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2018.03.15 (Thu)

第194回 東京アニメアワードフェスティバル2018

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 東京アニメアワードフェスティバル(3月9~12日)が、昨年から池袋の複数会場で開催されるようになった。共催には東京都が加わっている(最終日の授賞式には、小池百合子都知事も出席したらしい)。わたしは、若いころ、アニメ関係の仕事に少々携わっており、短編アニメや、ヨーロッパ作品が好きなので、海外作品のコンペ部門があるこういう映画祭はありがたい。

 まず、3スロットにわかれた短編コンペティションの35本を観た。
 ほとんどが3~10分前後の作品で、もっとも長いものでも20分だ。ただ、短編とはいえ1本の映画であることに変わりはなく、しかも音楽がべったり付いているので、目と耳がフル回転でクタクタになった(日本の「アニメ神」、90歳のクリヨウジさんは、かねてから「アニメは音楽で決まる」と断言している。だからクリ作品には、武満徹や一柳慧、オノ・ヨーコなど、錚々たるひとが音楽を付けていた)。

 そのなかでは、日本の映像作家・大谷たらふが、エレクトロニカのSerph(さーふ)の曲《Feather》に寄せたミュージック・ビデオ(5分10秒)が、美しくて楽しかった。音楽にあわせて「線」が縦横無尽に動く、アニメ本来の姿を思い出させてくれた。

 認知症を題材にした作品が2本あった。『頭が消えていく』(フランス+カナダ/9分28秒)と、『メモ』(フランス/4分40秒)である。ほかに広義の意味で「老い」を題材にした作品がいくつかあり、認知症が世界的な問題であることをうかがわせた。

 素晴らしかったのは、マックス・ポーター&桑畑かほる夫妻の『ネガティブ・スペース』(フランス/5分30秒)だった。これは、2016年の米アカデミー短編アニメ賞にもノミネートされた、人形ストップモーション作品。出張が多い父と息子の関係を、「荷づくり」(小さなカバンに多くの荷を要領よく詰める)の観点で描いたものだ。おそらく「荷づくり」で結ばれた親子関係なんて、そうはないはずなのに、観ていると、自分もそうだったと思うようになる、文学的で不思議な5分30秒であった。ラストでは目頭をおさえている観客もいた。
 案の定、この作品が、短編コンペ部門のグランプリを受賞した。

 短編作品の多くは、アニメ学校の卒業制作や、同期生らによるグループ制作だが、それなりにスポンサーを確保しているらしき作品もあった。商売にならないアート短編アニメに投資する、海外の企業文化の懐の深さを知らされた。
 また、エンディング・クレジットで、スタッフが、自らの電話番号とメールアドレスをはっきり表記する作品があり、これには驚いた。個人情報がどうとかいっている場合ではない、「とにかく仕事をくれ」というわけだ。小林秀雄の名言「プライヴァシーなんぞ侵されたって、人間の個性は侵されはしない」を思い出す。この貪欲さが、静謐で叙情的なアニメの背後に潜んでいるかと思うと、やはり彼岸の差をおぼえる。

幸福路上

 長編コンペ部門は4本が出品され、そのうちの2本を観た。
 これはもう、なんといっても(ほかの2本を観ていないとはいえ)、『オン・ハピネス・ロード』(台湾/1時間51分)の圧巻、ひとり勝ちであった。もちろん、グランプリを受賞した。これをしのぐ映画に、今年出会えるかどうか。『シェイプ・オブ・ウォーター』も『スリー・ビルボード』も、わたしの中では吹っ飛んでしまった。
 これは、手描きを基本にCG処理を加えた、昔ながらの味わいをもつ2Dアニメである。監督のSung Hsin Yin女史が上映後に登壇したが、本来は実写映画の監督で、アニメは初めてだという(京都大学に留学経験があるそうで、少々たどたどしかったが、日本語であいさつしてくれた)。

