FC2ブログ
2020年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2019.10.24 (Thu)

第254回 芸能山城組の『AKIRA』

AKIRA.jpg
▲演奏会×映画上映『AKIRA』(10月13日、ティアラこうとうにて)


 大友克洋の漫画『AKIRA』は、1982年に連載がはじまった(一時中断を挟んで1990年に完結)。ものがたりの舞台は2019年、第3次世界大戦後の東京。翌2020年には東京オリンピックが開催される設定になっていた。当時は、ずいぶん先の話だなあと思っていたが、ついに現実が追いつき、漫画同様にオリンピックが開催されることになった。
 つまり、今年はまさに『AKIRA』の年なわけで、そのせいか、再上映のほか、実写映画やアニメ版リメイクの製作発表など(過去にもその種の発表は何度かあったが)、いくつかの話題がつづいた。

 漫画『AKIRA』が、原作者自らの監督で、大作アニメ映画となって公開されたのは1988年だった。当時、まだ原作は完結していなかったので、いささかダイジェスト的な構成になっていた。それでも、「最後の手描き大作アニメ」と呼ばれただけあり、クライマックス、鉄雄の“変貌”や、AKIRAの覚醒シーンは、CG以前の、独自の魅力にあふれていた。
 だがそれ以上に驚いたのは、音楽を「芸能山城組」が担当したことだった。

 当時、芸能山城組は、日本の声明や読経、バリ島のガムランやケチャ、ブルガリアン・ヴォイス、アフリカの民俗音楽などのワールド・ミュージックを極めて正確に、しかも学究的に表現するユニークな団体として注目されていた。
 なかでも『輪廻交響楽』(1986)などは、その独特の音響世界ゆえ、オーディオ・マニア必携のアルバムといわれていた。
 大友克洋は、この『輪廻交響楽』を聴いて、山城祥二(大橋力)のもとを訪れ、映画で使用させてくれないかと持ちかけた。制作期間は半年しかなかったが、山城はゼロから、あまりにユニークなサウンドトラックをつくりあげた。それは、バリ島の音楽(ガムラン、ケチャ、ジェゴグなど)を中心に、声明、読経、青森ねぶたなどの「声」が重なる、一種の祝祭音楽空間だった(『輪廻交響楽』から引用された部分もある)。こんな音楽、いままで誰も聴いたことなかった。

 そんな音楽を当の芸能山城組がナマ演奏で再現し、後半では映画も上映するファン・イベントが開催された(10月13日、ティアラこうとう大ホールにて)。わたしは、この種の“同好の士”が集まる空気が苦手なうえ、映画は、夏に目黒シネマでの再上映を観たばかりだったので迷ったのだが、しかし、あの音楽をナマで聴けるとあって、その誘惑には勝てなかった。
 ただし、演奏されたのは、ジェゴグと声を使用した楽曲で、ガムランなどはなかった。
 ジェゴグとは、竹筒を叩いて奏でるアンサンブルで、「竹琴」などとも訳される。大小14台前後で構成されている。1オクターヴが4音しかないが(「鉄琴」のガムランは5音階)、竹の大小で微妙にピッチがずれているので、複数で合奏すると、不思議な音響空間が現出する。

 わたしは若いころ、ジェゴグに魅せられるあまり、バリ島へ行って、現地のナマ演奏を聴きまくったほか、実際に弾かせてもらったことがある。あの響きのなかに長くいると、脳髄がしびれてくるような、不思議な感覚に陥ったのが忘れられない。

 当日は、解説や、抜粋実演をまじえながら、ジェゴグとはどういうものなのかを、わかりやすく伝えてくれた。
 だが(当たり前のことだが)、映画館で流れていた、あるいはCDで聴く、あの響きとは、やはりちがう。特に、1曲目〈金田〉で、「ラッセラー」(ねぶた)の掛け声がマイクを通して加わるあたりになると、PAやミキシングの調整がむずかしいせいか、響きが混沌となってしまう。「竹」が、人間の「声」を拒んでいるような印象さえ抱いた。
 バリ島では、野外の、寺院のような石づくりと樹木に囲まれた庭で聴いたのだが、あのときのほうが、豊かな響きだったような記憶がある。ジェゴグをホールで演奏する場合は、サントリーホールやオペラシティのような、開放ステージで演奏される方がいいのかもしれない(ティアラこうとうは、舞台と客席が分かれたプロセニアム)。
 それでも、とにかく『AKIRA』の音楽を実演で聴けたことは、うれしかった。

 来年4月には、映画『AKIRA』の4Kリマスター版が出るそうだが、なんと音楽は、すべて新録音に差し換えられるという。それにあわせて、芸能山城組は、さらに大がかりな、交響組曲《AKIRA》のコンサートを開催する。おそらく今度は、ガムランなども加わるはずだ。

 わたしの携帯プレーヤーのなかには、むかしから芸能山城組の交響組曲《AKIRA》が入っている。ほかの音楽は飽きたら消去するのだが、これだけは消せない。朝、出勤途上で聴く第1曲〈金田〉には、どんな栄養ドリンクもかなわない、不思議なパワーがあるのだ。
<敬称略>

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

◆毎週(土)23時・FMカオン、毎週(日)正午・調布FMにて、「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティをやってます。
 パソコンやスマホで聴けます。 内容の詳細や聴き方は、上記「BandPower」で。

◆ミステリを中心とする面白本書評なら、西野智紀さんのブログを。 
 最近、書評サイト「HONZ」でもデビューしています。
スポンサーサイト



16:10  |  映画  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (現在非公開コメント投稿不可)
 

▲PageTop

 | BLOGTOP |