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2023.10.30 (Mon)

第428回 【コンサート告知】 ロシアとウクライナの幸福な関係~パシフィル名曲コンサート

ストールンプリンセス
▲日本で初めて公開されたウクライナのアニメーション映画

9月22日に公開され、小規模ながらいまでもロングランをつづけている(10月30日現在)アニメーション映画がある。『ストールンプリンセス キーウの王女とルスラン』(オレ・マラムシュ監督/2018年、ウクライナ)。日本で初めて公開されたウクライナのアニメーション作品である。

制作はウクライナのアニメーション・スタジオ「アニマグラード」で、ここはもともとTVアニメの製作会社だった。2018年製作の本作が、初めての劇場用長編アニメーションだという。

本作が日本公開に至る過程は、すでに報道などでご存じの方も多いと思う。都内の映画配給会社に勤務していた女性、粉川なつみさん(27)が本作に惚れこみ、ウクライナの支援になればと一念発起して退職し、自ら配給会社を設立。全財産を注ぎ込み、クラウドファウンディングの助けも得て、1年をかけて買いつけた。幸いKADOKAWAが共同配給に乗り出してくれて、日本での一般公開となった。

もともとウクライナは世界的な映画人を多く輩出してきたエリアである。長年、ソ連の構成国だったので、一般には「ロシア/ソ連映画」として認識されてきたものの、実際には「ウクライナ映画」ともいうべき作品も多い。たとえば名作『誓いの休暇』(1959)や、『女狙撃兵マリュートカ』(1956)、『君たちのことはわすれない』(1977)などのグリゴーリ・チュフライ監督(1921~2001)はウクライナ生まれである。

エイゼンシュテイン、プドフキンとともに「ソ連映画界3大巨匠」の1人と称されたオレクサンドル・ドヴジェンコ監督(1894~1956)もウクライナ人だ。彼の名作無声映画『大地』(1930)は、『ズヴェニゴーラ』(1928)、『武器庫』(1929)とともに「ウクライナ三部作」と称されている。

上述のアニメ『ストールンプリンセス』は、プーシキンの物語詩『ルスランとリュドミラ』が原作である。魔術師によって拉致されたキエフ大公国(現在のウクライナ一帯)のリュドミラ姫を、騎士ルスランが救出して結ばれるまでの冒険ファンタジーだ。絵柄や全体構成はディズニーの影響が感じられるが、意外とプーシキンの原作に忠実で、登場キャラクターも独特な面白さがあった。この物語はグリンカ作曲のオペラ化のほうが有名だろう。全編にロシア特有の民族音楽的な旋律が使われており、グリンカは、前作《皇帝に捧げし命》と本作とで、“ロシア近代音楽の父”として名声を確立した。

かようにロシアとウクライナは、少なくとも芸術のうえでは、たいへん幸福な関係にあったのである。ボロディンの歌劇《イーゴリ公》もキエフ大公国が舞台である。そのほか、ピアニストでいうとホロヴィッツ、ギレリス、リヒテル。ヴァイオリニストではミルシテイン、オイストラフ、スターン、コーガン、シトコヴェツキ。これみんな、むかしは「ソ連/ロシアの音楽家」で一括りにされていたが、実は「ウクライナ出身」である。

だが、「ロシアとウクライナの幸福な関係」といえば、なんといっても、チャイコフスキーにとどめを刺す。彼は祖父の代まで姓は「チャイカ」だった。ウクライナでは一般的な名前で(日本の「佐藤」「鈴木」のような感じ?)、いまでも「チャイカ空港」「チャイカ航空」などがある。ロシアの時計やカメラにも同名製品がある。高田馬場にある老舗ロシア料理店の名前も「チャイカ」だ。意味は「かもめ」。女性初の宇宙飛行士テレシコワのコール・サイン「ヤー・チャイカ」(私はかもめ)は、チェーホフの戯曲『かもめ』からの引用だった。

チャイコフスキーの先祖「チャイカ」家はウクライナのコサック兵士の一族で、戦功で貴族っぽい名前「チャイコフスキー」への改姓を許された。彼の交響曲第2番ハ短調には《小ロシア》なる副題が付いている。この「小ロシア」とはウクライナのことである(ただし、これは「上から目線」の呼び方で、当のウクライナの人たちにすれば「侮蔑的な呼称」である)。全編にウクライナ民謡が使用されており、ほとんど「ウクライナ賛歌」のような曲である。

パシフィル

11月1日に開催される、パシフィックフィルハーモニア東京(旧「東京ニューシティ管弦楽団」)の第2回名曲シリーズはロシア名曲特集だが、期せずして、この「ロシアとウクライナの幸福な関係」を考えさせられる名曲が多く取り上げられる。先述のグリンカ:歌劇《ルスランとリュドミラ》序曲、ボロディン:交響詩《中央アジアの草原にて》、歌劇《イーゴリ公》~〈ポロヴェツ人の踊り〉。そして、ウクライナ系のチャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調。ちなみにこの第4番は、同性愛者だったチャイコフスキーが無理に女性と結婚してしまったため、苦悩に襲われる、そこからの脱却を音楽にした作品である。

指揮はベテラン、汐澤安彦。東京佼成ウインドオーケストラ初代常任指揮者として、日本の吹奏楽界を開拓してきた大功労者でもある。機会があればぜひお聴きいただきたい。ウクライナ戦争はいまだ終息を見出せないようだが、せめてこのひとときだけは、本来の「ロシアとウクライナの幸福な関係」に思いを馳せたいものだ。
(敬称略)

◇パシフィックフィルハーモニア東京:第2回名曲シリーズ(指揮:汐澤安彦)は、こちら
2023年11月1日(水)19:00/東京芸術劇場 コンサートホール
※プログラムの楽曲解説を執筆しました。

◇『ストールンプリンセス キーウの王女とルスラン』は、こちら


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