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2021.03.04 (Thu)

第301回 「五十代には責任がある」~ドラマ『男たちの旅路』

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▲ドラマ『男たちの旅路』DVD全5巻

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▲サントラLP(音楽:ミッキー吉野)


 最近のNHKは見逃し配信をやってくれるので、朝ドラや大河ドラマを、時々、ネット配信で観る。
 それで、いまさら思うのだが、昨今のドラマは、どこかつくりがおかしいのではないか。なにやら、こうつくれば盛り上がるとか、こんなふうにすれば話題になるといった、マニュアルみたいなものがあり、それに従ってつくっているとしか思えない。
 最初の数回で主人公の幼少時代が描かれる。不遇の環境に負けず、明るく成長する。誰もがハイテンションで、始終、叫んだり怒鳴ったりしている。
 人間の自己形成(成長)を描く小説を「ビルドゥングスロマン」と呼ぶが、昨今の大河や朝ドラがそれだと誤解されているのではないかと、不安になる。

 放送翌日には、昨夜の回が日本中で話題になっているような、宣伝ともヤラセともとれるネット・ニュースが必ず流れるのも、気持ち悪い(特に、子役をやたらと賞賛するのだが、正直いって、どのドラマでも、それほどうまいとは思えない)。
 NHKがそんな体たらくなのだから、民放ドラマなどは、語るに及ばないだろう。

 むかしのドラマは、もっとバラエティに富んでいた。
 わたしがNHKで忘れられないのは『男たちの旅路』(山田太一・脚本/1976~82年)で、全4部(計12話)+長編1話が放映された。
 あまりにも名作なので、ご存じのかたも多いだろうが、これは、太平洋戦争における特攻隊の生き残り(鶴田浩二)が、戦後社会になじめないまま、若者と衝突しながら、生真面目かつ不器用に、警備会社の管理職として生きていく物語である。

 共演者やゲストがすごかった。
 「シルバー・シート」には、志村喬、笠智衆、殿山泰司、加藤嘉、藤原鎌足、佐々木孝丸が登場する。往年の日本映画でも、これだけの老・名脇役が勢ぞろいすることはなかっただろう。
 「影の領域」では、池部良、梅宮辰夫、鶴田浩二の3人が同一画面のなかで共演する。東映ヤクザ映画ファンにはたまらない奇跡的な場面だった。
 身障者の生き方に踏み込んだ名作「車輪の一歩」では、車椅子の若者たちを、斉藤とも子、京本政樹、斎藤洋介(昨年逝去)、古尾谷雅人(2003年に自殺)らが演じていた。

 ドラマ全体が成長物語(ビルドゥングスロマン)の正反対で、後半はカタブツの鶴田浩二が若い部下(桃井かおり)に溺れてしまう。そして彼女が病死すると半ば自暴自棄になって退社、根室へ流れ、居酒屋の皿洗いに身を転じる。
 あまりの意外な展開に、この先、どうやって物語をまとめるつもりなのか、不安を覚えながら観た記憶がある。
 だが、さすがは山田太一で、ちゃんと「成長」を見せてくれる。
 その役は、部下の一人で、鶴田浩二に反発しながらも惹かれていた水谷豊が、見事に演じた。社長の命令で、わずかな手がかりをもとに、苦労の末、根室にいた鶴田浩二を探し当てた水谷豊。「ほっといてくれ」という鶴田に対し、えんえんと説教をはじめる。

 「気に入らないね」「あの頃は純粋だった(略)とか、いい事ばっかり並べて、いなくなっちまっていいんですか?」「戦争にはもっと嫌な事があったと思うね」「戦争に反対だなんて、とても言える空気じゃなかったって言ったね」「いつ頃からそういう風になって行ったか、俺はとっても聞きたいね」「そういう事、司令補まだ、なんにも言わねえじゃねえか」「そうじゃないとよ(略)、戦争ってェのは(略)案外、勇ましくて、いい事いっぱいあるのかもしれないなんて、思っちゃうよ」「それでもいいんですか? 俺は五十代の人間には責任があると思うね

 いままで、説教はすべて鶴田浩二の役目だったが、ここではついに、部下の水谷豊が説教するまでに「成長」したのだ。かくして、鶴田ありきでつくられたドラマのはずが、歴史にのこる名場面は、水谷豊がさらってしまった。

 いま、観なおしたり、シナリオを読み返すと、「五十代の人間には責任があると思うね」のセリフに胸を衝かれる。このころ、たしかに鶴田浩二は、まだ50歳代半ばだった。
 ここでいう「責任」とは、戦争を語り継ぐことの重要さみたいなことをいっているのだが、戦争の有無にかかわらず、五十代には、社会に対してある種の「責任」があるのだといっているようにも聞こえる。だから、とっくに五十代を超えてしまったわたしなどは、このドラマに戦慄すら覚える。戦争体験を題材にしていながら、いまでも通用する時代を超越したドラマだと思う。昨今のTVドラマでこんな思いに至ることは絶対にない。
 いま国会で、接待されただの忘れていただのと騒がれている50~60代の連中など、恥ずかしくて、このドラマは観られないのではないか。

 なお、このドラマの音楽は、元「ザ・ゴールデン・カップス」で、バークリー音楽院に留学~卒業・帰国直後のミッキー吉野が担当した。演奏は「ミッキー吉野グループ」となっているが、これは、実質、結成したばかりの「ゴダイゴ」である。
 アメリカ仕込みの乾いた楽想に、時折、浪花節のような抒情が混じる。そのさじ加減が絶妙で、これまたTVドラマ音楽史にのこる名スコアとなっている。
<敬称略>

※ドラマ『男たちの旅路』は、U-NEXTの配信で観ることができます。
※文中のセリフは、『山田太一セレクション 男たちの旅路』(山田太一著、里山社)より。


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