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2024.02.28 (Wed)

第448回 【歌舞伎/文楽/演劇】 国立劇場以外での、国立劇場主催公演

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▲(左から)歌舞伎正月公演、文楽12月公演、文楽2月公演パンフ。表紙には「国立劇場」とあるが、会場は、国立劇場ではない。

昨年10月、国立劇場が閉場した。歌舞伎や文楽は、とりあえず、以下の別会場で公演された。

歌舞伎→新国立劇場・中劇場(今後も、ここを使用するのかは不明)
文楽→シアター1010、日本青年館ホール(今後、新国立劇場・小劇場や文京シビックなど、ほぼ毎回変わる予定)

そのほか、歌舞伎鑑賞教室はサンパール荒川などで、文楽入門公演は有楽町よみうりホールなどで開催されるようだ。まさに、国立劇場は、さまよえる流浪のシアターと化したのである。

2月で、まず3か所での初公演が、ひととおり終わった。「国立劇場以外での、国立劇場主催公演」である。簡単に感想を記しておく。

◆新国立劇場・中劇場で観た「歌舞伎」正月公演
新国立劇場

約1000席(1・2階席)なので、いままでの国立劇場・大劇場(1610席)よりは小ぶりである。江戸時代の芝居小屋を再現したといわれる「平成中村座」が約830席なので、あそこに近いキャパだ。ここは普段、大がかりな一般演劇に使用されているが、オペラやバレエも上演可能だ。かつて、小林紀子バレエ団公演に行ったら、2階最前列に、バレエ・ファンで知られる高円宮憲仁親王がおられたのをおぼえている(漂う気配が、そのあたりだけちがっていた。47歳の若さで薨去されたのは、そのすぐあとだった)。

あたしは、ここでのシェイクスピア・シリーズに通っているほか、最近ではパリ・国立オデオン劇場『ガラスの動物園』、文化庁芸術祭主催『レオポルトシュタット』などを観た。だがステージに奥行きがありすぎて、安席で後方専門のあたしとしては、いつも「遠くで何かやってるなあ」と感じていた。演出家はステージを広々使えるのでやり甲斐があるだろうが、観客は2階後方にもいることを、もう少し考えてほしいと、しばしば思わされた。

まさか、その劇場で「歌舞伎」を観るとは夢にも思わなかった。だが、その“中途半端な広さ”が、実はピッタリなのであった。普段ここは、客席の床がそのままステージにつながっているような状態での公演が多い。しかし歌舞伎ではそうはいかないので、特設舞台がつくられていた。これはかなりの手間と経費を要したのではないか。しかし、歌舞伎ならではのセットを組むので、あのだだっ広いステージが狭くなり、かえって見やすくなったのである。

正月は、恒例の菊五郎劇団。今年は、『石切梶原』『葛の葉』など。例年の復活新作ではなく、古典名作だったが、なかなかよかった(なぜ古典見取りになったのかは、記者会見=後述で、時蔵が「(国立劇場側が復活新作を)やる気がなかったのかなと思いました」と、ズバリ述べていた。おおやけの場でこんなことをいえる役者は、あまりいない)。

国立劇場・大劇場や、歌舞伎座のような横長舞台でもなく、上述のように適度な大きさだ。客席は半円形で舞台に向いており、しかも傾斜があるので、後方でもよく見える。

今回は中村梅枝が大活躍で、三幕とも、ほぼ出ずっぱりの“梅枝奮闘公演”である。6月には時蔵を襲名するそうだ。有名な『葛の葉』の曲書きシーンなど、大劇場とちがって、ほとんど目の前で観ているような迫力で感動した。なにしろ傾斜があるので、真ん中あたりの席だと、舞台と見物の視線が、ほぼおなじ高さである。よほど前方席でないかぎり、下から見上げる感じはない。歌舞伎は所作が大きいせいもあるが、「遠くで何かやってるなあ」と感じることもなかった。

