FC2ブログ
2020年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2019.07.14 (Sun)

第247回 エレニ・カラインドルーを聴く

エレニ新作CD
▲エレニの最新作『TOUS DES OISEAUX』(ECM)


 わたしが好きな現代作曲家のひとりに、エレニ・カラインドルー(1939~、ギリシャ)がいる。
 彼女は、長年、テオ・アンゲロプロス監督の映画に音楽を寄せていた。ギリシャや中東の響きをベースに、人生の酸いも甘いもすべて呑み込んで慰撫するような、独特な曲想は、あの長回しの画面にピッタリだった。
 だが、2012年1月、アンゲロプロスは交通事故で不慮の死を遂げる。以来、このコンビの新たな「映像+音楽」を観られなくなったのが、残念でならない。

 エレニは、劇音楽も多く書いている。もちろん、ギリシャやヨーロッパの舞台なので、わたしは、観たことがない。しかし、そのいくつかがCD化されている(舞台カンタータ《ダヴィデ王》などもある)。それらを聴きながら、どんな舞台だったのだろうと、想像するのは楽しい。
 たとえばギリシャ悲劇『メデア』『トロイアの女たち』(これは傑作! ぜひ交響詩にまとめてほしい)、『セールスマンの死』、『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』……そして、テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』。

 エレニが『ガラスの動物園』のために書いた曲のうち、〈トムのテーマ〉と〈ローラのワルツ〉の2曲がCD化(コンサート・ライヴ)されている。演奏には、ノルウェー出身の著名なサクソフォン奏者、ヤン・ガルバレクと、ヴィオラ奏者のキム・カシュカシヤンが参加している。
 曲想は、作者がいう「追憶の劇」を思わせるもので、南部へのノスタルジアが感じられる(この物語の舞台はセントルイスだが、母アマンダは南部出身の設定)。エレニにしてはポップス・テイストが強く、そのまま『欲望という名の電車』でも通用しそうである。

 最近、文学座が29年ぶりに『ガラスの動物園』を上演した(6/28~7/7、東京芸術劇場 シアターウエストにて)。小田島恒志の新訳、高橋正徳の演出である。これは見事な舞台で、訳、演出、役者の演技など、どれも素晴らしかった。ひさびさに、いい芝居を観た。
 また、やはりテネシー・ウィリアムズはすごい劇作家だと、再認識もした。

 そして、この舞台の音楽は、(特にクライマックス部で)ドイツの人気作曲家マックス・リヒターの《オン・ザ・ネイチャー・オブ・デイライト》が使用されており、効果を上げていた。映画『メッセージ』にも使用されていたミニマル風の曲である。これは、劇中の家族や出来事を、少し離れたところから冷静に見ているタイプの音楽。

 『ガラスの動物園』をめぐる音楽といえば、もうひとつ、ヘンリー・マンシーニによる映画音楽がある。ポール・ニューマン監督、1987年の映画である。こちらは、さすがにアメリカン・ポピュラーの大御所だけあり、良質なホームドラマを思わせる名曲だ。劇中の家族に寄り添い、同情をもって見つめるタイプ。
 
 ところで――エレニの最新作は、『TOUS DES OISEAUX』〈すべての鳥〉の劇音楽(本年初頭にCD発売)。ワジディ・ムアワッド作・演出で、2017年11月、パリのコリーヌ国立劇場で初演された(その後、再演も)。ムアワッドはレバノン→カナダの亡命家族の一員で、同劇場の芸術監督。静岡芸術劇場などの演劇祭にも来日したことがあるらしい。
 芝居の内容は、ネット上の記述やトレーラー映像から想像するしかないのだが、若きイスラエル出身のドイツ人科学者と、パレスチナ出身のアメリカ人女子学生が恋に落ちる“ロミオとジュリエット”風の物語らしい。ここに様々な文化、宗教、民族などの対立要素がからまり、ドイツ語、ヘブライ語、英語、アラビア語の4言語が飛び交う4時間の超大作だという。音楽は、女性ヴォカリーズを中心とした、まさに“エレニ節”といいたくなる、おなじみの渋さで、古代ギリシャを源泉とするヨーロッパ文明の、さまざまな要素をごった煮にしたような味わい。

 このCDには、最新の映画音楽も収録されている(LP時代だったら、A面/B面だったろう)。『BOMB, A LOVE STORY』〈爆弾~ある愛の物語〉(ペイマン・モアディ監督、イラン、2018)だ。2011年に第84回米アカデミー外国語映画賞を受賞した『別離』の主演俳優による監督作品である(主演男女も『別離』と同じ)。1988年、イラン・イラク戦争が舞台らしい。
 こちらの音楽は、“アンゲロプロス節”の再来。コンスタンチノープル・リラ(別名“ヴィザンチン・リラ”)や、カノナキ(琴のようなギリシャの古楽器)と思われる響きが、胸を締めつける。もし予備知識なしで、「新発見、アンゲロプロスの幻のフィルム」の音楽だといわれたら、信じてしまいそうだ。はやく映画を観たい。
<敬称略>

※エレニのCDは、すべてECMレーベルから発売されています。
 そのうちのいくつかは、ナクソス・ミュージック・ライブラリーで聴くことができます。

【お知らせ】
6月24日(月)にラジオ福島で放送された特別番組「こころひとつに…普門館からありがとう」が、7月24日まで、同局サイトのアーカイブで聴取可能です。今年度課題曲のほか、5月に白河で開催された演奏会でのスミス《華麗なる舞曲》ライヴも聴けます(指揮:飯森範親)。ほかに、田中靖人さん、わたし(富樫鉄火)のインタビューもあります。

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

◆毎週(土)23時・FMカオン、毎週(日)正午・調布FMにて、「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティをやってます。
 パソコンやスマホで聴けます。 内容の詳細や聴き方は、上記「BandPower」で。

◆ミステリを中心とする面白本書評なら、西野智紀さんのブログを。 
 最近、書評サイト「HONZ」でもデビューしています。
スポンサーサイト



14:56  |  CD  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (現在非公開コメント投稿不可)
 

▲PageTop

 | BLOGTOP |