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2020.04.27 (Mon)

第282回 テレワークなので『テレマークの要塞』を観た

テレマークの要塞
▲映画『テレマークの要塞』DVDは、
  ㈱ディスクロードの「復刻シネマライブラリー」より発売中。


 こんなに長いこと、映画も芝居も演奏会も美術展も行かない日々は、初めてだ。音楽ライターの仕事もほとんどキャンセルになり、本業も半ばテレワークなので、この際、自宅DVDで、映画『テレマークの要塞』を観た。小学校低学年のころ、両親と「中野オデヲン座」で観た映画だ。

 「中野オデヲン座」は、青梅街道、鍋屋横丁の交差点にあった映画館で、昭和25年創設。父や祖父からは、このあたりは、戦前には3~4館の映画館があったとよく聞いていた。実はここは、江戸時代、堀之内・妙法寺へ参詣に行く際の参道入口にあたる場所だった。みんな、ここにあった茶屋「鍋屋」で一息入れてからふたたび歩き始めたのである。
 それだけに、終戦までは、中野でいちばんにぎわった一角だったというが、わたしが物心ついたころは、映画館は「中野オデヲン座」だけだった。
 ちなみに、「オデヲン座」とは、東亜興業が中央線沿線を中心に展開した映画館チェーンで、たしか、「阿佐ヶ谷オデヲン座」が第1号だったと思う(現在、ラピュタ阿佐ヶ谷の手前にある「トーアフィットネスクラブ」がそうだ)。
 いま「オデヲン座」は、吉祥寺にしかない。

 当時のオデヲン座は、娯楽洋画二番館、3本立てだった。2~3時間が当たり前の外国映画を3本立てで組むとは、いったい、どのようなタイムテーブルだったのだろうか(毎週土曜日はオールナイトだった)。しかしとにかく、わたしは、ここで、子どものころから、映画好きの両親とともに、『大脱走』や『ナバロンの要塞』『レマゲン鉄橋』『007は殺しの番号』『007危機一発』といった娯楽映画を観て育ったのである。

 で、件の『テレマークの要塞』(1965年、アンソニー・マン監督)も家族で行ったのだが、なにしろこっちは子供だから、当然ながらよくわからずに観ていたわけで、2つのシーンしか覚えていない(後述)。半世紀以上たったいま、どんなふうに感じるだろうかと、すこしばかりワクワクしながら観た。

 これは、第2次世界大戦下、ナチスドイツに占領されたノルウェーの、雪山の町、テレマーク県リューケンが舞台である。ここにナチスの重水工場がある。重水は原爆製造に欠かせない。現地レジスタンスは、連合国の支援を受けながら、オスロ大学の反体制派科学者とともに、この重水工場の爆破に挑む。
 通常の戦争映画とちがうのは、舞台が雪に閉ざされた町であり、レジスタンスもナチスも、スキーで雪上を移動しながら逃げたり追ったりする。そのヴィジュアルが新鮮だった。内容は実話だそうで、原作は2冊のノンフィクション『Skis Against the Atom/原爆に立ち向かったスキー野郎たち』と『But for These Men/こいつらがいなかったら』である。
 アンソニー・マン監督はもともと西部劇を多く手がけたひとだが、特に『ウィンチェスター銃'73』(1950)や、『グレン・ミラー物語』(1953)、『ローマ帝国の滅亡』(1964)などで知られる職人である。
 それだけに派手さはないものの、手堅い演出で、ひさびさに、落ち着いた戦争映画を観たような気がした。

 ところで、子どものときに観て忘れられないシーンとは。
 ひとつは、主演の科学者(カーク・ダグラス)と、レジスタンスの女性が、ナチスに追われ、山小屋に隠れるシーンだ。すぐに追手が山小屋にやってくるのだが、ダグラスは、とっさに女性を抱きしめてブチュ~と強烈な接吻をするのである。女性が嫌がるかと思えばそうではなく、満足そうにすぐに応じる(この2人、以前は夫婦で、いまは離婚している)。つまり、新婚旅行でスキーに来たように装ったのだ。敵の目をごまかすためとはいえ、突然ブチュ~とは、子ども心にも、こんなものを観ていいのかと、ヒヤヒヤした記憶がある。

 もうひとつは、クライマックスの列車爆破シーンである。記憶では、山中でナチスの列車を爆破したように観ていたのだが、そうではなかった。重水を積んだ機関車そのものを乗せて海上を行く輸送船があり、そこに爆弾を仕掛けたのだった。よって、列車爆破シーンは地上ではなく、湾内の海上なのだった。ここでも、列車が船から脱線するように海に落ちて水没して行く、珍しいヴィジュアルが展開する。

 そんなわけで、やはり子どものころの記憶なんて、曖昧なものだなあと、意外と新鮮な気分で観たのだが、驚いたのは、マルコム・アーノルド(1921~2006)の「音楽」だった。
 アーノルドといえば、名作『戦場にかける橋』(1957年、デヴィッド・リーン監督)で、ケネス・アルフォード作曲のマーチ《ボギー大佐》に、自作の《クワイ河マーチ》を重ねあわせ、映画のテーマでもある「西洋と東洋の対立や融和」を、音楽でもみごとに表現したことで知られている。

 そのアーノルドが、翌年に音楽を手がけた映画に『六番目の幸福』(1958年、マーク・ロブソン監督)がある。イングリッド・バーグマンが、第二次世界大戦中に中国奥地で活動する宣教師を演じ、日本軍の攻撃から村の子どもたちを守る戦争大作映画である(これも実話ノンフィクションが原作)。
 この音楽も名作として知られており、交響組曲にまとめられているほか、近年では、吹奏楽版に編曲され、日本でも、コンクールの大人気曲である(学校吹奏楽部員なら、だれでも知っている)。
 この時期、アーノルドは、映画音楽作曲家としての頂点を迎えていたのだ。

 で、その音楽の一部、組曲でいうと、第1楽章〈ロンドン・プレリュード〉の一部が、1965年の『テレマークの要塞』でも使用されているのだ。原曲は、バーグマンが決意を固めて中国へシベリア鉄道経由で旅立つ、そのロンドンでの旅立ちのシーンの曲である。
 それが、同じ戦時下の物語とはいえ、雪中のノルウェーで、ナチスと闘うレジスタンスの曲になるのだから、音楽とは、面白いものだ。
 半世紀ぶりに、自宅DVDで観た『テレマークの要塞』だったが、意外なことに気づかせてくれた。「テレワーク」もバカにならないものである。

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

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