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2016.02.16 (Tue)

第151回 東京佼成ウインドオーケストラ 第127回定期演奏会

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 昔、知人が「課題曲、十年前にも聴いたよう」と、川柳とも冗談ともつかないことを、よく口にしていた。
 要するに吹奏楽コンクール課題曲(特にマーチ)は、十年一日のごとく、似たような曲だというのだ。

 私が吹奏楽の世界を見聴きするようになって、そろそろ50年近くたつが、確かにそう感じないものでもない。
 だが、ほとんどの演奏者、特に学校吹奏楽部員にとって、課題曲は、一生のうちの数年間で、せいぜい2~3曲に接するだけのはずだから、それが10年前と同じような曲であっても、別にいいような気もする(指導者や、一般・職場バンドに長くいるひとにとっては、そうでもないだろうが)。
 そして、公募課題曲は、相応の審査過程を経て選ばれたのだから、「十年前にも聴いたよう」だとしても、まず楽曲として真摯に向き合うべきだと思う。

 近年、東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)で、正指揮者・大井剛史氏が指揮する課題曲は、そのことを、とても強く感じさせてくれる。
 先日の第127回定期演奏会でも、2016年度の課題曲5曲全部を、「デモ演奏」ではなく、きちんと「聴かせる楽曲」として演奏してくれた。

 全部に触れると長くなるので、2曲だけ、雑感を。

Ⅰマーチ・スカイブルー・ドリーム(第26回朝日作曲賞受賞)/ 矢藤学作曲
 マーチだが、4拍子で書かれている。
 この曲の楽譜には、アーティキュレーション(スタッカート、テヌートや、アクセントなど)が皆無で、一瞬、印刷ミスかと思う。
 スコアの作曲者コメントには「自然に発生する表現を大切に」してほしいので、「楽譜には最小限のことしか書いて」いない、「創意工夫をもって、自由に表現して」ほしいとある。

 しかし、なにぶん標準的な「マーチ」なので、そうそう個性的なアーティキュレーションをつけるのも妙な話で、今回の演奏でも、ごく自然な表情で演奏されていた。
 今後、このTKWOや、参考演奏とはちがうアーティキュレーションの演奏が登場するのだろうか(鈴木竹男氏時代の阪急百貨店吹奏楽団だったら、どう演奏しただろうか)。
 なお、作曲者は公立中学校の理科の先生だが、なかなかのメロディ・メーカーだと思った。

Ⅲ ある英雄の記憶 ~「虹の国と氷の国」より/ 西村友作曲
 私は東京・豊島区に住んでいるので、以前から豊島区吹奏楽団を身近に聴いてきた。
 そこで長く指揮者をつとめていたのが、西村友氏である。
 指揮だけでなく作曲もこなす才人で、特に、コンサート形式の《銀河鉄道の夜》は忘れがたい(劇団ひまわりのために作曲されたミュージカルを、吹奏楽版に改訂し、歌手やコーラスとともに上演した)。

 ミュージカルやオペラの指揮者としても知られたひとだけあり、この課題曲もミュージカルが原曲である。
 それは、ある幼稚園の発表会で、子供たちと先生とでつくりあげた「虹の国と氷の国」なるお話で、西村氏は、これに音楽を書いてあげたという。
 だが、なにぶん幼稚園なので、どんどんカットされ、短くなってしまった、そこでもったいないので、カットされた素材を中心に、吹奏楽曲として再構築されたのが、本曲だとのこと(以上、吹奏楽連盟の会報より)

 つまり、これは幼稚園の発表会から生まれた吹奏楽曲なのだ。
 映画音楽とゲーム音楽が合体したようなスリリングさがあり、特にスコア【P】のトランペットⅠ「Soar!」(高く舞え!)に始まるクライマックス部分は、さすがにミュージカルの専門家といった感じで、聴いていて心地よい。
 TKWOは、このあたりの演奏が見事で、音の洪水になる一歩手前のところで、とても品よくまとめていて、きれいだった。

 なお、この日演奏された課題曲5曲は、ライヴ録音され、Amazon Recordsから、3月5日に発売されるという。
 Amazon Recordsとは、あのアマゾンで限定発売されるオン・デマンドのCDレーベルで、ほとんどはポップス系のライヴ音源である。
 今回が、おそらく初めての吹奏楽CDで、もしこれが成功すれば、今後、クラシックなどの独自企画も考えられるかもしれない。
 なかなか面白い発信方法だと思う。

