FC2ブログ
2020年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2016.11.15 (Tue)

第172回 ボブ・ディランの「詩」

テンペスト
▲ボブ・ディラン『テンペスト』(2012)

 ボブ・ディランがノーベル「文学」賞を受賞したが、一部には「違和感」の声もあった。
 わたしも、できれば「本」を出している「作家」に贈賞してほしかったような気がした。
 それでもボブ・ディランは若いころから大好きだったし、ここ数年、候補に挙がっているらしい様子を見て「まずありえないだろうけど、受賞したら快挙だなあ」と思っていたので、素直にうれしい。

 しかし、日本のメディアの反応がステレオタイプなのは残念だった。
 ほとんどが≪風に吹かれて≫の歌詞をあげ、「反戦歌の代表作」であると決めつけ、まるで「反体制派だから受賞した」といわんばかりだった。
 確かにノーベル文学賞には昔からその傾向があり、特に昨年の受賞者、スべトラーナ・アレクシエービッチなども、戦争や原発事故を告発するジャーナリストだったから、その構図で解説したくなる気持ちもわかる。
 ボブ・ディランは「反体制派」(というより「体制」に興味がない)かもしれないが、「文学」賞を受賞したのは、やはり「詩人」としてすぐれているからだと思う。

 わたしは西洋詩にはまったくの素人なのだが、ボブ・ディランの詩が、西洋の伝統的な詩の形式を踏まえたものであることくらいはわかる。
 たとえば、2012年に発表した楽曲≪テンペスト≫(同名アルバムに収録)は、タイタニック号の悲劇を叙事詩のように詠う15分近い大曲だが、見事なクォートレイン(1連4行)で、どこかホイットマンを思わせる。
 全部で45連構成の長編詩で、第1連はこうなっている(著作権があるので、各行頭・行末の2語のみ掲げる)。

 The pale ……its glory
 Out on……Western town
 She told……sad story
 Of the……went down

 1行目末【glory】と3行目末【story】がライム(韻)を形成している。
 そして2行目末【town】と4行目末【down】がライムとなっている。
 いわゆる「abab」形式のライムである。

 ためしに無作為で別の連を抜き出してみても、

 The ship……going under
 The universe……opened wide
 The roll……up yonder
 The angels……urned aside

 と、見事に「abab」のライムとなっている。
 45連、すべてがこの形式のライムで出来上がっているのである。

 芝居好きだったら、すぐにシェイクスピアを思い出すだろう。彼の「詩」はいうまでもなく、芝居でも、重要なセリフや劇中歌は、すべてライムで構成されている。
 たとえばほとんどミュージカルのような芝居『十二夜』で、フェステがラストでこんな歌をうたう。

 When that I was and a little tiny boy,(おいらがガキンチョだったころ)
 With hey, ho, the wind and the rain, (ヘイホー、風と雨ばかり)
 A foolish thing was but a toy, (バカをやっても許してくれた)
 For the rain it raineth every day. (毎日雨降りつづきだから)
 
 みごとな「abab」のライムだ(これが『ルークリース凌辱』のような大作物語詩になると、1連7行で「ababbcc」となる)。

 このようなライムで作詞しているポップス・ミュージシャンが、いま、ボブ・ディランのほかにどれほどいるのか、わたしは知らない。
 先に挙げた≪テンペスト≫などを聴くと、「うたっている」というよりは、「少しフシをつけて朗読している」ようである。
 しかも、決してきれいとはいえない、ガラガラ声で。
 彼の姿勢は、昔の吟遊詩人、日本でいえば「平家物語」を語った琵琶法師を思わせる。
 21世紀に、シェイクスピアのような「ライム」で詩を創作し、CDやライヴで「朗読」する吟遊詩人がいる、そのことが、北欧の文学者たちを感動させ、今回の贈賞に至ったような、そんな気がした。
(敬称略)

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

◆毎週(土)23時FMカオン、毎週(月)23時調布FMにて、「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」案内係をやってます。

◆ミステリを中心とする面白本書評なら、西野智紀さんのブログを。
スポンサーサイト



09:36  |  CD  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (現在非公開コメント投稿不可)
 

▲PageTop

 | BLOGTOP |