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2021.03.11 (Thu)

第303回 石巻の「ベテランにして新人」ジャーナリスト

石巻
▲本庄雅之さんが寄稿した、東京中日スポーツ新聞の紙面(3月11日付)。
「壁新聞」風にレイアウトされている理由は、下記本文で。


 本日は3月11日。
 どのメディアも「東日本大震災10年」で一色だが、本コラムでは、あるジャーナリストをご紹介したい。
 すでにYAHOOニュースにも転載されたので、ご存じの方も多いと思うが、東京中日スポーツ新聞の芸能デスクだった、本庄雅之さん(61)である。

 本庄さんは、長年つとめた同社を昨年末に定年退職し、故郷の宮城県石巻市にもどった。そして、この1月、地元紙「石巻日日(ひび)新聞」に再就職。第二の人生を歩みはじめた。
 本庄さんは、本日(3月11日付)、古巣「東京中日スポーツ」の文化芸能面に寄稿し、次のように書いている。

「10年前のあの日、実家も被災。丸4日、両親の生死が分からなかった。避難所での生存が確認できたのもつかの間、父親は避難先の秋田で難病を発症。6月に旅立った。極度のストレスが原因ではないかと関連死の申請をしたが、認められなかった。1年半後、リフォームした実家に戻った母親も4年前に他界。以来、家のメンテナンスなどで行き来しながら、石巻を見つめてきた」

 彼が再就職した「石巻日日新聞」は、前身まで含めれば1912年創刊の老舗新聞。石巻市、東松島市、女川町で発行されている夕刊紙だ。
 災害発生時、社屋が被災し、印刷が不能となった。だが、その間、「手書きの壁新聞」や「市販プリンタによる印刷」で「発行」しつづけ、結局、1日も休刊しなかったことで一躍注目を浴びた。その年の菊池寛賞を受賞している。

 いまでは地元紙で活躍する本庄さんだが、もともとは、演劇ジャーナリストである。
 大学卒業後、日刊スポーツを経て、東京中日スポーツの芸能記者となり、主に演劇、歌舞伎、宝塚歌劇などを取材、健筆をふるってきた。
 実は本庄さんは、わたしの大学ゼミの1年後輩で、学生時代からいまに至るまで、親しくしている。劇場や歌舞伎座でばったり会うことも多く、仕事で情報交換したり、陰で助け合ったことも何回もあった。

 そんな本庄さんが、若いころ、特に情熱を注いで取材していたのが、先代(三代目)市川猿之助(現・ニ代目市川猿翁)一座の歌舞伎だった。
 三代目は「歌舞伎の革命児」などと呼ばれ、血筋や門閥を重視しない自由な若手起用を推進した。また、「3S歌舞伎」(ストーリー、スピード、スペクタクル)を主張し、「スーパー歌舞伎」なる新ジャンルを創出した。宙乗り、早変わり、本水など、驚くべき舞台が続出した。
 だが、こういった新機軸に、眉をひそめる筋も多かった。二代目尾上松緑などは、「喜熨斗(きのし)サーカス」と呼んだ(「木下大サーカス」と三代目の本名「喜熨斗」をひっかけたダジャレ)。評論家のなかには、絶対に猿之助歌舞伎を評価しないひともいた。

 だが本庄さんは、ちがった。三代目の「お客様が来てくれなければ、いくら立派な芝居をやっても意味はない」との考え方に共鳴し、積極的に紙面で猿之助歌舞伎を紹介した。
 さらには作家の大下英治さんを起用し、猿之助歌舞伎の世界をドキュメントで描く連載も企画。えんえんと続いた。
 また、三代目が主宰する若手の歌舞伎集団「21世紀歌舞伎組」公演では、本庄さんがプログラムの大半を執筆し、応援しつづけた。

 現在、三代目はパーキンソン病で完全に舞台を降りているが、「猿之助」は甥が四代目を継いで大人気なのはご存じの通り。漫画『ワンピース』までもがスーパー歌舞伎となって続いているのも、三代目あってこそだが、その陰には、旧態依然たる演劇ジャーナリズムを脱した、本庄さんのような応援団がいたことも、忘れてはいけない(近年、尾上菊之助が『風の谷のナウシカ』を歌舞伎化して大成功したが、これも、三代目の影響があるように思う)。

 ところで。
 わたしはコミュニティFM(FMカオン/厚木、調布FM)で吹奏楽の音楽番組をもっているせいもあって、地方のミニFM局に興味があり、ときどき聴いている(ほとんどがネット経由で、どこでも聴ける)。特に震災直後は、開局認可の条件が緩和されたため、東北に次々と、ユニークなミニFM局が誕生した。

 そのなかのひとつ、宮城県牡鹿郡女川町のコミュニティFM「おながわさいがいFM」(現「オナガワエフエム」)が2016年3月に閉局することになり、同月26日夜、女川駅舎で閉局記念イベントが開催された。会場には50名前後の女川町民が招かれ、同局で生中継されていた。
 わたしも自宅のパソコンで聴いていたのだが、突然、そのイベントに桑田佳祐が登場し、歌い始めたので驚いてしまった。いわゆる「シークレット・ライヴ」である。

 実は本庄さんは、桑田佳祐も重要な取材対象で、ずっと追いつづけている。おそらく日本でもっとも多く、彼のステージを観ているジャーナリストではないか。それを知っていたので、わたしは大急ぎでスマホで本庄さんにメッセージを送った。
「女川FMに、桑田さんが生出演してるぞ!」
 すぐに、こんな返事が来た。
「いま、その会場にいます」

 石巻の「ベテランにして新人」ジャーナリスト、本庄雅之さんの今後の活躍を祈ります。
<一部敬称略>

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「Band Power」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

◆毎週(土)23時・FMカオン、毎週(日)正午・調布FMにて、「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティをやってます。
 パソコンやスマホで聴けます。 内容の詳細や聴き方は、上記「BandPower」で。

◆ミステリを中心とする面白本書評なら、西野智紀さんのブログを。 
 最近、書評サイト「HONZ」でもデビューしています。

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