唯一の問題は花道がないことで、なんとなく数メートルの仮花道っぽいスペースは用意されているのだが、とうてい大劇場にはおよばない。おそらく宙乗り設備もないだろう。小ぶりな会場なので、ツケ打ちがやたらと大きく響いて耳が痛くなったが、全体は、まさに歌舞伎にピッタリだと思った。むかしの見物は、これくらいの距離感で芝居に接していたのだろう。無理な話だが、次の国立劇場でも、このスペースで歌舞伎を観たいものだと思わされた。
 
◆シアター1010〔センジュ〕で観た「文楽」12月公演
シアター1010

ここは、北千住駅直結の商業施設(マルイ)の10階にある。いままで三宅坂へ通っていた文楽ファンの大半にとって、まったくなじみのない土地ではないかと思われる。

701席(1・2階)なので、いままでの国立劇場・小劇場(590席)よりは大きい。大阪の国立文楽劇場が、出語り床のときで731席なので、あそことほぼおなじキャパである。

北千住といえば、宮部みゆきの直木賞受賞作『理由』を思い出す。舞台のモデルとなったタワーマンションは、駅からしばらく歩いた隅田川沿いにある(国松警察庁長官が狙撃された現場だ)。

あたしは、この劇場は数えるほどしか行ったことがなく、ひさしぶりだった。平幹二朗主演で、全員男優による『アントニーとクレオパトラ』を観た帰りに、駅前で安酒を呑みすぎて悪酔いしたのが忘れられない。ほかに記憶もおぼろげだが、たしか落語会にも行った。

そんな劇場で文楽を観るとは、夢にも思わなかったが、これまた実にピッタリの劇場だと思った。いままで東京の本公演(国立劇場・小劇場)は、客席はほぼフラットだし、椅子は狭いしで、とにかく窮屈だった。字幕が見切れになる席も多かった。しかしここは、上述の新国立劇場・中劇場とおなじく適度な傾斜があり、席も半円形に近いので、たいへん見やすかった。出語り床の盆も、ちゃんと設置されていた。

あたしは、前方の席を買っていたのだが、人形が舞台奥、本手摺の上にいくと、かなり下から見上げるような感じになった。そこで休憩後は、真ん中より後方の空席に移ってみたら、これまた、ちょうどこちらの視線と人形がほぼおなじ高さになり、見やすくなった。あの視線の高さで文楽を観たのははじめてだったので、新鮮だった。

ただこの劇場には2階席がある。もしや、2階から観たら、船底や、人形遣いの足許が見えてしまうのではないか。まあ、それはそれで面白いので、いつか挑戦してみたい。

演目は『源平布引滝』~「竹生島」「実盛物語」。東京の12月は若手・中堅公演で、幹部級は出演しない。それでも織太夫、芳穂太夫が最後をつとめて、大熱演であった。

◆日本青年館ホールで観た「文楽」2月公演
日本青年館

若手・中堅公演はシアター1010で、幹部公演は、この日本青年館ホールという区分けなのだろうか。そもそも、プログラムに「初代国立劇場閉場後の初の文楽本公演は、日本青年館ホールにて開幕します」とあったが、ということは、上述・昨年12月のシアター1010公演は何だったのだろうか。あれは「本公演」ではなかったのか。もし幹部級公演が「本公演」だというなら、若手・中堅公演は何と呼べばよいのだろうか。

ここは1・2階席あり、全1249席と、3会場のなかではもっとも巨大なホールである。宝塚歌劇団東京公演の会場として、有名だ。とうてい文楽には向かないと思いきや、案の定、かなり無理があると思った。

場所は、銀座線「外苑前」駅から徒歩5分ほどで、神宮球場に隣接している。JR「千駄ヶ谷」駅か「信濃町」駅からだと、徒歩15分くらいか。あたしは千駄ヶ谷から、国立競技場を横に見ながらテクテク歩いて行った。

