fc2ブログ
2024年03月 / 02月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫04月

2023.12.02 (Sat)

第436回 【映画】 ひさびさ”主役”になった、ナポレオン映画の系譜

メイン1
▲公開中の超大作映画『ナポレオン』 ※HPは文末に。

超大作映画『ナポレオン』(リドリー・スコット監督、2023年、米英合作)が公開されている。

近年、歴史上の人物を描く映画といえば、生涯のある時期だけに焦点をあてた作品が多かった。だが今回は、ひさびさに、ほぼ全生涯(一兵卒時代から死まで)を描く、本格的な歴史伝記映画である。

ナポレオンは「もっとも多く映画で描かれた歴史上の人物」といわれている。だが、そのほとんどは“脇役”であって、“主役”の映画は、多くないような気がする(日本公開作が少ないせいかもしれない)。

よく知られているのが『戦争と平和』だが、ここでもやはり脇役である。現存する2種の映画(1956年/米伊合作、1965~67/ソ連)、どちらも有名俳優は起用されていない。

それでも、なかなかの大物俳優がナポレオンを演じた映画が、ないでもない。
   
*****

まず、名優シャルル・ボワイエ。映画は『征服』(Conquest/クレランス・ブラウン監督、1937年、アメリカ)。ボワイエはこの映画で、受賞こそ逃したものの、アカデミー主演男優賞にノミネートされている。

Modern_Screen_1937_Conquest.jpg
▲『征服』より~グレタ・ガルボ(左)と、シャルル・ボワイエのナポレオン

ところが、ここでのナポレオンも、どちらかといえば脇役だった。主役は、ナポレオンの愛人マリア・ヴァレフスカ伯爵夫人である。演じたのは、めったに“笑わない”クール・ビューティ、グレタ・ガルボ。母国ポーランドを守りたいと願うものの、愛人としてナポレオンの征服欲も理解できるので苦悩する。

シャルル・ボワイエはさすがの名演だが、いかんせん、グレタ・ガルボも迫力満点で、かなり喰われている(名作『アンナ・カレニナ』の2年後で、彼女の絶頂期だった)。映画は残念ながら大コケで、ガルボは“赤字女優”のレッテルを貼られた。もっともこのあと、『ニノチカ』で、銀幕で初めて“大笑い”を披露して挽回するのだが。

   *****

もう一人、ナポレオンを演じた大物俳優は、なんとマーロン・ブランドである。映画は『デジレ』(Désirée/ヘンリー・コスター監督、1954年、アメリカ)。

desire-D32M08.jpg
▲『デジレ』ポスター~ジーン・シモンズ(右)と、マーロン・ブランドのナポレオン

だが、これまたナポレオンは脇役で、今度の主役は、デジレ・クラリー。ナポレオンの若き時代の婚約者だ。婚約中にもかかわらず、ナポレオンがジョゼフィーヌに走ったため、捨てられる悲劇の女性である。演じるのは、ジーン・シモンズ。その後、スウェーデン王妃となるが、ナポレオンが忘れられず、三角関係寸前の半生をおくる。

人気女優ジーン・シモンズに加えて、ジョゼフィーヌを『嵐が丘』のマール・オベロンが演じており、全体は女性映画の雰囲気が濃厚だった。

ちなみに、シャルル・ボワイエとマーロン・ブランド、どちらのナポレオンも、前髪が「▼」型で垂れ下がっている。だらしない鉄腕アトムのようである。過去の、多くの肖像画にならったのだろう。

   *****

もちろん、ナポレオンが主役の映画もある。映像史に残るサイレント映画の名作『ナポレオン』(Napoléon vu par Abel Gance=アベル・ガンスが見たナポレオン、1927年、フランス)である。

