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2020.05.06 (Wed)

第283回 コロナが変えた金曜夕刊

新文芸坐
▲経営母体のマルハンとともに休館中の、老舗名画座「新文芸坐」(東京・池袋)


 映画ファンにとって、毎週金曜日の新聞夕刊は欠かせない。
 どの新聞も映画情報で埋まっており、新作映画の話題、映画評、スタッフ・キャストのインタビューなどが山ほど載っているからだ。往年の「ぴあ」と「キネマ旬報」を合わせたような感じである。
 よって、毎週金曜日夜、駅の売店で、朝日・毎日・読売・東京の4紙を買うことが、私の楽しみでもある(4紙あわせてたった200円。なお日経は、映画記事の分量が少ないので、あまり買わない。ちなみに、コンビニでは朝刊しか売っていないので、夕刊は駅構内で買うしかない)。

 ところが、首都圏の映画館は、近々、徐々に解除されるようではあるが、いまのところ、封切館もシネコンも名画座もミニシアターも、すべて休館中である。多くの新作も公開延期となった。おそらく、これほど長い期間、映画館の休館がつづくのは、史上、初めてだろう。
 「日本映画データベース」によれば、日米開戦の年、1941(昭和16)年でさえ、275本の邦画が製作公開されている。それどころか、すべてが灰塵と帰したはずの敗戦の年、1945(昭和20)年に至ってもなお、50本近い映画が封切されているのだ。黒澤明監督の『続姿三四郎』は昭和20年の5月に、阪東妻三郎主演の名作『狐の呉れた赤ん坊』(丸根賛太郎監督)は11月に、それぞれ公開されている(後者はGHQの検閲指導を受けた、ほぼ最初期の作品)。

 ちなみに、昭和20年8月15日も、映画は上映されていた(といわれている)。
 8月5日(9日説もあり)封切、『北の三人』(佐伯清監督、東宝)である。当時最高の顔合わせ、原節子・高峰秀子・山根寿子主演、音楽は早坂文雄! 3大女優が、青森や千島の航空基地に勤務する女性通信士を演じた“戦前最後の日本映画”だ(残念ながら、71分中、半分ほどのフィルムしか残っていない。通信士制服姿の3大女優が眼福だが、特に高峰秀子の可憐さは筆舌に尽くしがたい)。
 むかしの日本映画界は、かようにしぶとかったのである。
 それがコロナ一発で、この有様だ。

 しかし、そうなったら、いったい、金曜日の夕刊は、どうなるのか。記者たちは、どうやって紙面を埋めるのか。
 わたしは、物書き・編集者の端くれとして。その一点に異常なまでの興味をもって、ここ数週間の金曜日夕刊を眺めてきた。
 そして、ほぼ、その回答が出そろったようだ。
 いま、金曜日夕刊の紙面は、「過去の名作映画紹介」(DVDや配信)と、「配信新作映画評」の2本立てに、時折、「映画興行界の現状/将来レポート」を混ぜる形で出来上がっている(最初のうちは、かなり前に試写がまわっていた作品の評を載せて、末尾に「公開延期」などと記していた。いまでもその種の“新作評”を載せている新聞もある)。

 このコロナ禍で、配信作品への注目が一挙に高まった。アメリカでは、この数か月で、Netflixの新規会員が1600万人に達したそうで、日本でも、「アマゾン・プライム」や「Disney+」「hulu」とともに、会員が増えているらしい。米ユニバーサルが、劇場公開予定だった作品を、配信公開にシフトし始めたため。大手映画館チェーンが「今後、ユニバーサル作品はかけない」と対抗する“戦争”までもが勃発している。

 わたしが昨年観た海外の新作映画では、『ROMA ローマ』(アルフォンソ・キュアロン監督、米メキシコ合作)と、『アイリッシュマン』(マーティン・スコセッシ監督、米)の2本が圧倒的に面白かった。どちらも、Netflixの独占配信作品だが、あまりに前評判がいいので、一部の劇場で特別限定公開されたのだ。
 当初は、ネット配信映画と聞いていたので、パソコンの画面向きにつくられているのかと思ったのだが、そんなことはなかった。特に『ROMA ローマ』のクライマックスなどは、大スクリーンならではの迫力だった。深みのあるモノクロ映像とあわせて、これをパソコンやスマホで観たのでは、監督の目指したところが伝わらないのではないか、とさえ思った(ただし、スクリーン・サイズの比率は、スマホにピッタリなんだそうだ)。
 『アイリッシュマン』も、ロバート・デ・ニーロや、アル・パチーノ、ジョー・ペシといった老名優たちのアクの強い顔や演技が魅力で、ほとんど歌舞伎を観るかのようであった。これまた、映画館のスクリーンで観ると、圧倒的な面白さであった。

 『ROMA ローマ』は2018年のヴェネツィア映画祭で金獅子賞(最高賞)を受賞。昨年の米アカデミー賞でも10部門にノミネートされ、監督賞、外国語映画賞、撮影賞の3部門で受賞した。ただし、カンヌ映画祭では「劇場公開されていない作品は出品不可」との規定があり、ほかの配信作品とともに、閉め出された。

 『アイリッシュマン』は、本年の米アカデミー賞で9部門にノミネートされていたが、ひとつも受賞できなかった。本年は、ほかにも配信作品があったのだが、前年に“旋風”を巻き起こしすぎた反発か、全般に低調だった。スピルバーグが「配信作品はオスカーに値しない」と発言したことも影響しているかもしれない。

 しかし、いったいなぜ、名監督たちは、劇場を捨てて配信に走るのか。
 これに関しては、すでに多くの解説が出ており、この紙幅で述べられるものではないが、ひとことでいえば、Netflixなど配信会社の豊富な「資金力」に尽きるようだ。
 また、映画館が大量動員向けのシネコンばかりになったため、ファミリー向けやヒーローものであふれかえり、作家性のある作品は敬遠されるようになった。だったら、配信でもいいから、ひとりでも多くの観客に観てもらいたい、と考える監督が増えたせいもあるだろう。

 たまたまこの2作は、劇場公開されたので、わたしも観られたが、今後、配信作品はますます増え、会員がネットでしか観られない新作ばかりになるだろう。最近の金曜日夕刊は、すでに、その兆候を示している(ただ、過去の名作案内は、できれば、相応の年齢のベテラン記者か、プロの映画評論家に書いてもらいたい。明らかに周辺知識の乏しい記者が、DVDで大急ぎで観た“感想”にとどまっている記事が散見される)。

 映画ばかりではない。
 この4月は、国立劇場や歌舞伎座などの中止になった公演の、“無観客映像”が、次々と無料公開された。そして新聞夕刊は、それらの「評」を、本来の劇評欄に、堂々と載せた。読売のように、演劇評論家・渡辺保さんによる、昭和の名優回顧の連載をはじめた新聞もある(垂涎!)。
 今後、コロナ禍がどうなるのか、それによって映画や舞台公演の行方も変わるはずだが、配信の増加は、減りそうにない。それにあわせて、新聞紙面もさらに変わると思われる。金曜日の夕刊は、コロナによって変えられたのだ。
 ちなみに私は、未見のDVDが山ほどあるので、とても配信まで観ている時間はない。そうでなくとも、映画館や劇場が再開されれば、そっちに入り浸りになるはずだから。
<敬称略>

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

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