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2016.03.29 (Tue)

第159回 耳嚢(2016年3月)

耳嚢
▲根岸鎮衛『耳嚢』全三巻(岩波文庫)

 江戸時代後期、南町奉行の根岸鎮衛(ねぎし・しずもり)が、あちこちで見聞した珍談奇談怪談を、30余年にわたってミニ随筆に綴った。
 その数1,000編におよび、耳嚢(みみぶくろ)』と題された。
 とても根岸には及ばないが、私なりの珍談を、時折、書きつけておくことにした。

春疾風
文学座の本公演『春疾風(はやて)』(川﨑照代作、藤原新平演出、3月12~21日、紀伊國屋ホール)は、十数年前に母親の介護で帰省したっきり、なぜか母の死後も帰ってこないオデッセウスみたいな夫をめぐる、家族の物語。
 いったい、何が原因だったのか、夫の「衝撃的告白」を期待したのだが、あまりに拍子抜けの展開に、唖然呆然。
 客席の9割を占める超シニアの観客には、あれくらいがいいのか。
 文学座は、本公演とアトリエ公演のちがいが、あまりに大きすぎないか。
 【★☆☆】

対岸の永遠
てがみ座公演『対岸の永遠』(長田育恵作、上村聡史演出、3月4~30日、シアター風姿花伝)は、ソ連崩壊後、混乱するサンクトぺテルブルクで生きる女性が、かつて家族を捨て、アメリカに亡命した父(詩人)の死を知り、彼の足跡と精神を受け入れるまでを、井上ひさし『父と暮せば』のような手法で描く意欲作。
 詩人のモデルが、ノーベル文学賞作家、ヨシフ・ブロツキーだというので期待して観に行ったが、およそブロツキーとは思えぬ、『リア王』の道化を思わせるコミカルな雰囲気で、私としてはがっかりした。
 だが、全編に翻訳劇のような迫力がみなぎっていて、見ごたえはあった。
 【★★☆】

原田展poster_s
「原田直次郎展~西洋画は益々奨励すべし」(2月11日~3月27日、埼玉県立近代美術館)は、森鷗外『うたかたの記』の主人公・巨勢のモデル、原田直次郎の作品展。
 「森鷗外が明治42年に開催した遺作展以来、およそ100年ぶり」となる画期的な催しだというのに、なんと彼の代表作『騎龍観音』が展示されていない、あんまりな内容。
 北浦和まで行ったのに(もっとも、『騎龍観音』は、最近、東京国立近代美術館で観たばかりだが)。
 ところが、神奈川県立近代美術館<葉山>での巡回展(4月8日~5月15日)では、ちゃんと展示されるという。
 これは、国指定重用文化財の規定で、ある日数以上は貸し出せないからなのだが、最初から知っていれば、埼玉でなく、葉山に行っていただろう。
 会場では、約20分のドキュメント映像が放映されており、これがなかなか面白かった。
 たぶん、<葉山>でも放映されると思うので、これから行かれる方は、ぜひご覧いただきたい。
 なお<葉山>は確かに都心からは遠出となるが、半日を費やすだけの価値のある、風光明媚な立地なので、天気のよい日を選んで、気軽な観光気分で行かれることをお奨めする。
 埼玉【☆☆☆】
 葉山【★★★】


上村一夫
「わが青春の『同棲時代』~上村一夫×美女解体新書展」(1月3日~3月27日、弥生美術館)は、『同棲時代』『修羅雪姫』『関東平野』などの劇画家・イラストレーター、上村一夫の原画を中心とした回顧展。
 私がかつてコミック編集者だったころ、上村作品を復刻刊行したことがあり、その原画も展示されていて懐かしかった(私が書き込んだノンブル指定が残っていた)。
 上村劇画は、ひとコマひとコマが、一幅のイラスト絵画として完成されており、観ていて飽きない。
 しかし、『修羅雪姫』原作者名を、何か所も「小池一」と誤記するなど、「美術館」の名が泣く、ずさんな解説文。
 会期最終近くに行ったのだが、3か月間、あれほどの大きな誤記がそのままになっていたのかと思うと、ぞっとした。
 【★★☆】

