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2016.02.18 (Thu)

第152回 ラピュタ阿佐ヶ谷「芸に生きる」

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 2月21日(日)から、東京・杉並の名画座「ラピュタ阿佐ヶ谷」で、「芸に生きる」と題された特集上映が始まる。
 様々な芸事、芸道を題材にした映画30本が上映される。
 これが見事なラインナップで、「昭和の香り漂う音楽ライター」としては、紹介しないわけにはいかない。

 ただし、とても全部は書ききれないので、特にお奨めしたい何本かについて、見どころを記しておく。
 上映日程や時間の詳細は、同館のウェブサイトやチラシでご確認いただきたい。
 なお同館は定員48名のミニ・シアターなので(+補助席・通路座りが数席)、その点もご承知おきいただきたい。
 以下、上映順に記す。

◆歌行燈(昭和18年、東宝、白黒/成瀬巳喜男監督)
 戦況が悪化している昭和18年に、よくぞ、こんな映画ができたと思う(滅び=敗戦を予感しているような雰囲気もある)。
 泉鏡花の名作を久保田万太郎が脚色し、成瀬巳喜男が監督した、能の世界を描く逸品。
 特に山田五十鈴が、花柳章太郎から松林の中で舞を伝授される場面は、映画史に残る名シーン。
 ベルさんは《海人》(海士)の「玉ノ段」を舞うが、昔の女優は、若いうちから、これほどの芸ができなければ仕事にならなかったのだ。
 いまのジャリタレどもに見せてやりたいものだ。
 なお、花柳が演じる喜多八のモデルが、後記『獅子の座』原作者・松本たかしの父=宝生流の松本長といわれている(泉鏡花の親戚)。
 昭和35年に、市川雷蔵と山本富士子でリメイクされている。
【★★☆】

◆花の慕情(昭和33年、東宝、カラー/鈴木英夫監督)
 華道家元の司葉子(美しい!)が、教室経営と恋の狭間で苦しむ、典型的なメロドラマ。
 司葉子が、修羅の表情で花を生けるシーンに、バッハ《小フーガ》ト短調のオーケストラ版が、ほぼ全編、流れる(よって、たいへん長く感じる)。
 この場面がすごい。
 ほとんどフーガに合わせて画面が編集されており、まるで、バッハが生け花のBGMを書いたようである。
 音楽担当は芥川也寸志、生け花は草月流の勅使河原蒼風。
【★☆☆】

◆獅子の座(昭和28年、大映、白黒/伊藤大輔監督)
 名匠・伊藤大輔監督の念願の名作で、今回の目玉作品の一つ。
 江戸時代末期、歴史に残る「弘化勧進能」の舞台裏を、宝生流の全面協力を得て描く。 
父(十五世)宝生弥五郎を長谷川一夫が、息子(十六世)石之助(のちの、明治三名人の一人、宝生九郎知栄)を子役時代の津川雅彦が、さらに、彼を鍛えるスパルタ母を田中絹代が演じる。
 親戚の娘・岸恵子の美しさも見どころだが、虐待一歩手前の、息子の特訓シーンがすさまじくて、これは津川雅彦の代表作の一つといってもいいのではないか。
 原作は、俳人・松本たかしの小説『初神鳴』(松本の父・松本長は、津川雅彦が幼少時代を演じた宝生九郎の門弟)。 
 なお本作は、本来の配給元KADOKAWA(旧大映)にも上映プリントがないのか、国立近代美術館フィルムセンターからのレンタルである。
 よって規定により3回しか上映されないので、混雑が予想される。
【★★★】


残菊

◆残菊物語(昭和14年、松竹、白黒/溝口健二監督)
◆残菊物語(昭和31年、大映、カラー/島耕二監督)
 明治時代、養子ゆえのコンプレックスと気の弱さで芸を忘れ、勘当される二代尾上菊之助が、女中の献身的な協力と愛情で復帰するまでの実話。
 花柳章太郎と森赫子が演じた溝口版は世界映画史に残る傑作(昨年のカンヌ映画祭で、デジタル修復版が上映され、喝采を博したが、今回の上映は旧来のフィルム版のようだ)。
 2人でスイカを切りながら心を通い合わせる場面など、溝口お得意の1シーン1カット撮影が、まるで隠しカメラで決定的瞬間を撮ったような緊張感を生み出す。
 これは奇跡の映画である。
 リメイク版は、長谷川一夫と淡島千景で、華やかなカラー歌舞伎映画となっているが、こちらは16㎜プリントらしいので、ちょっと見づらいかもしれない。
 なおもう1本、市川猿之助(現・市川猿翁)と岡田茉利子による昭和38年の松竹版もあって、これもなかなかいいのだが、今回は上映されないようだ。
溝口版【★★★】
島版【★☆☆】


