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2016.03.22 (Tue)

第158回 コンセプト・アルバムの楽しみ

ラモー
▲『ラモー:壮大なる愛の劇場』(Erato) サビーヌ・ドゥヴィエル(歌)ほか

 Erato(ワーナー)から『ラモー:壮大なる愛の劇場』なるディスクが出ている。
 ラモーにそんな作品があったのかと思い、聴いてみたら、いわゆる「アリア集」である。
 ところが、単なるコンピレーション・アルバムではない、とても面白い内容だった。

 このアルバムは、フランス・バロックの巨匠ジャン=フィリップ・ラモーのオペラから、序曲やアリア、さらには恋歌などを加え、計23トラックに構成したものだが、「歌曲集」のような統一感がある。
 まさに、ライナーノーツで、オペラ研究家の岸純信氏が書いているように「一人の女性が、様々な『愛の体験』を得て精神的に成長する姿を、ラモーの名場面を通じて描き出そうというアルバム」なのである(こういうのを「コンセプト・アルバム」というのだろう)。

(この岸氏の解説が要を得た見事な内容なので、よほどラモーに詳しい方以外には、国内盤の購入をお奨めする)

 シューベルトの歌曲集《冬の旅》は、失恋した若者が、失意のあまり放浪の旅に出て、ひたすら落ち込んでいく過程を描いているが、あれの真逆の内容だといえば、当たらずとも遠からずか。

 歌唱は、フランスの新人サビーヌ・ドゥヴィエルで、1985年生まれだそうなので、録音時(2013年)はまだ28歳!
 その若々しい声は輝かんばかり、しかもなかなかの美貌で、第2のナタリー・デセイの予感がある。
 演奏は、フルート奏者でもあるアレクシス・コセンコ指揮のレザンバサドゥールで、このアルバム自体が彼の企画のようである。

 たまたま、最近、こういうユニークなコンセプト・アルバムをいくつか聴いたので、ご紹介したい。

ベートーヴェン
▲『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタの名楽章集』(宗次ホール) 植村太郎vn、鈴木慎崇piano

 名古屋の「宗次ホール」は、カレーの「CoCo壱番屋」創業者、宗次徳二氏が私財を投じてつくった室内楽専用ホールである。
 ここの自主制作CDに『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタの名楽章集』がある(植村太郎vn、鈴木慎崇piano/2014年9月、同ホールでのライヴ収録)。
 全部で12トラックあるのだが(最後の2トラックは拍手とアンコール)、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全10曲から、1曲1楽章ずつ、「いいとこどり」をして、10楽章が収録されている。
(時折、拍手が入っているので、当日は、数楽章ずつ1曲相当に分けたプログラム構成になっていたようだ)

 このような抜粋演奏は、厳格なファンには許せないかもしれないが、これが意外と面白い。
 聴いていると、ベートーヴェンの中の何かが、ものすごい勢いで深まっていくのが、手に取るようにわかる。
 彼のヴァイオリン・ソナタは、交響曲や弦楽四重奏曲とちがって、短期間に集中して作曲されている。
 サリエリに献呈された第1~3番が1798年で、第9番《クロイツェル》が1803年、最後の第10番のみが少し飛んで1812年の作曲だ。
 年齢でいうと、ベートーヴェン20歳代後半から30歳代にかけて。
 ヨーロッパは、ナポレオンの絶頂期から衰退が始まる、激動の時代だった。

 聴いてみると、たとえば第4番第3楽章から、有名な第5番《スプリング》第4楽章につなげてひと段落(拍手)となる流れなど、自然で心地よいし、最後の3トラックにおける深淵な響きは、演奏も見事で実に聴きごたえがある。

 このような「いいとこどり」スタイルは、同ホール代表、宗次徳二氏のアイディアだそうである。

楽章集
▲『ヴァイオリン・ソナタの名曲中の名楽章集』(宗次ホール) 島田真千子vn、佐藤卓史piano

 実は、この前に、『ヴァイオリン・ソナタの名曲中の名楽章集』がリリースされている(島田真千子vn、佐藤卓史piano/2013年9月、同ホールでのライヴ収録)。

 おそらく、これが「名楽章集」コンサートの第1弾だったのではないか。
 ヘンデル、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、フランク、ラヴェル、ドビュッシーらのソナタから、やはり1曲1楽章を「いいとこどり」し、全部で11楽章を収録したものだ。
 これも意外な感動があった。
 アルバム全体が、モーツァルトの第25番第1楽章で始まり、フランクの第4楽章で終わるといえば、なるほどと思われる室内楽ファンもいるのではないか。
 これをさらに深化させた企画が、先述のベートーヴェンだったのだ。

 なお、これらのCDは、広範には販売されていないようで、宗次ホールでしか購入できないようだ。
(私は、会員制通販サイト「アリアCD」で購入したが、現在でも販売中かどうかは不明)

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▲エレーヌ・グリモー 『WATER』(DG/ユニバーサル)

 私が大好きなピアニスト、エレーヌ・グリモーが、最近、不思議なアルバムを出した。
 『WATER』(DG/ユニバーサル)である。
 全部で8曲、「水」をモチーフにした小曲が収録されている。
(べリオ、武満、フォーレ、ラヴェル、アルベニス、リスト、ヤナーチェク、ドビュッシー/2014年12月、ニューヨークでのライヴ収録)。

 ところが、曲間に、ニティン・ソーニーなるマルチ音楽家(?)による、音楽とも環境音とも自然音ともつかない「Transition」(つなぎ目)が収録されている。
 ピアノ部分はライヴ録音らしいのだが、どうもエレーヌは、そのままCD化するのは嫌だったようだ。
 その結果、このような「究極のコンセプト・アルバム」が生まれた……らしい。

 なんとなくいい雰囲気ではあるのだが、ここまでいくと、凡人の私には、何ともいえない。
 あとはリスナーの好み次第としかいいようがない。
 ピアノ曲とTransitonの間はアタッカ(切れ目なし)なので、1枚丸ごと、環境クラシックCDともいえる。
 間接照明でアロマの香り漂うマッサージ店や、しゃれたブック・カフェで流したら、効果抜群だろう。

 ご存知の通り、エレーヌは、幼少時代から様々な「問題」を抱えて生きてきた天才肌で、大学では動物生態学を学び、オオカミと暮らしている異色ピアニストである。
(スウェーデンのミステリ小説『ミレニアム』シリーズのヒロイン、リスベット・サランデルに、どこか似ていないか)

 それだけに、この種のアルバムを出しても、何の不思議もないのだが、個人的には、一刻も早く通常アルバムに本復していただき、そろそろソロのシューマンあたりをじっくり聴かせていただきたいのだが。
 ちなみに、5月には、このアルバムと同じ曲目+ブラームスの2番ソナタで、来日リサイタルがあるようだ。
 曲間に環境音が流れるのかどうかは、知らない。
(一部敬称略)

このCDのライナーノート(解説)を書きました。とてもいいCDだと思います。

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