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2024.01.25 (Thu)

第445回 【TV/映画/本】「新刊」と「新作映画」におくられて旅立った、山田太一さん

ドラマ2月号
▲「月刊ドラマ」2月号

昨年11月29日、脚本家・作家の山田太一さんが亡くなった(享年89)。

あたしは、三島由紀夫賞・山本周五郎賞が1988年にはじまってからしばらく、選考会・授賞式での“配車係”をやっていた。選考委員や受賞者の、会場(ホテルオークラ)~自宅間の車の送迎手配である。

第1回の山本賞は、山田太一さんの『異人たちとの夏』(新潮社刊)だった。この作品が第1回受賞作となったことで、新しい賞の性格や方向性が、はっきり示された。その意味で、とてもいい作品が選ばれたと思った(ちなみに第1回三島賞は、高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』だった)。

授賞式の日、山田さんは、たしかTBSかどこかで仕事をしており、直接行くから車は不要とのことだった。

あたしは、観るたびに号泣する映画『あこがれ』(恩地日出夫監督、1966)や、TV『岸辺のアルバム』『男たちの旅路』などの脚本家として、山田さんを大尊敬していた。どんな方かと思って緊張しながらお迎えしてみれば、小柄で、小さな声で話す、たいへん地味で静かなひとだった。授賞式の間も、ずっと、はにかむような表情をしておられた。

その山田さんは、第5回(1992年)から8年ほど、山本賞の選考委員をつとめた。その間の第7回(1994年)の受賞作が、久世光彦さんの『一九三四年冬 乱歩』(集英社刊)だった。いうまでもなく、久世さんも、山田さんとおなじTV業界人。1976年のドラマ『さくらの唄』(TBS)は、山田太一脚本、久世光彦演出だった。年齢も久世さんが1歳だけ下の、同世代である。

選考会で受賞作が決まると、すぐに受賞者に駆けつけてもらい、記者会見となる。そのときも久世さんが、いままでどこかのスポーツジムにでもいたのか、ジャージ姿のまま、タオル片手にホテルオークラの記者会見に来てくださった。

そのころ、選考委員たちは、別室の慰労会場で、軽食をつまみながら、イッパイやっている。山田さんは、お酒はあまり強くないのか、顔を真っ赤にしながら、ほかの委員と談笑していた。

そこへ、記者会見を終えた久世さんが、緊張した様子で「ありがとうございます……」と入ってきた。そのときの山田さんの表情が忘れられない。満面の笑みを浮かべて、「いやあ、おめでとうございます、さあ!」と、すぐ隣りの席をすすめていた。たぶん、久世さんと話したくて、強くないお酒を舐めながら、待っていたのだと思う。長年、TV業界で活躍してきた同士が、視聴率以外でこのような評価を得たことがうれしくて仕方ないといった様子だった(このとき、同室内に三島賞選考委員もいて、奥で、石原慎太郎・江藤淳の両氏が、“かなり”盛り上がっていたのも忘れられない)。

   *****

男たちの旅路
▲これさえあれば生きていける『男たちの旅路』DVD全集

ところで、『岸辺のアルバム』(1977)、『男たちの旅路』(1976~82)である。大学で同級のS君は、これら山田ドラマの物まねが絶品だった。

▶岸辺のアルバム
「浮気の提案です。お互いの家庭は決して壊さない。絶対に秘密は守る。深入りはしない」(竹脇無我)

「アルバムよ! 2冊でも3冊でもアルバムを取ってきたいんです。家族の記録なんです! かけがえがないんです!」(八千草薫)

▶男たちの旅路
「甘ったれたことを言うな! こんな場所を選んで、わざわざノコノコ上がって来る奴に、死ぬ資格などない!」(鶴田浩二)

「戦争って、案外、勇ましくていい事がいっぱいあるのかもしれないなんて、思っちゃうよ。それでもいいんですか? 俺は五十代の人間には責任があると思うね!」(水谷豊)

——ドラマよりも、口角泡を飛ばしてこれらの物まねをするSくんのほうが印象に残っているくらいだ。つまり、それほど、山田ドラマには、不思議な熱量があるのだ(すでに名作『ふぞろいの林檎たち』もはじまっていたが、あたしもSくんも、群像劇のせいか、それほどは熱狂しなかった)。

余談だが、『男たちの旅路』第4部第2話〈影の領域〉(1979)では、鶴田浩二、梅宮辰夫、池部良の3人が、同一画面内に登場する。東映ヤクザ映画のスター3人がそろったわけだ。第3部第1話〈シルバーシート〉(1977)でも、笠智衆、殿山泰司、加藤嘉、藤原鎌足、志村喬ら“昭和映画界の老名優”がそろい踏みしていた。このドラマは、映画ファンにとってもたまらないキャスティングだった。