ナポレオン
▲『ナポレオン』コッポラ版(1927/81)のポスター

これはフランスの巨匠、アベル・ガンス監督(1889~1981)が、ナポレオンの全生涯を映像化しようとした、ほとんど誇大妄想超大作である。だが完成したのは最初の部分のみで、イタリア遠征あたりまで。ところが、これだけでも12時間余におよぶ。あまりの長さに、さまざまな編集ヴァージョンがつくられているうちに、フィルムは散逸。いったいどれが本来の姿なのかわからなくなり、半ばまぼろしの映画になってしまった。

そのなかの、約220分ヴァージョンの権利を、1981年、フランシス・フォード・コッポラが買い取った。そして父カーマイン・コッポラに新たに音楽を書かせ、生オーケストラ演奏付きで、全世界で公開した(近年さかんなシネマ・コンサートのはしりである)。これが人気を呼び、世界中でちょっとしたナポレオン・ブームとなった。

たしか1983年、それが日本でも公開されて、鼻息荒くあたしも行った。会場は日本武道館。演奏はカーマイン・コッポラ本人の指揮(だと思った)、日本フィルハーモニー交響楽団。アリーナは完売で、上の階から見下ろすようにして観た。

いまとなっては記憶もおぼろげだが、とにかくトンデモない映画だった。1927年といえば昭和2年、サイレント映画の最終期である(この年、アメリカで、トーキー第一作『ジャズ・シンガー』が公開されている)。もちろんカメラの性能や撮影技術も、後年とは比べ物にならない。合成が精一杯、CGだのVFXだのは、夢のまた夢の時代である。

なのに、まるでステディカムのような安定した移動撮影(冒頭、少年時代の雪合戦シーンからして、すごい!)、ドローンかと見紛う空中撮影(カメラを回したまま、“投げた”?)、CGとしか思えない数千(数万?)人のエキストラ、ほんとうに発砲しているような戦闘場面……。

3面
▲驚愕の3面スクリーン映像

そして、クライマックスのイタリア進軍のシーン(だと思った)で、前代未聞の事態が発生した。スクリーンの左右の幕が開き、「横長3スクリーン」に広がったのである。上映機3台が同時に3つの画面を上映しはじめた。あるシーンは3面パノラマ画面、あるシーンはまったく別の3映像の同時上映(3ケ所同時中継風)。最後には3面が、フランス国旗のトリコロール彩色(青・白・赤=自由・平等・博愛)になった記憶がある。後年のシネラマや、1970年の大阪万博で話題になったパノラマ立体映像の元祖である。「トリプル・エクラン」なる上映方式らしいのだが、こんなことを昭和初期に平然と実現させていた国(連合軍)と戦争したって、勝てるわけないじゃないか。

ただ、そんな一種の“実験映画”だけあり、主役はナポレオンではなく、映画技術そのものが目的のように当時は感じた。

Napoleon_1927.jpg
▲アルベール・デュドネのナポレオン

ナポレオンを演じたアルベール・デュドネ(1889〜1976)は、細身長身。髪型も「▼」ではなく、「ベルばら」オスカルのようなロン毛で、なかなかカッコよかった。最高のナポレオン役者ではないか。ちなみにこのひとは、サン=サーンスが“世界初の映画音楽”を書いた『ギーズ公の暗殺』(1908年、フランス)でデビューした、フランス・サイレント映画のスターである。

なお、パパ・コッポラの音楽は、ほとんどがクラシック名曲の引用で、あまり面白くなかった。日フィルも、よくお付き合いしたと思う。

   *****

というわけで、現在公開中の『ナポレオン』は、ひさびさにナポレオン本人が堂々たる“主役”で、しかも、きちんと、ほぼ全生涯を描いた映画である。

ホアキン
▲ホアキン・フェニックスのナポレオン

ホアキン・フェニックスは、ナポレオンの複雑な性格をうまく演じている。さすがはアカデミー賞ほか、世界中の主演男優賞を独占しているだけのことはある。その“顔芸”は、ほとんど歌舞伎のようである。

