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2020.04.14 (Tue)

第280回 無観客/平知盛 vs コロナ

義経千本桜
▲中止となった、国立劇場3月公演


 新型コロナ禍で、演奏会や芝居、スポーツなどの「無観客」実施が増えた(その後の「緊急事態宣言」で、それさえもなくなったが)。

 先日、この3月に上演予定ながら中止となった、国立劇場『義経千本桜』通しの、無観客映像がネットで公開され、あっという間に10万回再生を突破したという。
 これは、菊之助が、知盛・権太・狐忠信の3役を完役する、たいへん挑戦的な舞台として話題になっていた(権太のみ初役)。ほかに、道行の静御前を時蔵、義経を鴈治郎など。

 全体を3部に分け(二段目=Aプロ、三段目=Bプロ、四段目=Cプロ)、一か月の間、1日に2プロずつ、日によって入れ替えながら上演する。しかも会場が、通常は文楽などを上演する小劇場(522席)なので、大劇場や歌舞伎座とはちがい、役者の息吹を目の前で感じられるとあって、芝居好きにはたまらない公演となるはずだった。
 もちろんわたしも、3プロ通し券を買って、楽しみにしていた。

 結局、公演は中止となったのだが、その間、ゲネプロのように無観客で完全上演され、国立劇場は、その模様を映像におさめていた。それも「記録」用収録ではなく、最初から配信公開を前提とした、複数カメラによる収録だった。実際、菊之助自身、国立劇場のサイトでこう述べている。

「公演中止期間中、中村時蔵のお兄様、中村鴈治郎のお兄様はじめ、出演者一同、スタッフ一同は上演に望みをつなぎ、稽古に励んで参りました。そして、その舞台の映像を収録することとなりました。お客様が全くいらっしゃらない客席を前に、しかし、カメラの向こうにお客様がいらっしゃることを思い描きながら、精一杯演じましたので、インターネットでお楽しみいただけましたら幸いです」

 わたしも、さっそく拝見した。
 誰もいない客席、拍手も大向うの声もない、静まり返った場内で、役者たちが熱演を繰り広げている。下座や浄瑠璃、柝やツケ打ちが、通常よりも強く響くような気がする。各プロが1時間40分前後にまとめて編集されており、全部観ると5時間ほどかかる。それだけに、歌舞伎に興味のない方には無理にお薦めしにくいのだが、それでも、ぜひ、一か所だけでも、観ていただきたいシーンがある。
 Aプロ(二段目)のクライマックス「大物浦」、1時間30分あたりからラストまでの、約10分間だ。ここだけでも、観ていただきたい。

 突然映る血まみれの武将は、平知盛(菊之助)である。この武将は、史実では壇ノ浦合戦で敗れ、入水して死んだはずなのだが、芝居では生きていたことになっている。そして平家復興をかけて源義経一行を襲うのだが、うまく行かず、反撃を喰らって全身ボロボロ、ここ大物浦(いまの尼崎にあった大型港湾)に逃れてきた。
 上手(右側)にいる子供が、これまた壇ノ浦で入水したはずの幼帝・安徳天皇である(実は姫君なのだが、ややこしいので説明省略。演じるのは、菊之助の長男・丑之助)。

 万策尽きた瀕死の知盛は、ついに義経追討をあきらめ、今度こそほんとうに入水を決意する。港の高台に登り、巨大な碇を全身に巻き付ける(伝承でも、遺体を敵方に渡さないよう、壇ノ浦で碇とともに入水したことになっている)。
 ここで最後の力を振り絞って碇を持ち上げるところが見せ場で、菊之助が凄絶な芝居を見せる。もし観客がいたら、場内は騒然となったであろう。
 そして、どうしても、時期的に、その姿に、新型コロナ・ウイルスと闘い、打ち勝とうとする人々の姿が重なってくる。菊之助の知盛は、「自分の命を捧げるから、なんとか終息してくれ、そして、また芝居ができるようにしてくれ」と訴えながら、海に身を投げたように見えてしまうのである。
 国立劇場の無人の客席は、衝撃である。花道の周囲にも誰もいない。しかし、菊之助をはじめとする役者の思いは、圧倒的な熱量で伝わってくる。
 こういう映像を無料で公開してくれた国立劇場に、最大限の賞賛をおくりたい。
(この項、つづく)
<敬称略>


【参考】
上記『義経千本桜』映像の公開は4月30日(木)15:00までの期間限定です。
上演中止となった上記『義経千本桜』プログラムが通信販売で購入できます。
そのほか、松竹チャンネル(YOUTUBE)でも、「三月花形歌舞伎」(東京・明治座)出演者座談会や、スーパー歌舞伎Ⅱ『新版オグリ』(京都・南座)、「三月大歌舞伎」(歌舞伎座/17日から)などの映像が期間限定で無料公開されています。
5月の国立劇場、文楽『義経千本桜』は、中止となりました。

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