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2016.04.01 (Fri)

第160回 耳嚢(2016年3月、続)

ますむらひろし
◆最近は、漫画の展覧会が大流行である。
 美術館どころか文学館までもが漫画家を取り上げている。
 しかし、そのほとんどは有名作品の原画やスケッチを見せるばかりで、あまり工夫がない。
 それでもどこも大入りらしいので、しばらくは漫画展がつづくのだろう。
 「ますむらひろしの北斎展」(2月6日~3月27日、八王子市夢美術館)は、そんな流行を嗤うかのような、すごい漫画展であった。
 これは、漫画家ますむらひろしが、パチンコ店のフリー・マガジンに描き続けた「アタゴオル×北斎」のイラスト原画と、その自解文、もとになった北斎の浮世絵(複製)の3つセットを、計50数点、展示するものだった。
 「アタゴオル」とは、ますむらひろしが描き続けている、猫と人間が自然と共生しているファンタジー世界のことで(宮沢賢治のイーハトーブにあたる)、その世界観で北斎の浮世絵を描きなおしたものだ。
 一見、図中の人間を猫に置き換えただけの「パロディ」かと思うが、よく見ると、まったくちがう。
 様々な細かい部分が「アタゴオル」的に変容を遂げている。
 そして、横の自解文パネルで、なぜこうなったのか、いかに北斎と格闘したかが、えんえんと綴られる。
 そのうち、北斎のどこが素晴らしいのか、あるいは、どこが奇妙なのか、がだんだんとわかってくる。
 まるでミステリ小説の謎解きを体験しているようだった。
 あの自解文をすべてを集めたら、おそらく新書一冊分にはなるだろう。
 これほど本人が「語る」展覧会は、めったにあるまい。
 とても1時間や2時間でまわれるものではなかった。
 しかし、北斎の原典と、ますむらのイラストを見比べ、横の長大な自解文をじっくり読んでいるうちに、どんな専門家による解説や画集よりも、はるかに北斎のすごさがわかった。
 これは「漫画」の粋を超えた、近年最高の「浮世絵展」といっていいのではないか。
 ぜひ、ほかの会場にも巡回してほしいと思った。
 なお、自解文も含め、展示内容をすべておさめた図録画集が販売されていたが(アマゾンでも一時売られていた)、印刷レベルが低く、イラスト原画の鮮やかさが失われており、残念だった。
展示【★★★】
図録【☆☆☆】



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「WOMEN: New Portraits」展(江東区東雲「TOLOT/heuristic SHINONOME」、2月20日~3月13日)は、ポートレイト写真家、アニー・リーボヴィッツの新作展。
 スイスの金融会社UBSがスポンサーとなった世界巡回展で、会場は東雲の倉庫ギャラリー、入場無料であった(簡単な図録パンフも無償配布されていた)。
 アニー・リーボヴィッツは、「ローリング・ストーン」や「ヴァニティ・フェア」で活躍した写真家で、特に、ジョン・レノンとオノ・ヨーコが抱き合う写真(この撮影直後、ジョンは射殺された)や、デミ・ムーアの妊婦肖像写真で話題になった。
 最近は、美術館のショップや書店で売られているポストカードで有名かもしれない。
 今回は、そんな彼女の名作写真集『WOMEN』の続編である。
 アウン・サン・スーチー、アデル、マララ、テイラー・スイフトといった有名人の写真も迫力があったが、わたしは、年輩女性のほうに魅力を感じた。
 たとえば、霊長類学者のジェーン・グドールの顔の「しわ」の深さなど、たいへん美しかった。
 ただ、わたしがこの種の写真展に慣れていないせいかもしれないが、展示作品が、あまりに小さなプリントで、たいへん見にくかった。
 その一方、会場には巨大なモニターが設置され、アニーの過去作品が続々とデジタル投影されており、このほうが印象に残った。
【★★☆】


新潮
「新潮」4月号に300枚一挙掲載された、蓮實重彦の『伯爵夫人』は、その凄まじいポルノグラフィ描写が話題となっている。
 わたしは、蓮實重彦氏についてあれこれと語れるほどの知見はないのだが、それでも、もうすぐ80歳になろうとする元東大学長の仏文学者にして映画評論家に、こんなパワーがあること自体、驚異以外のなにものでもなかった。
 正直なところ、いったい、なぜ、突如、このようなものが書かれたのか、かなり戸惑いながら(しかも、一人で黙読しているにもかかわらず、赤面しながら)読んだ。
 太平洋戦争の直前、東京帝大受験を目指す「活動写真狂い」の高等学校生・二朗と、「伯爵夫人」が町中で会い、「せっかくですからご一緒にホテルへまいりましょう」となる。
 そこから先は、批評家の佐々木敦氏が「徹底的にはしたなく、いやらしい、つまりは助平そのもの」で「どこを引用しても公器たる新聞にはふさわしからざる字句が含まれてしまう」と称する描写がつづく(東京新聞、3月31日付夕刊)。
 主人公が活動好きなので、映画の話題もふんだんに出てくるのだが、読んでいて、それどころではない。
 今後、単行本化されるものと思われるが、そのとき、どのような受け止められ方をするのか、楽しみである。
【???】
(一部敬称略)


【★★★】 嗜好に関係なく、お金と時間を費やす価値がある。
【★★☆】 嗜好が一致するのなら、お金と時間を費やす価値がある。
【★☆☆】 嗜好の範囲を広げる気があるなら、お金と時間を費やす価値がある。
【☆☆☆】 お金も時間も費やす価値はない。


このコンサートのプログラム解説を書きました。4月29日です。ぜひ、ご来場ください。

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

毎週(土)23時FMカオン、毎週(月)23時調布FMにて、「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」案内係をやってます。4月は「震災と吹奏楽」「追悼、キース・エマーソン」です。

◆ミステリを中心とする面白本書評なら、西野智紀さんのブログを。


 
 
 
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