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2022.03.18 (Fri)

第351回 YAMAHA育ち(下)

中島みゆきあいそはるひ
▲(左)中島みゆきの新譜『2020 結果オーライ』、
 (右)相曽晴日のファースト・アルバム(1982、CD化あり)

 わたしは、高校時代、毎晩、ラジオにかじりついて、ニッポン放送の「コッキーポップ」を聴いていた(24:30~25:00)。ヤマハ音楽振興会が主催する「ヤマハポピュラーソングコンテスト」(通称「ポプコン」)の楽曲を紹介する番組だった。
 ここから生まれ、いまでも人気を保っているスターといえば、中島みゆきにとどめを刺す。

 1975年5月、第9回ポプコンつま恋本選会に入賞した中島みゆきの《傷ついた翼》を、「コッキーポップ」で聴いたときの感動は、いまでも覚えている。強烈なヴィブラートで、当時としては珍しいゆったりしたバラードだった。そして、後半で転調して曲想が拡大する見事な構成。「すごいシンガー・ソング・ライターがあらわれた」と、心底から思った。

(余談だが、第9回ポプコンは、このほか、柴田容子《ミスターロンサム》、八神純子《幸せの国へ》、PIA=のちの渡辺真知子《オルゴールの恋唄》、松崎しげる《君の住んでいた街》など、ウルトラ級の名曲がそろっていた)

 ところが、それはほんの序章だった。
 9月に、独特のワルツ《アザミ嬢のララバイ》でシングル・デビュー。そして10月の第10回ポプコンに《時代》で再出場してグランプリ。翌月の世界歌謡祭に同曲で日本代表として出場し、またもグランプリ。中島みゆきは、怒涛の進撃を開始した。
 まさに「YAMAHA」から生まれた、ポップスの大スターだった。

 以後、彼女は、いまに至るまで、ずっとヤマハをベースに活動している。
 所属事務所は「ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス」、レコード会社も「ヤマハミュージックコミュニケーションズ」である(しかも、現在、同社取締役)。
 ちなみに、初期のレコード会社は、キャニオン・レコード/ポニー・キャニオンである。だが、実際は同社の社内レーベル「アードバーク」からのリリースだった。ここは、ヤマハ原盤の楽曲が多く、事実上、”ヤマハ・レコード”だったのである。

 ファンだったらご存じだろうが、彼女のディスクや映像などには、「DAD 川上源一」などの献辞が必ずクレジットされている。
 これは、ヤマハ・グループの総帥として君臨した川上源一(1912~2002)のことで、ポプコンで彼女を発掘した“育ての親”ということになっている。《時代》が世界歌謡祭でグランプリを獲得したとき、彼女はオーケストラ伴奏を断ってギター1本でうたい注目を浴びたが、これも川上源一の進言といわれている(そのことを題材に、川上をモデルにした曲が、《ピアニシモ》だという)。
 このあたりも、前回で綴ったヴェルディとバレッツィの関係を思い出させる。

 中島みゆきを聴くと、ホッとさせられることがある。
 レコーディングやコンサート、音楽劇「夜会」の、ゲストやバック・ミュージシャンに、”ポプコン出身者”を、よく招いているのだ。
 たとえば、谷山浩子……《お早うございますの帽子屋さん》、《ネコの森には帰れない》などでポプコン出場。2000年の「夜会」に出演した。彼女も、事務所・レコード会社ともにヤマハで、楽曲は、ヤマハ音楽教室の教材になっていた。
 坪倉唯子……《繞いつく想い》《Easy Going》などでポプコンに出場。中島みゆきのレコーディング、コンサートに多く参加しており、ファンには馴染みのある名前だろう。B.B.クィーンズを結成し、《おどるポンポコリン》の大ヒットも飛ばしている。
 2014年の「夜会」に出演した中村中も、”もう一つのポプコン”といわれた「ヤマハ・ミュージック・クエスト」の出身である。
 2019年の「夜会」には、渡辺真知子が、中島みゆきの姉妹役で出演した。ポプコン同期生の共演とあって、わたしのようなオールド・ファンは、拍手喝采をおくったものだ。
 
 2020年1月からはじまった、〈中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」〉は、コロナ禍の影響で、途中で中止となってしまったが(ライヴCDあり)、このバック・コーラスに、ポプコン・ファン感涙のミュージシャンが参加している。
 相曽晴日である。
 1980年代初頭のポプコンに、《トワイライト》《コーヒーハウスにて》《舞》などで出場、その清廉な歌声が話題となったが、なにより驚いたのは、当時、まだ彼女が「高校生」だったことだ。名門、浜松海の星高校(現・浜松聖星高校)の在学生だったのだ。
(もっとも、ポプコン初出場当時の八神純子も、まだ高校生だったのだが)
 たしか、「コッキーポップ」における、司会・大石吾郎の紹介によれば「小学生のころからすでに作詞作曲を手がけていた天才少女」とのことだった。彼女も、子供のころから、ヤマハ音楽教室か、ミュージック・コースに通っていたのではなかったか。
 《コーヒーハウスにて》は、大竹敏雄の詞に彼女が作曲したものだが、そのたたみかけるようなメロディラインを、女子高生がつくったと聞いたら、誰もが驚くはずだ。わたしは、いまでも彼女のファースト・アルバム『トワイライトの風』(1982リリース、CD化あり)をウォークマンに入れて、よく聴いている。
 そんな彼女が、中島みゆきのコンサート・ツアーに参加していたのだ。

 こういったポプコン出身者を、中島みゆきサイドが、どういう考えで起用しているのか、わたしは知らない。もちろん、全員、歌唱力も含め、突出した才能の持ち主にして現役バリバリなので、ポプコンだとかヤマハだとか、そんなことは無関係かもしれない。
 しかし、上原彩子や、エロイーズ・ベッラ・コーンや、中島みゆきのようなアーティストを知ると、彼女たちのなかで、「ヤマハ」が、一時期の居場所ではなかったことが、よくわかる。彼らの間には、同じ音楽学校で勉強した“同窓生”とはちがう、もっと独特の、見えない絆があるような気がするのだ。
 そして、そういう関係が、とてもうらやましいようにも思えるのである。
〈敬称略/この項おわり〉
 
□中島みゆき、オフィシャル・サイトは、こちら
□相曽晴日、オフィシャル・サイトは、こちら

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