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2019.12.11 (Wed)

第260回 佐渡&シエナの《エル・カミーノ・レアル》

佐渡シエナ文京
▲佐渡&シエナのコンサート・ツアー(上記写真は、12/24、文京シビックでのもの)


(前回よりつづく)
 今回の佐渡裕&シエナ・ウインド・オーケストラのコンサート・ツアーの曲目で驚いたのは、最終曲、アルフレッド・リード作曲の《エル・カミーノ・レアル》だった。
 実は、意外だったのだが、佐渡&シエナによる同曲演奏は、実演でも録音でも、今回が初めてなのである(他指揮者による演奏・録音はある)。
 
 《エル・カミーノ・レアル》とは、直訳すると「王の道」を意味する。かつてのスペインやポルトガルが、世界中に進出していった、そのルートのことだ。曲は、そんな怒涛の世界進出のイメージを幻想的に描いている。
 ただ、「世界進出」といえば聞こえはいいが、実態は「侵略」だったとも、よくいわれる。現に、『インディアスの破壊についての簡潔な報告』(岩波文庫)などを読むと、あまりの残虐ぶりに、吐き気を催しかねない(そもそもこの本は、南米現地に赴いた聖職者ラス・カサスが、これ以上、先住民を虐殺しないよう、母国スペインの皇太子に直訴した報告書である)。

 だが、「王の道」は、至福ももたらしてくれている。カリフォルニア・ワインなども、そのひとつだ。
 1542年、ポルトガル人のホアン・ロドリゲス・カブリヨが、現在のカリフォルニア州の最南西端、サンディエゴのあたりに漂着し、「王の道」のスタート地点を切り拓いた。
 1769年には、すでにスペインに支配されていた、お隣のメキシコから修道士たちが入り込み、道沿いに修道院を建設しながら、北へ北へと進んでいった。彼らは、土地土地でブドウを栽培し、キリストの血=ワインを生産することも忘れなかった。
 現在のカリフォルニアでワイン生産が盛んなのは、これがルーツなのである。
 
 この「北へ北へ」と伸びて行った道……これが「エル・カミーノ・レアル」と名付けられた道、つまり「王の道」である。現在では国道101号線となっているが、エリアによっていくつかの別名があり、その一部に、今でも「エル・カミーノ・レアル」の名が残っているのだ。
 作曲者リードは、おそらく、この国道名をヒントに、曲を書いたような気がする。

 「エル・カミーノ・レアル」は、日本にもある。神奈川・横浜の地に。ただし、それは「道」ではなくて「鐘」なのだが。
 サンディエゴと横浜は姉妹都市提携を結んでいる。そのサンディエゴから「エル・カミーノ・レアルの鐘」(ミッション・ベル)のレプリカが送られ、現在、山下公園内の噴水前に設置されている(「王の道」沿いに設置された修道院の鐘がモデルと思われる)。

 本稿の読者であれば、リードの《エル・カミーノ・レアル》がどんな曲かは、ご存じだと思う。1985年初演の名曲だ。特にフラメンコや闘牛を思わせるイントロ部分が有名で、2小節目でいきなりフェルマータとなり、それを乗り越えると3小節目から「4拍子」と「3拍子」が交互に登場する“乱舞”となる。
 冒頭のたった3小節で聴き手を取り込んでしまう手腕は、まことに見事だ。この出だしは「ホタ」という、スペイン東北部に伝わる3拍子の舞曲である(ファリャの《三角帽子》にも、ホタが登場する)。
 副題に「ラテン・ファンタジー」とあり、全編、徹底的に熱い、派手な楽曲である。

 これに、佐渡&シエナが初めて取り組むという。きっとスゴイ演奏になるだろう。
 前回もつづったように、今回のコンサート・ツアーは、CDシリーズ『ブラスの祭典』の発売開始20年の記念でもある。この人気シリーズに、新たな里程標が加わる、そんな1曲になりそうな気もする。
<敬称略>

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