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2023.02.26 (Sun)

第384回 音楽本大賞、創設!(2)

音楽本大賞
▲「音楽本大賞』のロゴ(デザイン:重実生哉/クラファンHPより)
※クラファンHPリンク先は文末に。

前回につづいて、思いついた「音楽本」のお薦め本のつづきです。今回はノンフィクション系。
文字通り「思いついた」本ですので、いわゆる精選リストではありません。

【国内ノンフィクション】
◆小澤征爾『ボクの音楽武者修行』(新潮文庫) 1962年初出。昭和30年代、26歳のオザワがスクーターでヨーロッパ一人旅に出て、コンクールなどに挑戦した3年間の記録。後年の『深夜特急』などに先駆けた海外放浪エッセイの名作。
◆志鳥栄八郎『冬の旅 一音楽評論家のスモン闘病記』(徳間文庫ほか) 1976年初出。レコード・コンサートでおなじみだったベテラン音楽評論家が、薬害スモン病で次第に視力を失っていく。それでも音楽を愛し、レコードを聴きまくる前向きな生き方に背筋がのびる。あたしの座右の書。
◆西村雄一郎『黒澤明 音と映像』(立風書房) 1990年初刊(1998年、増補版刊)。黒澤映画における音楽の意味、特徴、つくられ方などを本人へのインタビューも交えて徹底検証。映画音楽研究に新たな道を切り開いた名著。
◆永竹由幸『新版 オペラと歌舞伎』(アルス選書) 1993年初出。あたしの“師匠”の代表作。「第2次世界大戦は“オペラと歌舞伎”を持つ国と待たざる国の争いだった」の冒頭一文で目からウロコが落ちすぎて呆気にとられる、驚愕の音楽文明論。
◆今谷和徳『ルネサンスの音楽家たち』 I・Ⅱ(東京書籍) 1993年刊。デュファイやジョスカンなど、名前だけは有名だが、どういう“人間”だったのかを教えてくれる本はなかった。本書のおかげで、一挙にバッハ以前が身近になった。
◆最相葉月『絶対音感』(新潮文庫) 1998年初出。「絶対音感」とは何なのか。先天的なものか後天的なものか。音楽家にとってほんとうに必要なのか。膨大な証言と資料で迫る”音楽科学ノンフィクション”の金字塔。
◆千住文子『千住家にストラディヴァリウスが来た日』(新潮文庫)  2005年初出。あたしの担当編集なので手前味噌になるが、超高額楽器(不動産より高い!)を“買う”とは、どういうことなのか、他人の家の内幕を見せてくれるようなスリルがある。スイスの富豪の所有物が、いかにして海をわたって千住家に来たか。
◆佐藤実『サイモン&ガーファンクル 全曲解説』(アルテスパブリッシング) 2009年刊。全294曲をコンパクトに、しかも的確に解説した画期的ガイド。S&Gコンビのみならず、ポール初期のソロ『ソング・ブック』などもちゃんとおさめている、本当の意味での永久保存版。
◆ひのまどか『戦火のシンフォニー  レニングラード封鎖345日目の真実』 (新潮社) 2014年刊。これもあたしの担当編集なのだが、たいへんな労作。ナチスドイツによる封鎖で飢餓の状況下、ショスタコーヴィチの交響曲第7番《レニングラード》を演奏しようとする人々。自らロシア語を学んで現地取材、生存者に直接インタビューまでして描いた戦争音楽ノンフィクションの傑作。日本製鉄音楽賞特別賞受賞。
◆東京エンニオ・モリコーネ研究所編著『エンニオ・モリコーネ映画大全』(洋泉社) 2016年刊。熱狂的ファンが400作以上のモリコーネ全作品(映画以外も!)を徹底分析した、3段組、400頁超の、同業編集者として背筋が寒くなる本。版元解散のため、その後入手困難なのが惜しまれる。
◆かげはら史帆『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(春秋社) 2018年刊。難聴のベートーヴェン会話帳は、秘書のシンドラーによって改ざんされていた。《運命》はこのようにドアなんか叩かなかった! 原史料を駆使して暴かれる楽聖伝説の真実。
◆上原彩子『指先から、世界とつながる ~ピアノと私、これまでの歩み』 (ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)2021年刊。第349回参照。
◆中村雅之『教養としての能楽史』(ちくま新書) 2022年刊。第376回参照。
◆中丸美繪『鍵盤の天皇 井口基成とその血族』(中央公論新社) 2022年刊。「井口一門にあらざれば、ピアニストにあらず」とまでいわれ、桐朋学園大学学長にまで上り詰めたピアノ界の天皇。その陰陽入り混じる怪人物ぶりを活写。600頁超の大作。
◆吉原真里『親愛なるレニー レナード・バーンスタインと戦後日本の物語』(アルテスパブリッシング)  2022年刊。第371回参照。
藤田彩歌『カーザ・ヴェルディ 世界一ユニークな音楽家のための高齢者施設』 (ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス) 2022年刊。第364回参照。