ここは、「青年団」運動の本拠地である。山田洋次監督の映画『同胞(はらから)』(1975)で、岩手の若者たちが、東京のミュージカル劇団を招聘しようと奮闘していたが、彼らがその「青年団」である。

この建物、以前はもうすこしJR駅寄りにあったのだが、2020年東京五輪で、国立競技場が拡大新築されるにあたって、立ち退きにあい、いまの場所に移転した。まったくあの五輪は迷惑な行事である。前の建物のとき、何度か演劇を観にいったが、移転後は、あたしは今回が初めてだった。

ここでも出語り床が設置されていたが、とにかく広すぎる。席は、舞台に向かってかすかに弧を描いているが、横一直線の感覚に近い(傾斜は十分にある)。よって端に座ると、なんだか観にくい。明らかにステージ全体を使うミュージカルのような出し物のための劇場だ。文楽のように、ほぼ横移動のみで展開する見世物には、まったく向いていない。

それより問題は、モギリが2階なので、エッチラオッチラ、階段を登らねばならないことである。そのうえ、ロビーと呼べるようなスペースが、ほぼ「ない」。外回りは狭い「廊下」があるだけで、椅子などもない(だから、おみやげ売店もない)。よって、休憩時間の居場所がない。

コインロッカー料金は驚愕の「300円」! しかも、「戻らない」。国立劇場も「戻らない」が「10円」だった。松竹だって「戻らない」が「100円」である。

1階も狭く、ここにも「ロビー」スペースは、ない。椅子などもない。カフェとコンビニはある。だがカフェは数えるほどしか席がない。しかも行列である。仕方なく、入れ替えの間は、みなさん、寒空のもと、外へ出て、周辺のベンチや花壇の端に座って軽食を食べている。あたしも、そうするしかなかった。なにが悲しくて、狂言見物に来て、こんな思いをしなければならないのだろうか。

2月は3部制である。いままでは、たとえば1部・2部通しで見物の場合、そのままロビーで座っていれば、係員がモギリに来てくれて、すぐに入れた。ここでは、そうはいかない。いちいち階段を下りて、外へ追い出される。しかも先述のように、椅子もなく居場所もないから、年輩の見物は、つらそうにコンビニ前で立ったまま入場開始を待っている。カフェは行列でとうてい入れない。

あたしは、1部・2部とつづけて、『勘平腹切』や『酒屋』などを観たのだが、周辺環境のひどさに腹が立って、なにを観たのか、よく覚えていない(シアター1010では、それほどの不便は感じなかった)。もう、あんな劇場で文楽は、二度と観たくない。

  *****

そんなことを感じながら「国立劇場以外での、国立劇場公演」を観ていたら、先日、中村時蔵や吉田玉男、井上八千代ほか、いままで国立劇場で公演してきた伝統芸能の実演家10人が、日本記者クラブで会見をひらいた。

要するに、昨年10月の国立劇場閉場以来、改築業者の落札が成立せず、新築開場の見通しがまったく立っていないことへの憂慮である。さらにこんなに長いこと、ナショナル・シアターが稼働しないことで、伝統芸能にいかに悪い影響があるかを訴えた。

よく考えると信じられない話だが、国立劇場は、いつ再開場するか、まったく見通しが立っていない状態で閉場したのである。こんな国があるだろうか。しかも、以前にも書いたが、今度は、海外観光客のための巨大ホテル施設となり、そのなかに新劇場を押し込めるという、前代未聞、世界のどこにそんなナショナル・シアターがあるのかと呆れる計画である。これにかんしては、国立劇場(日本舞台芸術振興会)の元評議員で、作家の竹田真砂子氏も、ブログで憂いていた。“身内”からも呆れられるようでは、なにをかいわんやである。

そういえば、国立劇場は閉場したが、そのなかの図書室は再開したそうである。だったら、いっそ小劇場くらいは再開してはどうですか。どうせ、工事など、そう簡単にはじまりそうもありませんから。
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