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2021.06.30 (Wed)

第317回 小林亜星さん、逝く。

小林亜星CMソング
CD「小林亜星CMソング・アンソロジー」(テイチク)
 ほかにアニメ集、TVサントラ集もあり。
 ちなみにブリヂストンのCM曲《どこまでも行こう》は、岩井直溥によって、
ブリヂストン吹奏楽団久留米のために、吹奏楽編曲されている。


 作曲家の小林亜星さんが亡くなった(享年88)。
 わたしは、亜星さんとは、数回、すれちがうようにしてお会いしただけだが、たいへん印象に残っていることがある。

 たしか、2010年ころのことだったと思う。
 西荻窪の小さなスナックで、河辺浩市さんを囲む会が開かれた。
 河辺浩市さん(1927~2014)は、日本を代表するジャズ・トロンボーン奏者だ。東京藝大の卒業で、一時、N響のサブ団員(研究員)だったこともある。
 藝大時代の同級生・黛敏郎とは長年の親友関係で、黛のほとんどの映画音楽に演奏参加している。たとえば、小津安二郎監督『お早よう』(1959)の、子どもたちのオナラの音なども河辺さんの”演奏”である。
 映画『嵐を呼ぶ男』(1957)では、ドラムスの石原裕次郎と”共演”した(編曲も河辺さん)。
 越路吹雪リサイタルの、事実上の音楽監督としても、長年、活躍した。

 だが、吹奏楽にかかわっている方にとっては、コンクール課題曲《高度な技術への指標》(1974年度)や《シンフォニック・ポップスへの指標》(1975年度)の作曲者としておなじみだろう。
 特に前者などは、佐渡裕&シエナ・ウインド・オーケストラによってリバイバル・ヒットし、近年ではTVやラジオのバラエティ番組のBGMとしてよく流れている。
 ”吹奏楽ポップスの父”岩井直溥さんは藝大の1年先輩で、戦後、アーニー・パイル楽団で一緒だった時期もある。

 そんな河辺さんに、むかしの音楽界の思い出を語ってもらう、小さな会だった。
 十数人の参加者だったと思う。
 ひととおりの話が終わり、雑談もすんで閉会となるころ、ドアを開けて、大柄な男性が、入ってきた。
 一見して、小林亜星さんだとわかった。明らかに常連のような雰囲気で、気軽に入ってくる。
 なぜ亜星さんほどの大作曲家が、このような(失礼!)西荻窪の奥まった店にやってきたのか、不思議だった(あとで知ったのだが、ポピュラー音楽関係者の間では知られたお店だった)。

 亜星さんは、奥に座っている河辺さんを見つけるや、
「あれ? 河辺さんじゃないですか!」
 と声をかけ、直立不動とまではいかないが、突然、シャンとなって、
「おひさしぶりです。お元気そうですね」
 と頭を下げて挨拶している。
 わたしは亜星さんとは初対面ではなかったが、あんなに畏まった姿を見るとは思わなかった。

 亜星さんは、あの体格そのものの、剛毅な性格でも知られていた。
 1994年、日本音楽著作権協会(JASRAC)で、不正融資事件が発覚した。古賀政男の財団に巨額の無利子融資をおこなっていたのだ。このとき、亜星さんは、記者会見を開き(ご自身も理事だった)、ものすごい剣幕でJASRACを糾弾した。
 わたしもその記者会見に行ったのだが、”作曲家”のイメージを覆す凄まじい形相に驚いた記憶がある。これがほんとうに、《この木なんの木》や、ニッセイのおばちゃんの歌を作曲したひとなのかと、震え上がったものだ。
 たしか、あの後、JASRACを監視する組織も立ち上げたはずだ。

 その後、同業の服部克久氏に対し、自作《どこまでも行こう》(ブリヂストンCMソング)を剽窃したと訴え、最終的に最高裁まで争い、勝訴を勝ち取っている(ちなみに一審では亜星さん側の請求は棄却されていた)。
 まさに、亜星さんとは、TVドラマ「寺内貫太郎一家」で演じていた、あのままのカミナリ親父ではないかと思われるほどだった。

 それだけに、河辺浩市さんの前で畏まっている亜星さんの姿が、意外だったのだ。
 さっそく亜星さんに、
「河辺さんとはお親しいんですか?」
 と聞いてみた。
 すると亜星さんは、おおむね、このようなことを語った。
「河辺さんは、たいへんな方なんだよ。このひとがいなかったら、オレたちの仕事は、ほとんどできない。日本で最高のトロンボーン奏者。ジャズもすごいけど、スタジオ仕事がすごい。CMでも映画音楽でも歌謡曲でも、スタジオに入って、その場で突然、譜面を渡されて、リハもなく、せ~の、って始めて、イッパツでOKだもん。いったい、オレのCMを、何曲吹いてくれましたかねえ」
(このとき、河辺さんが演奏参加した亜星作品を、聞いておけばよかった!)

 亜星さんに絶賛されながら、河辺さんは照れた表情をされていた。
 同時に、決して表に名前の出ないスタジオ・ミュージシャンに対し、畏まってキチンと挨拶をしている亜星さんを見て、すてきなメロディを次々に生み出せるひとは、やはりどこかちがうんだなあと、気持ちがあらたまったものだ。
 亜星さん、あちらで河辺浩市さんが待ってるはずですから、また一緒に楽しくスタジオ仕事をしてください。
〈一部敬称略〉

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