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2016.02.22 (Mon)

第153回 グラミー賞雑感

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▲ラヴェル『子どもと魔法/シェエラザード』小澤征爾指揮、サイトウ・キネン・オーケストラほか [Decca]海外盤

 小澤征爾氏が指揮したディスクが、グラミー賞の「ベスト・オペラ・レコーディング」に選定されたが、新聞報道を見て、気になったことがある。

 グラミー賞の公式ウェブサイトでは、以下のように発表されている。

BEST OPERA RECORDING
WINNER
Ravel: L'Enfant Et Les Sortilèges; Shéhérazade
Seiji Ozawa, conductor; Isabel Leonard; Dominic Fyfe, producer (Saito Kinen Orchestra; SKF Matsumoto Chorus & SKF Matsumoto Children's Chorus)
Label: Decca


 これによれば、受賞ディスク名は、ラヴェル『子どもと魔法/シェエラザード』である。
 収録曲は、以下3曲。

①ラヴェル作曲/歌劇『子どもと魔法』全曲
 イザベル・レナードほか、SKF松本合唱団、SKF松本児童合唱団
②ラヴェル作曲/歌曲集『シェエラザード』(3曲)
 スーザン・グラハム(歌)
③ラヴェル作曲/道化師の朝の歌
 (3曲とも)小澤征爾(指揮)、サイトウ・キネン・オーケストラ

 すべて、サイトウ・キネン・フェスティバル(現「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」) におけるライヴ収録である。
 賞は、この3曲をおさめたアルバムに対して贈られた(冒頭に掲出したのが、そのジャケット)。
 ところが、これは海外リリース盤で、日本では、②と③をカットし、①のみを収録したものが、国内盤としてリリースされている(現在品切れで、追加生産中らしいが)。
 下記のように、ジャケットも、海外盤とはちがっている。

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▲ラヴェル『子どもと魔法』小澤征爾指揮、サイトウ・キネン・オーケストラほか [Decca/ユニバーサル]国内盤

 だから、厳密に表記すれば「小澤征爾指揮、スーザン・グラハムなどが参加したディスク『子どもと魔法/シェエラザード』」などとして、受賞ディスクは「海外盤」であることを示すべきだろうが、私が見た限り、そのような表記はなかった。
(読売新聞2月16日付夕刊だけが、海外盤のジャケット写真を掲載していたが)
 まあ、これは「オペラ部門」の賞であり、②と③はオペラではないのだから、①のみが受賞対象ということで、②③はどうでもいいのかもしれないが。
 スーザン・グラハムといえばアメリカ生まれの大スターで、彼女の名前があったからこそ、アメリカの音楽賞であるグラミー賞の対象として注目されたような気もするのだが、なぜ、国内盤で彼女がカットされたのだろうか。

 そして、ほとんどの新聞報道の見出しが「小澤征爾さんグラミー賞」となっていた(朝日新聞2月16日付夕刊は「小澤さん指揮 グラミー賞」だった)。
 毎日新聞に至っては「指揮者の小澤征爾さん(80)が第58回グラミー賞の最優秀オペラ部門で受賞したとの知らせに…」と書かれている。
 間違いとはいえないのだが、これだと、小澤征爾氏個人が受賞したように読めなくもない。

 グラミー賞の各部門は、数年ごとに見直されるが、現在、クラシカル分野は、以下8部門で構成されている(ついでに、今回の受賞ディスクも挙げておく)。

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①ベスト・オーケストラ・パフォーマンス
『ショスタコーヴィチ:交響曲第10番』アンドリス・ネルソンス指揮、ボストン交響楽団[Deutsche Grammophon]

②ベスト・オペラ・レコーディング
(前記『子どもと魔法/シェエラザード』)

徹夜祷
③ベスト・コラール・パフォーマンス
『ラフマニノフ:晩祷(徹夜祷)』チャールズ・ブルフィ指揮、カンザス・シティ・コーラスほか[Chandos]

フィラメント
④ベスト・室内楽/小アンサンブル・パフォーマンス
『フィラメント~デスナー/マーリー/ロット/グラス室内楽作品集』エイト・ブラッグバード[Cedille Records]

ジョイストニー
⑤ベスト・クラシカル・ソロ・ヴォーカル・アルバム
『ジョイス&トニー ライヴ・フロム・ウィグモア・ホール』ジョイス・ディドナート(メゾ)、アントニオ・パッパーノ(ピアノ)[Erato]

デュティユー
⑥ベスト・クラシカル・インストゥルメンタル・ソロ
『デュティユー:メタボール/ヴァイオリン協奏曲《夢の樹》/交響曲第2番』より、協奏曲に対して アウグスティン・ハーデリッヒ(Vn)、ルドヴィク・モルロー(指揮)、シアトル交響楽団[Seattle Symphony Media]

3つの啓蒙
⑦ベスト・クラシカル・コンペンディウム『スティーヴン・ポールズ:3つの啓蒙の地/涙のヴェール/大協奏曲』ジャンカルロ・ゲレーロ(指揮)、ナッシュヴィル交響楽団ほか[Naxos]

