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2016.02.01 (Mon)

第147回 映画『99分、世界美味めぐり』

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 世の中には、いろんなひとがいるものだと、つくづく思う。
 公開中の映画『99分、世界美味めぐり』は、5人の「フーディーズ」(映画の原題。邦題は、あまり内容をうまく表現しているとは、いえない)の日常を追ったドキュメンタリ映画である。
  「フーディーズ」とは、世界中の、ミシュラン星取りレストランを食べ歩き、ブログに批評を発表する、いわば「美食ブロガー」である。
 ものすごい数の読者(フォロワー)がいて、いまや、ミシュラン・ガイドに匹敵する存在らしい。

 その5人とは、
*レコード・レーベル(Run-D.M.C.所属)の元オーナー(ミシュランを凌駕する本格的な美食批評サイトを準備中)。
*石油会社の元重役(ミシュラン三つ星109店をすべて制覇)。
*リトアニア出身のスーパーモデル(そろそろ現役は退きかけているようだ)。
*タイの金鉱会社の御曹司の青年(親の援助で世界中を食べ歩いている)。
*香港の普通のOL(新人フーディーズ)。

 彼らは、たった一店で食事をするためだけに、飛行機で何千キロも飛んで行く。
 およそ世界中の、あらゆる地域の名店が、続々登場する。

 私は、この映画を、夕食の時間帯に観た。
 てっきり、腹の虫が鳴るかと思ったが、まったくそうはならなかった
 なぜなら、三つ星店の料理は「美術品」のようで、食べ物には見えないものばかりだったからだ。
 モウモウたる煙(ドライアイス)に包まれて登場する料理。
 皿からはみ出す木の枝や葉に乗っている料理。
 海岸の砂上に投げ捨てられた、使用済みのコンドームを模した「セックス・オン・ザ・ビーチ」なる料理(香港のれっきとした三つ星店である)。
 どれも、ヴィジュアルは大迫力なのだが、「おいしそう」には見えなかった。
 (小肌の握りと、ニューヨーク大衆店のサンドウィッチが出てきたときは、少し空腹感を覚えた)
 たぶん欧米人は、こういうアートな外見にも「美味」を感じるのだろう。
 
 日本のお店も登場する。
 スーパーモデルが行く、京都「菊乃井」「鮨さいとう」である(共に三つ星)。
 彼女は、日本のレストランで必要な最低限の日本語も、ちゃんと身につけている。
 カメラは、彼女の「お会計」のシーンも追うが、どうもキャッシュで支払っているようである。
 そのほか、料理だけだが「神保町 傳」(二つ星)も紹介される。

 驚くべきシーンもある。
 いくつかの店では、厨房の隅に小さなテーブルがあり、彼らは、しばしば、そこに招き入れられて食事をするのだ。
 「ピエール・ガニェール」パリ本店や、バスクの「アルサック」などがそうで、目の前でシェフが采配する厨房を見ながら、そして解説を聞きながら、食べるのだ。
 店にとって、フーディーズは、的確な批評を与えてくれる大切な存在で、フォロワーの多さからも無視できないらしい。
 そのレベルにまで達すれば、フーディーズとしても一流なのだ。

 中には、酷評したにもかかわらず、味が改善されたかを確認するために、また食べにきたフーディーズと口論するシェフもいる。
 しかし、決して追い出そうとはしない。
 いかにも、いいライバル同士といった雰囲気である。

 彼らの食事マナーは、私のような「センベロ」オヤジから見ても、あまり美しいとはいえない。
 料理が出てくるたびに、アイフォンやデジカメでカチャカチャと写真を撮りまくる。
 私は、日本のお店で「写真をとってもいいですか」と、店側に確認してからアイフォンを取り出すひとを何回か、見た。
 店によっては、写真をネット上やSNSに出されることをいやがるからだ。
 だが、彼らフーディーズは、最初から許されているらしい。
 そして、手でつまんで食べる、クチャクチャと音を立てて食べるなど、たいへん下品である。
 まさに、何でもありなのだ。
 私は、子供時代、食事の際、母親に「動物じゃないんだから、箸で食べなさい!」「大きな音を立てて食べるんじゃないよ!」と、さんざん言われた世代だが、彼らには、そんなことは関係ない。
 問題は、味と外見とサービスへの「批評」なのだ。
 そもそも、たった一人で(時折、知人と一緒のシーンもあるが)、テーブルに座り、何が楽しいのか、無言で食べまくる光景からして、少々、異様である。
 
 私は、彼らの「ジャーナリスト」的な側面を期待して観に行ったのだが、その種のシーンは、一切ない。
 つまり、取材結果を、いかに的確な文章として表現するか、どのくらいの分量で書いているのか、取材データはどのように整理しているのか、いつ、どこでパソコンに向かうのか、ブログはどんな画面なのか(まあ、これはインターネットで誰でも見られるけれど)、まったくわからない。
 ただひたすら食べて、その場でコメントを口にし、なぜこんなことをやっているのかを説明する、そんな映画である。
 しかし、とにかくフーディーズなる存在を知ることができて、その点は、たいへん面白い。

 彼らが私を見たら、おそらくこう言うだろう。
 「文楽を観るためだけに大阪へ行ったり、吹奏楽コンクールは予選がいちばん面白いからと、毎夏、府中の森芸術劇場へ通う。そんなあなたと、私たちフーディーズと、どこがちがいますか?」
 そう考えれば、なんとなく彼らに親近感もわいてくるのである(もちろん、手持ち予算と時間の余裕は、比較にならないが)。
(1月30日、YEBISU GARDEN CINEMAにて)

このCDのライナーノート(解説)を書きました。

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

◆毎週(土)23時、FMカオンにて「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」案内係をやってます。

◆ミステリを中心とする面白本書評なら、西野智紀さんのブログを。
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