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山田太一 本
▲”山田太一本”の数々

山田ドラマに強烈な記憶があるのは、多くが“活字”で読めたからでもある。

『岸辺のアルバム』は、東京新聞連載の「小説」が原作だった(挿絵が深井国氏だった)。『異人たちの夏』も、のちに大林宣彦監督で映画化されたが、もとは「小説新潮」連載の「小説」である。

そのほか、脚本も、多くが出版されている。『ふぞろいの林檎たち』も新潮文庫化されたし、『男たちの旅路』に至っては、3~4回、単行本化されている。菅原文太・和田アキ子主演の、女子プロレスに挑む少女たちを描いた『輝きたいの』(1984)も単行本化され、夢中になって読んだ記憶がある。

倉本聰とならんで、これほど出版化された脚本家は、珍しいのではないか。もちろん読者は、あの“山田太一ブシ”とでもいうような、強烈な説教調のセリフを目でも確かめたかったのである。選び抜かれた、確固とした言葉で書かれているので、「小説のように読める」脚本だった。

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脚本
▲昨年10月刊の、山田太一さんの「最新刊」

そんな山田太一さんだが、亡くなる直前に「新刊」が出ていた。『山田太一未発表シナリオ集』(山田太一著、編・解説:頭木弘樹/国書刊行会)である。

これは驚くべき本で、パートⅣで終わっていた『ふぞろいの林檎たち』の7年後、40歳代になった彼らを描いた〈パートⅤ〉が収録されている。さらに、『男たちの旅路』では、本来の第4部第2話になるはずだった〈オートバイ〉なる作品までも! それら未映像化脚本2作を中心に、まぼろしのTBS「2時間サスペンス・ドラマ」『今は港にいる2人』も収録されている。

どれも、さすがは山田太一さんといいたくなるシナリオである。これらが未発表に終わった理由は、解説に詳しい(編者の頭木弘樹氏は、ずっと山田さんのもとへロング・インタビューで通っていたらしい)。

そのうち、『男たちの旅路』〈オートバイ〉については、準主役の水谷豊が売れっ子になってしまい(日本テレビ『熱中時代』の大ヒットで)、継続出演が難しくなったことがボツの理由だったようだ。

第4部第2話〈オートバイ〉は、その前の回〈流氷〉に引き続き、水谷豊が重要な役を演じる。今回も、陽平(水谷豊)が、上司の吉岡司令補(鶴田浩二)と“対立”する。

郊外の静かな団地に、毎晩オートバイであらわれて騒音をまき散らす若者。徹底的に排除しようとする警備担当の鶴田浩二。それに対し、水谷豊は、ここまでしつこくあらわれるには、彼にもなにか理由があるはずで、それを聞くべきではないかと主張する。だが、業務として“警備”を請け負った吉岡にすれば、そんな甘い対応は許されない……。

第4部に入って、鶴田浩二と水谷豊の関係が逆転するのでは……と感じはじめた視聴者の期待に応える回である。実現していれば、今回も(歌舞伎でいう)「ジワがくる」クライマックスになったと思う。

だが水谷豊の起用は不可能になった。そこで〈オートバイ〉はボツになり、この回から水谷豊は降板、上述〈影の領域〉に変更されたのだった。

山田さんは2017年に脳出血を発症。以後、本格的な執筆活動にはもどれないまま、11月末に逝かれた。まるで、『山田太一未発表シナリオ集』の10月末刊行を待っていたかのようだっだ。

   *****

異人たち
▲イギリス映画『異人たち』(4月公開)

そしてこの4月、山田さんの小説、第1回山本賞受賞作『異人たちとの夏』が、イギリスで再映画化され、日本公開される。1988年、大林宣彦監督・市川森一脚本によって映画化されて以来、35年ぶりのリメイクである。風間杜夫、片岡鶴太郎、秋吉久美子、名取裕子らによる、名作であり迷作であり怪作であった。だが不思議と忘れがたい映画で、あたしは嫌いではない。この映画を観て、浅草のすき焼き屋「今半別館」へ行くひとが続出したといわれたものだ。

今回のリメイク『異人たち』(All of Us Strangers/アンドリュー・ヘイ監督)は、あたしも先日試写会で鑑賞させていただいたが、予断を与えたくないので、あえて感想は記さない。プレス資料によれば、まだ山田さんが伏せる以前から、ご家族ぐるみで進めていた企画らしい。こういう映画になることを、山田さん自身、承知していたようである。おそらく完成作を観たら「いまの時代、これでいいんじゃないでしょうか」と、穏やかに微笑まれたような気がする。

山田さんは、「新刊」と「新作映画」におくられて旅立った。こんな最期をむかえた脚本家は、いない。ご冥福をお祈りします。
(一部敬称略)

あこがれDVD
▲山田太一さん脚本の名作『あこがれ』(内藤洋子主演、恩地日出夫監督、1966)。語りだしたらとまらないので、今回はなにも述べません。

映画『異人たち』のHPは、こちら。



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