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2020.01.25 (Sat)

第266回 年の暮れ 寅さんもフォースも完結す

とらさんスターウォーズ
▲期せずして昨年末に同時に完結した2つのシリーズ。


 映画『男はつらいよ』シリーズ第1作が公開されたのは、1969年のことだった。当時、わたしは小学校5年生で、さすがに観ていない。
 わたしが観るようになったのは、大学生になってからで、たしか、第17作『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』(1976)が最初だったと思う。新宿松竹(いまの新宿ピカデリー)で観た。
 この作品は、浅丘ルリ子の「リリー三部作」に匹敵する屈指の名作で、マドンナは、いまは亡き名女優、太地喜和子(芸者ぼたん)。ほかに宇野重吉や、ソ連から帰国直後の岡田嘉子などが出演していた。寅さんが、ぼたんの窮地を救おうと奮闘する姿は、いま思い出しても涙がにじんでくる。すごい人情喜劇だと思った。
 以後、寅さんは、ほぼ全作を封切で観て、浅草名画座や新文芸坐での特集上映にも、ずいぶん通ったものだ。

 寅さんに出会った翌1977年、映画『スター・ウォーズ』第1作(その後、エピソードⅣ『新たなる希望』になった)が公開された。
 第一印象は、「音楽が大げさすぎる」だった。チャイコフスキーや、ホルストの《惑星》そっくりな部分もあった。ジョン・ウィリアムズは、『11人のカウボーイ』『タワーリング・インフェルノ』『ミッドウェイ』などで大好きな作曲家だっただけに、少々、違和感があった(いまでは聴きなれたので、そんなことは感じないが)。
 それでも、とにかく面白かったので、以後、すべてを封切りで観てきた。だが、話が進むうちに「実は父子だった」「実は兄妹だった」などの、後づけとしか思えない設定が続出し、無理やり感を覚えた。しかし考えてみれば、文楽などは、船宿の親父が「実ハ」死んだはずの平知盛だったとか、平敦盛の首級が「実ハ」熊谷直実の息子だったとか、やたらと「実ハ」だらけであり、この種の作劇術は世界共通なのだろうと思って観てきた(近松門左衛門の『国姓爺合戦』などには、「スター・ウォーズ」の元ネタかと思うような場面がいくつかある)。

 昨年末、その「寅さん」と、「スター・ウォーズ」が、同時に完結した。「寅さん」は初公開から51年目、全50作。「スター・ウォーズ」は43年目、(正伝だけで)全9作。どちらも、ほぼ半世紀かけて完結したわけだ。
 さっそく、わたしも両方観たが、正直なところ、それほどの感慨もなく、「こんなものかなあ」だった。もう少し涙がにじんだり、背筋がゾクゾクしたりするかと思ったのだが。
 
 今回の新作『男はつらいよ お帰り寅さん』は、主人公の寅さんが行方不明(のような設定)で、甥の満男の、相変わらずのモラトリアム人生が描かれる。いい歳をして、まだウジウジとしており、「もし伯父さんがいてくれたら……」なんてぼやくと、むかしの寅さんの映像が回想風に出てくる。

 だが……『男はつらいよ ぼくの伯父さん』(1989)のなかで、寅さんが、予備校生の満男に酒の呑み方を教える名場面があった(料理屋の店員が戸川純だった)。
「いいか。片手に杯を持つ。酒の香りをかぐ。酒の匂いが鼻の芯にずーんと染み通ったころ、おもむろにひとくち呑む。さあ、お酒が入っていきますよと、五臓六腑に知らせてやる」
 満男の物語である以上、ここは必ず出てくると思ったが、なかった。

 なのに、もうひとつの名場面は出てきた。佐賀の、ゴクミの叔父さんのもとへ、寅さんが謝りに行き、最後にこう言う。
「私のようなできそこないが、こんなことを言うと笑われるかもしれませんが、私は、甥の満男は間違ったことをしていないと思います。慣れない土地へ来て、寂しい思いをしているお嬢さんをなぐさめようと、両親にも内緒で、はるばるオートバイでやってきた満男を、私はむしろ、よくやったと褒めてやりたいと思います」
 ここは、さすがにジワリときた。伊丹十三の“おじさん思想”を思い出した。
 だが考えてみれば、回想場面として泣かされたのではなく、映画史に残る名場面として泣いたのである。しかも、あの場に満男はいなかったわけで、満男自身は、寅さんのあのコトバを回想できないはずだ。満男が直接かかわったシーンではなく、不在のシーンが回想される。どこか、無理やり感が漂う。

 結局、満男のモラトリアム人生など描かず、「寅さん名場面集」に徹したほうが、よかったのではないだろうか。ハリウッドには『ザッツ・エンターテインメント』シリーズがある。MGMのミュージカル映画のさわりを次々と見せる名場面集だ。あの要領で、現存する「とらや」のひとたちが、行方不明の寅さんの思い出を語りながら、名場面が展開する、そんなシンプルなつくりのほうが、心から泣けたと思う。
 せっかく久しぶりに寅さんを観に行ったのに、相変わらずウジウジしている満男を見せられて、ちょっと期待外れだった(もっとも、今後、満男の人生を描く『甥っ子もつらいよ』が始まるというなら、話は別だが)。

 そういえば、『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』のほうも、初期に胸躍らせたルーク・スカイウォーカーも、ハン・ソロもヨーダもオビワン・ケノービも、みんな亡くなっている。だが多くは“霊体”となって、関係者の周囲に平然と現れる(ほんとうに亡くなったレイア姫役の女優までもが、「生きて」登場する)。その無理やり感が、どうもなじめなかった。
 「寅さん」も「スター・ウォーズ」も、本来いるべきひとが、いなくなっている。それでも完結編をつくらなければならず、どこかに無理が生じている、どちらもそんな映画だった。
<敬称略>

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