祈りと回想
⑧ベスト・コンテンポラリー・クラシカル作曲
『スティーヴン・ポールズ:祈りと回想~合唱作品集』エリック・ホルタン(指揮)、トゥルー・コンコード・ヴォイシズ、トゥルー・コンコード管弦楽団ほか[Reference Recordings]

(⑦⑧と、スティーヴン・ポールズのディスクが2部門で受賞しているが、このひとは、現代アメリカ作曲界の重鎮で、話題になったオペラ『郵便配達は二度ベルを鳴らす』の作曲者である)

 グラミー賞とは、アメリカの音楽産業に寄与したクリエイター、アーティスト、ディスク等に対して贈られるものだ。
(もともとは「グラモフォン賞」=「蓄音機賞」だったが、やがて愛称「グラミー賞」が正式名になった)
 クラシカル分野の場合、②オペラ・レコーディング、⑦クラシカル・コンペンディウムの2部門は、「ディスク」対象の色彩が濃厚だ。
 特に前者は、「ベスト・オペラ・パフォーマンス」でも「ベスト・オペラ・アーティスト」でもなく、「ベスト・オペラ・レコーディング」である。
 だから、この2部門だけは、発表の際、アーティスト名のほかに、「プロデューサー」名が同列に表記される。
 それは、②『こどもと魔法/シェエラザード』がドミニク・ファイフ、⑦『スティーヴン・ポールズ~』がティム・ハンドレーとなっている。

 また、どの新聞報道でも、(国内盤の)ディスク名『子どもと魔法』は表記されるが、レーベル名(発売元)を表記した新聞は、皆無だった。
 この件は、前にも書いたのだが、なぜ、新聞は、「報道記事」になると、CDのレーベル名(発売元)を明記しないのだろう。
 文学賞の受賞記事では、出版元(あるいは掲載誌名)が明記されるのに、なぜグラミー賞受賞記事では、レーベル名が出ないのだろう。
 グラミーの公式ウェブサイトでも、すべて、レーベル名が明記されている。
 『子どもと魔法/シェエラザード』だったら、[Decca]である(私の筆名の由来)。
 国内盤『子どもと魔法』の場合、Deccaレーベルはユニバーサルミュージック合同会社の傘下なので、[Decca/ユニバーサル]もしくは[ユニバーサル]などと表記されるべきだろう。

 最後に。
 いくつかの新聞は、日本人の、過去の主なグラミー賞受賞者を表で掲出していた。
 
1987年 石岡瑛子(デザイナー)
1989年 坂本龍一(作曲家)
2001年 喜多郎(シンセサイザー奏者)
2011年 松本孝弘(ギタリスト)、内田光子(ピアニスト)、上原ひろみ(ジャズ・ピアニスト)
2016年 小澤征爾(指揮者)
(部門名は省略)

 この表は、たぶん共同通信の配信だと思うのだが、ここに小澤征爾氏を加えるのなら、以下も加えてほしかった。

2008年/中村浩二
 ベスト・ニュー・エイジ・アルバムを受賞した、ポール・ウィンター・コンソートのディスク『クレストン』に、和太鼓奏者として参加している。

2014年/Sadaharu Yagi ベスト・ラテン・ポップ・アルバムを受賞した、ドラコ・ロサのディスク『VIDA』を手がけた、ミキシング・エンジニア(ロス在住)。

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2014年/五嶋みどり
 ベスト・クラシカル・コンペンディウムを受賞した、エッシェンバッハ指揮、北ドイツ放送交響楽団のディスク『ヒンデミット作品集』に、ヴァイオリン協奏曲のソロとして参加。

 この3人は、「アルバム」として受賞したディスクに、スタッフや演奏者の一人として参加していた日本人であり、今回の小澤征爾と、立場は同じである(「指揮者」は単なる「参加者」以上の存在だ、といわれれば、それまでだが)。
 特に、ソロイストとして参加したディスクが、立派なグラミー賞を受賞しているのに、なぜ今回、五嶋みどり氏の名が出ないのか、少々不思議だった。
(この「ベスト・クラシカル・コンペンディウム」なる部門名が、どうもわかりにくい。「コンペンディウム」とは「概要」といった意味なので、強いていえば「ベスト集」「選集」みたいなニュアンスだろうか)。

 私は、小澤征爾氏をすごい音楽家だと思っているが、今回の新聞報道を見ると、何が何でも、さらに素晴らしい存在に格上げしなければ気がすまないような、一種の「無理やり感」を覚えたのだが、考えすぎだろうか。

 以上、どうでもいい話かもしれないが、気になって仕方ないので、あえて書いた。
(一部敬称略)

◆上記で紹介したグラミー賞受賞ディスクは、ほとんどが、ナクソス・ミュージック・ライブラリー(会員制)で配信されています(一部、リンク・ミスや、ディスクちがいなどがあるようなので、注意)。

このCDのライナーノート(解説)を書きました。とてもいいCDだと思います。

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

毎週(土)23時、FMカオンにて「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」案内係をやってます。2月は「追悼、ブーレーズ」と、「吹奏楽で聴く、BP芸能ワイドショー!」です。

◆ミステリを中心とする面白本書評なら、西野智紀さんのブログを。
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