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2020.01.29 (Wed)

第268回 映画『キャッツ』は、そんなにひどいのか【後編】

キャッツポスター2
▲「CG猫人間」で「人生が変わる」?

前回よりつづく】
 要するに、この映画は、脳内補完を拒否する、「人類が初めて観るヴィジュアル」をつくりだしてしまったのだ。よって原作舞台を知らないひとにとっては、ますます拒否感が強くなり、受け入れにくかったにちがいない。
 だが原作舞台に慣れたひとは、いままでずっと脳内補完しながら観てきたので、この映画も、なんとか「新たなキャストと演出による、最新プロダクションのひとつなのだ」と思って観る余裕が、残っている。
 CG合成の猫人間が気持ち悪いというが、原作舞台で、目の前で観る猫役者のメイクも、そうとう無茶なもので、初演時、ずいぶん嘲笑されていたものだ。わたしも初演時、啞然となった覚えがある。しかし、いまでは誰もが脳内補完で乗り切るワザを身に着けているので、笑うものなどいない。
 だから、映画肯定派は、原作舞台を知るひとに多いはずだ。

どこが楽しかったか
 かくして、わたしは、この映画を、おおいに楽しんだ。
 ジェニファー・ハドソン(娼婦猫グリザベラ)が、鼻水を垂らしながら〈メモリー〉をうたう。初演時の久野綾希子の、あのエラの張った顔が浮かんだ。
 おばさん猫ジェニエニドッツ。日本初演から20年間、4251回、たったひとりでこの役を演じ続け(おそらく世界最高記録!)、55歳の若さでガンで逝った服部良子のタップを思い出し、泣けてきた。
 原作舞台より格上げされた子猫ヴィクトリアのバレエ。ニューヨークで観た、強烈ダイナマイト・ボディ・ダンサーの、エロティックな容姿を思い出した。
 この映画は、そんなふうにして楽しむものだと思う。

 ほかにも、楽しんだ点は、たくさんある。
 まず、イギリス演劇界を代表する2大名優が起用されたこと。
 長老猫デュートロノミーが、雌猫に変更され、大女優ジュディ・デンチが貫禄たっぷりに、しかし楽しそうに演じているのがよかった(むかし、舞台初演に出る予定が、ケガで流れたという)。
 さらに劇場猫ガスを、大御所イアン・マッケランが演じた(ミルクを舐めている!)。むかしを回想しながら、シェイクスピアなど古典の重要性を説き、いまの舞台がいかにダメかを嘆く歌は、まるでイアン・マッケラン本人の心情を代弁しているようで、涙を禁じ得なかった。
 この2人が登場すると、たとえ猫人間でも、一瞬にして画面が締まるから不思議なものである。

 原作舞台では脇役だった、雌の子猫ヴィクトリアが、主役級の狂言回しに格上げされ、飼い主に捨てられた彼女が、ゴミ捨て場の猫コミュニティに受け入れられるまでの物語に変更された。その役を、ロイヤル・バレエのプリンシパル・ダンサーに演じさせたのも、うまいアレンジだと感心した(しかも、たいへんかわいい)。
 編曲もよかった。特に鉄道猫スキンブルシャンクスを、豪快なタップダンサーにしたのは慧眼だった。アカデミー編曲賞モノだと思った。
 否定派も、ここだけは絶賛せざるを得ない、ジェニファー・ハドソンの〈メモリー〉も、聴きものである。
 ただ、ヴィクトリアがチラリとうたう新曲〈ビューティフル・ゴースト〉は、評判がいいようだが、わたしには、ロイド=ウェバーにしては、そう驚くほどの名曲とは思えなかった(エンド・クレジットで、テイラー・スウィフトが絶唱する。作詞もスウィフトで、〈メモリー〉のアンサー・ソングになっているようだ)。

「人生が変わる」映画?
 ただ、映画としては、しんどい部分もあった。
 特に前半部、あまりに細かいカット割りの連続で、目がチカチカして、頭が痛くなってきた。もう少しじっくり、歌や踊りを全体像として観たかった。
 泥棒猫マンゴジェリーとランペルティーザの曲は、個人的には旧ヴァージョンでやってほしかった。
 擬人化されたゴキブリを食べるシーンは、わたしもちょっとどうかと思った。
 また、オリジナル・ナンバーをいくつか削除したために、流れがギクシャクしているような部分もある(たとえば、劇場猫ガスにつづく、海賊猫グロールタイガーのくだりはカットされた。彼は犯罪猫マキャヴィティの手下になっている)。
 原作舞台は、全2幕で(休憩を除くと)正味140分の作品である。それを109分に圧縮したのだから、仕方ないのだが。

 というわけで、この映画『キャッツ』は、原作舞台を知るひとが、新しいプロダクションなのだと思って観れば、楽しいひとときを過ごすことができる。つまり、舞台記録映像の延長線上である。だが、原作舞台を知らないひとが観ると、隔靴掻痒の109分間に終わるだろう。それを、「人生が変わる極上のエンターテイメント」なんて煽って宣伝するから、誰が観ても楽しめる映画のように誤解されてしまうのだ(もっとも、CG猫人間に衝撃をおぼえた方にとっては「人生が変わる」映画だったかもしれない)。

 最後に、吹き替え版について。
 英語で歌っている映像に日本語歌唱をあてるなど、かなり無理なことをやるわけで、そのうえ歌詞が劇団四季版とはちがうので、違和感は否めない(「♪メモリー、仰ぎ見て月を」は、ない)。それでも、おおむね、みんな歌唱がうまく、まあまあ好印象だった。
 特に劇場猫ガスを演じた宝田明には、ちょっと泣かされた。長老猫デュートロノミーの大竹しのぶは、声が若すぎた。ここはぜひ、宝田明との名コンビ、草笛光子に演じてほしかった!
<敬称略>

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