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2015.12.19 (Sat)

第135回 シアター風姿花伝『悲しみを聴く石』

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 東京・豊島区、椎名町と目白の中間あたりに、「シアター風姿花伝」(最大定員120名)がある。
 俳優の那須佐代子が支配人をつとめ、独自の企画舞台を多く発信している。
 昨年のプロデュース公演第1弾『ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる』は、第22回読売演劇大賞の最優秀演出家賞(上村聡史)などを受賞して話題となった。

 その第2弾『悲しみを聴く石』を観た。
 アフガニスタンからフランスに亡命した作家アティーク・ラヒーミーのゴンクール賞受賞小説(白水社刊)を、ジャン=ルネ・ルモワーヌが戯曲化し、第1弾に続いて上村聡史が演出した。
 そもそも原作が戯曲風に書かれているので、小説がそのまま舞台化されたような印象となった。

 舞台は戦火のイスラム圏の、ある家の一室(原作には「アフガニスタンのどこか、または別のどこかで」と記されている)。 
 首の後ろに銃弾を受け、植物状態となって寝ている男(中田顕史郎)のそばで、チャドル姿の妻(那須佐代子)が、コーランを唱えながら看病している。
 外では戦闘が続いており、時折、爆風が窓を突き破って残骸が飛び込んでくる。
 だが、夫が寝たきりなので、妻はここから離れることはできない。
 物語は、ほぼ全編、この妻の独白で展開する。
 彼女は、いつまでも続く看病や、望まぬ結婚をさせられた身の上を呪い、ひたすら毒づく。

 この部屋を、客席がコの字型に取り囲む。
 前半、部屋は紗幕に覆われている。
 おそらく閉塞感や距離感をあらわしているのだとは思うが、薄暗いので、たいへん見づらい。
 俳優の細かい表情や仕草も判然とせず、隔靴掻痒が続く。
 ところが、妻が、ある「石」について語り出すと、紗幕が下りる。
 原作でいうと、地の文(ト書き風)中心から、セリフ中心に変わるあたりで、ここから、妻は「脱皮」したかのように、生々しい女性像を見せ始める。
 自らを売春婦だと偽り、乱入してきた若い兵士(清水優)と交わり、やがて彼の来訪を待ちわびるようになる。
 物語は、次第にイスラム圏特有の悲劇を超えて、女性差別の普遍性を暴き出していく。
 
 原作における妻は、小声でブツブツと話す、弱さもある女のように、私は読んだ。
 だからこそ、あの原作ラストで、彼女は「救われた」のだと、解釈していた。
 だが、那須佐代子は、太い声で、常にイライラと歩き回る、苦悶に満ちた「気の強い女」として演じる。
 そのせいか、ラストは原作どおりではなく、改変されている。
 しかしこれは、うまい改変だった。
 原作ラストは一種の「幻想」だから、映像ならまだしも、舞台上でそのまま具現化したのでは、通用しなかっただろう。

 上村聡史(演出)+那須佐代子といえば、昨年秋にシアタートラムで上演された『炎 アンサンディ』映画『灼熱の魂』の原作戯曲)が思い浮かぶ。
 あれも、イスラム圏の悲劇だった。
 いま、欧米グローバルに対抗できるのは、イスラム文化だけだ。
 上村+那須は、そのエネルギーを舞台に昇華させ、私たちの前に提示してくれた。
 何から何まで欧米に従っている日本にすえられたお灸のようだった。
(12月17日所見)


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