【海外ノンフィクション】
◆ハロルド・ショーンバーグ/野水瑞穂訳『ショーンバーグ音楽批評』(みすず書房) 1984年刊。音楽評論家として初めてピューリッツァー賞を受賞したNYタイムズのジャーナリスト。初期バーンスタイン批判で有名だったが、「私はMETプレミア初日、終演後のレセプションには出ない。すぐに社に戻って、翌朝刊のための批評を書く」には感動。
◆ティエリー・ジュフロタン/岡田朋子訳『100語でわかるクラシック音楽』 (文庫クセジュ)   2015年邦訳刊。フランス人向けの独特なシリーズなので万人向けではないが、「文庫クセジュ」は音楽本の宝庫。本書はユーモアたっぷりの解説で、「悪魔の辞典」すれすれの面白さ。
◆ジョン・カルショー/山崎浩太郎訳『ニーベルングの指環 リング・リザウンディング』(学研プラス) 2007年刊。DECCAの名プロデューサーによる、レコード史上初、《指環》全曲スタジオ録音の記録。彼の自伝的記録『レコードはまっすぐに』も面白い。
◆ケルスティン・デッカー/小山田豊訳『愛犬たちが見たリヒャルト・ワーグナー』(白水社) 2016年刊。超愛犬家としての視点でワーグナーの生涯をたどるユニークな評伝。《さまよえるオランダ人》など、犬がいなかったら生まれなかったみたいですよ。
◆マリア・ノリエガ・ラクウォル/藤村奈緒美訳『キッチンからカーネギー・ホールへ~エセル・スタークとモントリオール女性交響楽団』(ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス) 2022年刊。第370回参照。
◆ヴァンサン・ダンディ/佐藤浩訳『セザール・フランク』(アルファベータブックス) 2022年刊(昭和28年邦訳初出を復刻)。フランクの一番弟子による、評伝と作品研究。全編が「フランク先生」で統一され、尊敬と愛情に満ち溢れた筆致。それが嫌味でも盲従でもない、素直な師への思いが伝わってくる感動的な一書。

このほか、ジュニア向けのため、おとなの目にあまり触れていない可能性のある、ユニークな「音楽本」シリーズを最後にご紹介しておく。
上記でも紹介した、音楽作家、ひのまどか氏による「音楽家の伝記 はじめに読む1冊」シリーズ(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス) で、現在、バッハからはじまって9冊が刊行されている(ほかに、萩谷由喜子著で「クララ・シューマン」もあり)。
これは、以前、リブリオ出版から刊行されていた「作曲家の物語」シリーズ(児童福祉文化賞を二度受賞)の改訂版なのだが、ジュニア向きと侮ることなかれ、すべて、ひの氏自身が現地取材して書かれた優れた伝記である(遺族がいる場合は、直接インタビューなども)。主要曲がQRコードですぐに聴けるようになっている点も便利だ。
なお、この改訂版では、旧版にはなかった「小泉文夫」が描き下ろしで加わっている。これは驚くべき企画で、民俗音楽研究家の稀有な存在に光をあてた、これまた労作である。ひの氏自身が小泉研究室の生徒だったこともあり、上述のダンディによるフランク本にもどこか通じる、師への敬愛にあふれた伝記である。こういうユニークなひとがいたことをいまに伝える、貴重な音楽本といえる。

というわけで、「音楽本」は、実に広範で数も多いことがおわかりいただけたと思う。
5月中旬に発表されるという第1回「音楽本大賞」が、どのように迎えられるか興味津々だが、ひとつだけ、”贅沢なる困惑”を。
規定によると、第1回にかぎり、実行委員が携わった本は大賞の対象としないらしい。しかし、実行委員の方々は、日本を代表する音楽本編集者であり(前回・今回で紹介した本のなかにも多くが並んでいる)、彼らが関与した本を外して、果たして公正な「音楽本大賞」が成立するのであろうか。音楽本は「広範で数も多い」のだから大丈夫といわれればそれまでなのだが、いささか、心配になるのであります。

※今回紹介した本も、すべて「音楽本大賞」にはまったく無関係です。また、絶版でも「古書」で入手容易だったり、「電子出版」などもあるので、検索でご確認ください。

◇日本音楽本大賞ウェブサイトは、こちら。クラウドファウンディング呼びかけ中です。

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