ジョゼフィーヌ_キャラ_NAPO_Feature_AM_20675_r
▲ヴァネッサ・カービーのジョゼフィーヌ。

ジョゼフィーヌ役のヴァネッサ・カービーは、旧ソ連のウクライナ搾取を暴露した『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(ポーランド・ウクライナ・英合作、2019年)の、ニューヨーク・タイムズ:モスクワ支局記者役で忘れがたい。最近では『ミッション・インポッシブル』シリーズでおなじみだろう。気の強い色悪を演じては、当代随一ではないか。今回、ナポレオンの派手な女性関係は、ほぼ彼女だけに限定して描かれている。

音楽のマーティン・フィップスは、映画よりもTVドラマの音楽が多いひとのようだが、オリジナル部分以外は、スタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』(1975年)にならったという。ゆえに、クラシック名曲や、当時の民衆音楽などを多く使っている(『バリー・リンドン』自体、本来はナポレオン伝記映画の予定だったのが中止になった、代替作品である)。

そのため、全編に、ハイドン、ボッケリーニ、ゴセックなど、当時の人気作曲家の名曲が流れる。時代的にはすこし前の曲だが、ヴィヴァルディの協奏曲《アラ・ルスティカ》RV151も流れる。『オール・ザット・ジャズ』で、ロイ・シャイダーが、毎朝カセットで聴いていた、あの曲である。

戦闘場面の迫力は特筆もので、当然、CGも使っているだろうが、ナポレオンの軍事戦略が、具体的にどのようなものだったのか、とてもよくわかる。防衛大学の教材になるのではないか。

いままで映画で数多くの戦闘場面を観てきたが、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』 (原恵一監督、2002年)に匹敵する説得力である(これは冗談ではなく、『戦国大合戦』は、むかしの合戦の実態をきちんと考証して描いており、なみの時代劇を凌駕するリアルさなのである)。

Jacques-Louis_David_-_The_Coronation_of_Napoleon_(1805-1807).jpg
▲ダヴィッドの「ナポレオンとジョゼフィーヌの戴冠」(ルーヴル美術館) ※東京富士美術館にあるのは、弟子による複製画。

戴冠式
▲映画『ナポレオン』の戴冠シーン

さらに戦闘場面もさることながら、戴冠式のシーンは、ダヴィッドの有名な油彩画そのもので、大感動。この絵画には、実際には出席していない、ナポレオンの実母や兄が描かれていることでも知られている。そこまでは気がつかなかったが、今回の映画ではどうだったのだろうか。

余談だが、この戴冠式シーンには、明らかな考証ミスがある。聖歌隊の指揮者が、タクト(指揮棒)をもって現代の指揮者のような身振り手振りで指揮しているのだ。当時、このような「指揮者」は、まだ存在していない。まるめた紙や杖で、簡単な合図をおくる程度だった。それもコンサートの場合で、カントル(教会音楽監督)はオルガンを弾く。あのように前に立つことは、なかったはずだ。

……と、些末なことを述べたが、そんなことまで気がつくほど、細かく、かつ本格的に描かれた作品である。

上映時間2時間38分の長尺だが、『アラビアのロレンス』(3時間42分)ほどではない。脚本構成がうまくできており、役者の顔を観ているだけで、あっという間に時間が過ぎる。たぶん、正月までかかっていると思うので、年末年始にゆっくり観るのに、ぴったりの大作だと思う。

なお、「前髪」については、実際に映画館でご確認ください。


◇映画『征服』予告編は、こちら。
◇映画『デジレ』予告編は、こちら。
◇サイレント映画『ナポレオン』(1927)DVD予告編は、こちら(コッポラ版以降の、最新ヴァージョン。3面スクリーン・シーンもあり)。
◇現在公開中の『ナポレオン』HPは、こちら(予告編あり)。



スポンサーサイト



13:54  |  映画  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (現在非公開コメント投稿不可)
 

▲PageTop

 | BLOGTOP |