 主人公のLin Shu Chiは、蒋介石が死んだ日(1975年4月5日)に生まれた。ノスタルジックな作風で話題となった台湾の小説『歩道橋の魔術師』の時代である。ちなみに、彼女の生まれる少し前に発生した事件をモデルにした映画が、最近レストア版の公開でロングヒットとなった映画『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』だ。

 彼女の人生は、台湾新時代の歩みと軌を一にする。小学生時代は、国民政府の時期で、次第に民主化運動がおこる。李登輝総統の就任を経て、高校大学時代になると、民進党・陳水扁総統の時代(台湾史上初の政権交代)に重なる。1999年の「921大地震」ではともに「ガッチャマンの歌」をうたった幼馴染みを失なう。
 そんな彼女の人生が、台湾現代史とのかかわりで描かれる……のかと思いきや、それほどでもないところが、この映画のうまいところである。Hsin Yin Sung監督は、今村昌平の『にっぽん昆虫記』をやろうとしたわけではないのだ。だから、同じ女性の半生記でも、『ワイルド・スワン』のような凄まじい人生になりもしないし、むずかしい論争が登場するわけでもない。せいぜい、民主化デモに、ファッションとして参加する場面があったり、彼女の勤務する新聞社にデモが押し寄せる程度で、基本的に彼女はノンポリなのである。
 そしてChiは、アメリカにわたり、白人男性と結婚し、平凡な主婦生活をおくっている。実はいま、妊娠中である。だが、どこか満たされない。大好きだったおばあちゃんの葬式で、ひさしぶりに幸福町にもどった。昔の面影の残る町を歩きながら、子供時代を回想する(この回想場面が日本の昭和30~40年代を思わせ、アニメならではの表現が次々登場して楽しい)。またアメリカに帰って、同じ生活がつづくのか……。

 誰もが、子供のころは、将来の夢を抱いている。親も、こどもに期待し、成功を信じている。だが、まず、かなわない。平凡な大人になり、平凡な人生をおくり、その間、結婚がうまくいって平和な家庭が築ければまだいいほうで、病気や離婚など、アクシデントに見舞われることのほうが多いのである。おそらくこの映画を観るすべてのひとが、おなじことを考え、異国の女性なのに、Chiの姿に自分を重ねあわせるはずだ。そんな「普遍」をアニメで見事に表現できたことが、この映画の最大の価値といえる。そして、自分の平凡な人生を振り返るとき、どこに、心の置き所を見出せばいいのかを、やさしく教えてくれる。 

 いままでの説明で、『思ひ出ぽろぽろ』と『ちびまる子ちゃん』を思い浮かべたひとも多いと思う。だが、まったくちがう感動が待っているので、安心されたい。台湾の大人気歌手・蔡依林(安室奈美恵とも共演しているらしい)のうたうエンディング・テーマを聴いて涙がにじまないひとは、いないはずだ。
 このような作品を見出し、グランプリを授与した東京アニメアワードの主催者、一次選考委員、最終審査委員に最大級の敬意と賛辞をおくりたい(広報・宣伝が貧弱だったのは残念だったが)。そして、本作が日本で正式公開されることを願ってやまない。
<敬称略>

【余録】 
 このフェスティバルは、ほかにも部門賞が山ほどある。上記、長編・短編コンペ部門は、そのなかの一部にすぎない。もっとも注目されるのは、前年の作品に与えられる「アニメ・オブ・ザ・イヤー部門」で、今回は劇場映画部門が『この世界の片隅に』、TV部門が『けものフレンズ』であった。
 あと、台湾のアニメ作家に、ぜひ『歩道橋の魔術師』(上述)を、人形ストップモーションでアニメ化してほしいのだが。10分くらいでまとまると思う。あれほど「人形アニメ」向きの短編小説は、ないのではないか。

『feather』全編視聴可能
『頭が消えていく』予告編 
『メモ』全編視聴可能
『ネガティブ・スペース』予告編 
『ネガティブ・スペース』マックス・ポーター&桑畑かほる夫妻へのインタビュー&メイキング映像 ←必見!
『オン・ハピネス・ロード』予告編 
『オン・ハピネス・ロード』主題歌ミュージックビデオ


◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

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