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2016.11.17 (Thu)

第173回 書評『クレージーマンガ』(クリ・ヨウジ)

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『クレージーマンガ』(クリ・ヨウジ) ユジク阿佐ヶ谷/ふゅーじょんぷろだくと 2800円+税

(以下の書評は、産経新聞10月30日付書評欄に掲載されたものに、若干の加筆を施したものです)

 驚くべき「漫画」本が出た。88歳のアニメーター、久里洋二(本書では「クリ・ヨウジ」)が、500頁を描き下ろしたのだ。

 久里といえば、たった十数枚の原画による『人間動物園』が海外の映画祭で11冠を獲得している、日本の「アニメ神」である(いま見ても、これが昭和37年の作とは信じられない!)。
 久里の全盛期の作品には、武満徹、一柳慧、林光、冨田勲、オノ・ヨーコなど、錚々たる顔ぶれが音楽を寄せている。
 冨田などは、名盤『月の光』発表の2年前に、すでに久里のアニメにシンセサイザー音楽を付けている。
 そのほか、TV「ひょっこりひょうたん島」オープニングや、NHK「みんなのうた」でも大量の音楽アニメを発表しており、「アニメは音楽で決まる」と早くから公言していた。
 森高千里≪ザ・ミーハー≫のPVアニメも、久里である。

 深夜のTV番組「11PM」内で放映された「ミニミニ・アニメーション」の、毒のある艶笑タッチも忘れられない。
 18年間、毎週1本、たった1人で製作しつづけた伝説のシリーズだ。

 そんな久里が、1年間漫画だけに集中し、描き上げたのが本書である。

 久里は「人間の本性」を露悪的なまでにむき出しにする。
 だから題材には「食」「性」「殺傷」「糞尿」が多い。
 ほとんどは一枚絵のナンセンスだ。
 おなじみ無人島ギャグ、老人向けのエロ漫画、糞尿譚、原発や災害にまつわるブラック・ユーモアなどが次から次へと登場する。

 コラムなど息抜きのページは一切ない。
 漫画のみが500頁を爆走するのだ。
 中には乱れている線もあるし、手書きの誤字もある。
 それらが修正もされず、校閲無用とばかりにそのまま掲載されており、異様な迫力だ。
 こんな出版物、いままでにあっただろうか。

 その一方、シンプルな線で描かれた犬や猫の愛らしさはどうだろう。
 久里が文春漫画賞を受賞している「漫画家」だったことを再認識させられた。

 なぜ88歳の老人にこんな仕事が可能なのか、頭の中はどうなっているのか、臨床研究の対象にしてほしい。
 出版界の暴走老人は、蓮實重彦だけではなかったのだ。
<敬称略>

◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

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