鶴八

◆鶴八鶴次郎(昭和13年、東宝、白黒/成瀬巳喜男監督)
◆鶴八鶴次郎(昭和31年、松竹、カラー/大曾根辰保監督)
 新内語りの男女名コンビが、ついたり離れたりしながら生きて行く芸道物の名作。
 原作は川口松太郎の第1回直木賞受賞作。
 成瀬版の長谷川一夫と山田五十鈴は、筆舌に尽くしがたい若さと美しさ(長谷川30歳、ベルさん21歳!)。
 特にベルさんの面長な顔は、浮世絵からそのまま出てきたかのようで、歌麿らが描いた江戸美人はデフォルメでもなんでもなく、昔はああいう浮世絵顔が実在したのだということがよくわかる。
 確かベルさんの弾く新内三味線は、吹き替えではなく、ご本人の演奏だったと思う。
 あの名ラスト・シーンにまた出会えるのかと思うと、いまから胸が震える(若いひとは「これで終わり?」としらけるそうだが、あれに感動できてこそ、ほんとうの映画好きですよ)。
 リメイク版は、高田浩吉と淡島千景で、前作に比して脇役が多く、群像ドラマ的な構成になっていて面白いのだが、これも残念ながら16㎜プリントのようだ。
 それでも、前記、リメイク版『残菊物語』と共に、絶頂期の千景姐さんの粋なお芝居が堪能できる。
成瀬版【★★☆】
大曾根版【★☆☆】


冥途の飛脚

◆文楽 冥途の飛脚(昭和54年、カナダ、カラー/マーティ・グロス監督)
 このようなドキュメンタリを組み入れるところに、ラピュタ阿佐ヶ谷の企画力の高さがうかがえる。
 これは、カナダの映画監督マーティ・グロスが、京都の大映太秦撮影所のスタジオ内に、文楽の舞台セットを組んで、じっくり撮影された垂涎の記録映画である。
 演目は近松の『冥途の飛脚』抜粋(ただし、下の巻は、ほとんど、改変作『恋飛脚大和往来』となっている)。
 出演者は、越路大夫、文字大夫(後の住大夫)、織大夫(後の源大夫)、燕三(五世)、清治、錦糸(四世)、玉男、簑助、勘十郎(二世)……と、全員が(当時、および後の)人間国宝で、あいた口がふさがらない。
 よくこんな企画を、外国人監督が実現させたと思う。
 スタジオ撮影だけに、通常の劇場中継では不可能なカメラワークも続出する。
 越路大夫の語りをアップで観られるのだ。
 これは、日本人なら一度は観ていなければならない、世界遺産級の映像である。
 なお、「音響・音楽監修」が武満徹となっているが、特に武満の楽曲が流れるわけではないので、誤解なきよう。
 この映画は、日本では、通常の映画館では公開されず(特別上映か、輸入ビデオでしか観られなかった)、平成23年になって、初めてデジタル・リマスターが劇場公開された。
 今回は、そのブルーレイ版での上映である。
【★★★】


ガス人間

◆ガス人間第1号(昭和35年、東宝、カラー/本多猪四郎監督)
 不本意ながら気体人間にされてしまった男と、没落寸前の日舞家元との、あまりに哀れな恋を描く、怪奇SF映画の傑作。
 仕掛けこそ荒唐無稽だが、構成はシェイクスピア悲劇やギリシャ悲劇を思わせる見事さである。
 なんといっても日舞家元を演じる八千草薫(当時29歳)の、この世のものとは思えない美しさに、言葉を失う(彼女が舞う長唄舞踊は「情鬼」=蒸気! 作曲は杵屋勝四郎)。
 八千草もさることながら、主演・土屋嘉男の最高傑作に挙げるひとも多い。
 なお、音楽(宮内國郎)のかなりの部分が、後年のTVドラマ『ウルトラQ』や『ウルトラマン』で再使用されており、ファンには聴き逃せない。
【★☆☆】

 ほかに、
 明治の洋画家・牧野虎雄を大河内傳次郎が飄々と演じる『生きている画像』(昭和23年)
 五十嵐じゅん(現・淳子)が脱ぎまくる『阿寒に果つ』(昭和50年、原作・渡辺淳一)
 山本富士子が美貌のツンデレを演じる『お琴と佐助』(昭和36年、原作=谷崎潤一郎『春琴抄』)
 藤本義一の直木賞受賞作を映像化した凄絶芸人物語『鬼の詩』(昭和50年)
岩下志麻が絶品名演を見せる『はなれ瞽女おりん』(昭和52年、原作・水上勉)
などが特に見逃せない。

【★★★】 嗜好に関係なく、お金と時間を費やす価値がある。
【★★☆】 嗜好が一致するのなら、お金と時間を費やす価値がある。
【★☆☆】 嗜好の範囲を広げる気があるなら、お金と時間を費やす価値がある。
【☆☆☆】 お金も時間も費やす価値はない。



このCDのライナーノート(解説)を書きました。とてもいいCDだと思います。

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

毎週(土)23時、FMカオンにて「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」案内係をやってます。2月は「追悼、ブーレーズ」と、「吹奏楽で聴く、BP芸能ワイドショー!」です。

◆ミステリを中心とする面白本書評なら、西野智紀さんのブログを。

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