第157回でご紹介した「女川さいがいFM」が、3月29日(月)正午で停波(閉局)した。
 私は子供の頃からラジオ・マニアなのだが、「閉局」「停波」は初めて体験した。
 ラジオって、こうやって「停波」するのか……なんともいえない瞬間だった。
 その前、26日(土)夜、宮城県女川町現地からの生放送に、突如、桑田佳祐が登場し、約1時間にわたってライヴを聴かせてくれた。ちょうど、彼のFM-TOKYOの番組との提携で、全国の系列FMでも放送されたようだが、これには驚いた。
 会場にいた観客もびっくり仰天したようだ。
 さっそく知人の芸能ジャーナリストに知らせたら、「いま、会場にいます」とのメッセージが返ってきた。
 ちなみに「女川さいがいFM」が、停波直前に流した最後の曲は、サザンオールスターズ《TSUNAMI》だった。

abarenbou.jpg
◆3月に観た映画でもっともよかったのは、新文芸坐の内田吐夢監督特集における『暴れん坊街道』(昭和32年、東映京都)。
 近松の義太夫『丹波与作待夜小室節(たんばよさく・まつよのこむろぶし)』(いわゆる「重の井子別れ」)を依田義賢が脚色した。
 主演は佐野周二、千原しのぶ、山田五十鈴。
 主役級の子役が植木基晴(片岡千恵蔵の長男。日本航空の社長は三男)。
 実は今回で3回目の鑑賞なのだが、またも泣かされた。
 芸達者な山田五十鈴もさることながら、お姫様役が多い千原しのぶが、伝法な飯盛女で、なかなかいい味だった。
 悪役専門の薄田研二が、真面目ゆえに偏狭に過ぎ、事態を悲劇に導いてしまう善良な家老を見事に演じていた。
 【★★★】

マジカルガール
◆3月に観た映画で、もっともがっかりしたのは、スペインの新作『マジカル・ガール』で、こんなに後味の悪い映画は、ひさびさだった。
 ところが、これが「新感覚」で、「実に面白い」そうで、けっこうヒットしているらしい。
 「重の井子別れ」に泣く私のような人間には、とても無理だった。
【★☆☆】

◆この「グル新」のネタのきっかけは、大半を全国紙の夕刊から仕入れている。
 最近の夕刊は、ほとんど、文化芸能情報紙である。
 音楽、美術、映画、演劇、古典芸能などの記事が満載で、昔の「ぴあ」みたいな内容だ。
 ところが、いま、夕刊を「買う」ことは、たいへん難しい。
 コンビニには朝刊しかない(読売新聞のみ、一部コンビニに夕刊を置いている)。
 夕刊は、駅構内の売店でしか買えない(しかも、部数が絞られているのか、早々と売り切れている売店が多い)。
 最近の駅売店のつくりは、コンビニと区別がつかない。
 1部50円の夕刊を数紙買うのに、わざわざ行列に並ばなくてはならない。
 たまに外国人店員にあたると、たいへんである。
 新聞は、バーコードにPOS読み取り機を当てて「ピ」で済ますわけにはいかないので(最近、産経新聞はバーコードを付けているようだが)、いちいち、レジ画面を開いて、紙名をタッチしなければならない。
 外国人店員だと、これにたいへんな時間を要するばかりか、中には、読めない者もいて、その際は、日本人店員に来てもらわなければならない。
 昔、スタンド形式のKIOSKでは、千手観音と聖徳太子が合体したような女性店員がいくらでもいて、四方八方から押し寄せる客を、同時に平然とさばいていたものだ。
 神保町交差点にある「廣文館書店・東京店」は、新聞を、しかも夕刊をそろえて売っている、素晴らしい書店である。
 入口に雑貨や食品を並べて「書店」と名乗っているどこかの店も、新聞くらい売ればいいのに。
 廣文館書店【★★★】
(敬称略)

【★★★】 嗜好に関係なく、お金と時間を費やす価値がある。
【★★☆】 嗜好が一致するのなら、お金と時間を費やす価値がある。
【★☆☆】 嗜好の範囲を広げる気があるなら、お金と時間を費やす価値がある。
【☆☆☆】 お金も時間も費やす価値はない。


このCDのライナーノート(解説)を書きました。とてもいいCDだと思います。

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

毎週(土)23時FMカオン、毎週(月)23時調布FMにて、「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」案内係をやってます。4月は「震災と吹奏楽」「追悼、キース・エマーソン」です。

◆ミステリを中心とする面白本書評なら、西野智紀さんのブログを。

 
 
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