987/中国)、『宋家の三姉妹』(メイベル・チャン監督/1997/香港=日)なども、半年前後のロングランだった。特に『宋家…』は、岩波ホールのロングラン記録第1位のはずだ(ちなみにベルイマンは、上映時間5時間強! 前回紹介した『ニューヨーク公共図書館…』の3時間半など、屁でもない長さ)。
 その後、いまに至るまで、岩波ホールで上映された映画は、おそらく8割ほどを観ていると思う(1作の上映期間が、最低1か月あるので余裕をもって行けるのだ)。

 いま、ひとつの映画館で、同じ映画を、朝から晩まで、半年間も上映しつづけることなんて、あるだろうか。
 このホールが、渋谷や新宿のように、移り変わりの激しい繁華街にあったら、50年はつづかなかったかもしれない。「神保町」だから生き残れたのだろう。
 できれば、スクリーンがもう少し近くて、座席が、普通の映画館なみであれば、言うことないのだが、とにかく、半世紀存続していることだけでも、感謝しなければならないのかもしれない。

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