 この日は、中橋愛生氏の委嘱新作《陽炎(かぎろひ)の樹~吹奏楽のための》も初演された。
 夜から明け方にかけて、陽が昇る過程を、一本の大樹をモチーフにして描く、約12分の曲だ。

 私の第一印象は、とても「きれいな曲」だった。
 「きれい」とは、旋律が美しいとかいう意味ではない。
 曲のたたずまいや、志(こころざし)に、清浄感があるように感じた。
 この感覚は、日本人だから理解できるものだと思う(それだけに、海外の吹奏楽団がどのように演奏するだろうと、興味がわいた)。

 作曲者自身の解説にもあった通り、曲は、三部構成。
 次第に陽が昇り、夜空から〈曙光〉に至り、大樹の木漏れ日を描く〈光芒〉、そして大樹と陽光が一体化する〈煌宴〉と、素晴らしい響きを聴かせてくれた。
 特に前半は、ホールの豊かな残響を計算して書かれているようで、和音と和音のぶつかり合いや重なり方が、いままで聴いてきた吹奏楽曲とはちがう響きで新鮮だった。
 できれば早々に、実演か録音で、もう一度、じっくり聴きたいと思わされる曲だった。

 後半は、いまや古典的名曲、ジェイガーの《シンフォニア・ノビリッシマ》と、交響曲第1番

 前者は、1963年、ジェイガーが、新婚ホヤホヤの夫人に捧げた曲である。
 1977年にジェイガーが来日し、TKWOを指揮してこの曲を演奏したが、そのリハーサルの際、同伴していた夫人を指揮台の横に座らせ、楽団ではなく、夫人を見ながら指揮したという。
 その様子を見ていた故・岩井直溥氏が「何だかデレデレしちゃってさあ、いくらカミさんに捧げた曲だとはいえ、キザな男だなあと思ったよ」と大笑いしていたのを思い出す。
 今回の大井氏の指揮は、もちろんデレデレどころか、鳴らしすぎない、それでいて質実剛健な演奏。

 交響曲第1番は、1964年に、ワシントンの陸軍バンドが初演した。
 その初演を、「ワシントン・ポスト」紙が絶賛したことで、一挙にジェイガーの名は広まった(これが、世界的マスコミが、吹奏楽オリジナル曲を評価した、ほぼ最初だとの説がある)。

 この曲は、1960~70年代、コンクールで、第4楽章の抜粋演奏が人気となったせいもあり(特に、1970年の天理高校の金賞名演が話題となった)、全曲演奏の機会が、意外と少なかった。
 昔のレコードやCDでも、第4楽章のみを収録した盤があったものだ。

 実は大井氏とTKWOは、一昨年の地方公演で、この曲を全曲演奏している。
 もちろん演奏も素晴らしかったのだが(私は、司会解説で同行させていただいた)、「第4楽章以外もよかった」「ぜひ、本公演でも取り上げてほしい」との声が相次いだ(特に、「第2楽章が面白かった」との声が、若い聴衆に多かった)。
 それが一因となって、今回、演奏されることになったと思うのだが、今回も実にていねいな演奏だった。
 特に第4楽章クライマックス、Allegro molto vivaceからの部分は、ジェットコースターのように慌ただしい演奏が多いのだが、大井氏は、スピード感を失うことなく、それでいてじっくりと聴かせてくれて、たいへん安心感のある演奏だった。
 ぜひ、こういう曲を、いまの学校吹奏楽部員に聴いてもらいたいと思った。

 ジェイガーは、その後、立正佼成会の委嘱で、交響曲第2番《三法印》を発表している。 
 第1番とはまったくちがったタイプの曲で、 これもなかなか演奏されないので(数年前に、広島WOが演奏したようだ)、ぜひ本家による実演で聴いてみたいものだ。
 大井氏とTKWOには、このような「古典」を、さらに発掘して聴かせていただきたいと願う。
(2月13日、東京芸術劇場にて/一部敬称略)

このCDのライナーノートを書きました。上記・大井剛史氏とTKWOのディスクです。

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

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