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2018.09.12 (Wed)

第208回 キューブリックとリゲティ

リゲティCD
リゲティの「入門」CD。主な創作期間が「2001年まで」だったので、このようなタイトルになったらしい。


(承前/第206回より)
 スタンリー・キューブリック(1928~99)は、ハンガリーの現代音楽作曲家、リゲティ・ジェルジュ(1923~2006)が大好きだった。
 『2001年宇宙の旅』(1968)では《アトモスフェール》《レクイエム》《ルクス・エテルナ》《アヴァンチュール》(テープ加工)の4曲を使用している。『シャイニング』(1980)では《ロンターノ》を、遺作『アイズ・ワイド・シャット』(1999)では《ムジカ・リセルカータⅡ》を使用した。

 数年前に、東フィルが定期でオール・リゲティのプログラムを組んだところ、あっという間に完売したことがある。これなど、明らかにキューブリックの影響だった(曲の大半が、映画『2001年』の使用曲。《ルクス・エテルナ》に至っては「無伴奏合唱曲」で、本来、オーケストラの定期公演の曲ではない)。BISレーベルが『1948-2001:A Ligeti Odyssey』なる、便乗入門CDをリリースしたのも、人気が衰えていない証拠だろう。

 リゲティはユダヤ人で、大戦中に、家族の多くを強制収容所で失っている。戦後、ハンガリー動乱をソ連が武力鎮圧すると、オーストリアへ亡命し、西側で活動するようになった(最近初演された野平一郎の室内オペラ《亡命》のイメージ・モデルの1人は、このリゲティだそうである)。 
 一方のキューブリックも、ニューヨーク生まれだが、同じハンガリー系ユダヤ人である。若くしてカメラマンとして活躍し、やがて興味は「映像」に移る。彼の創作姿勢にユダヤ人だったことが影響しているかどうか、わたしには知識がないのだが(最初からドキュメンタリ映画を多く作ることができたのは、ユダヤ人脈のスポンサーを得たからだと聞いたことはある)、それなりに意識はあったようである。

 たとえば、ボツ企画のひとつに『第三帝国の内部で』(1971年頃)があった。ヒトラーの側近だった建築家を描くもので、アシスタントによる第一稿もできていたが、最終的に「私はユダヤ人だ。これにかかわることはできない」と断ったという。

 正式に発表された企画もあった。1993年、キューブリックは、ルイス・ベグリィの小説『五十年間の嘘』(邦訳、早川書房)の映画化権を買った。これは、大戦中のポーランドで、自らをアーリア人と偽って生き延びるユダヤ人少年と叔母の物語だった。ワーナーから発表された映画化タイトルは『アーリアン・ペーパーズ』。主役はジュリア・ロバーツかユマ・サーマンといわれた。だが、これも中止になった。理由は、同年暮れに公開された、スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』と類似テーマだったからというのだが、ほんとうのところは不明である(だって、映画化権を買う際、すでにスピルバーグ作品のことは承知していたはずだから)。

 また、この7月には、キューブリックが1950年代に執筆した幻の脚本『Burning Secret』が発見されたとの報道があった。これは、ユダヤ系オーストリア人作家シュテファン・ツヴァイクの小説が原作である(邦題『燃える秘密』。ツヴァイクは、リヒャルト・シュトラウスの歌劇《無口な女》の台本作家でもあり、初演の観劇をヒトラーが拒否した騒動は有名だ)。

 かように、キューブリックの周囲には多くの“ユダヤ企画”があったが、なかなか実現しなかった。
 彼が、リゲティに同じハンガリー系ユダヤ人としての共感を得ていたのかどうか、わたしにはわからない。だが、なかなか映画が実現しない一方、その分、リゲティの音楽によって、何かを埋めようとしていた、そんな気もするのである。

[参考資料]『キューブリック全書』(デヴィッド・ヒューズ著、内山一樹ほか訳/フィルムアート社、2001年刊)

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 パソコンやスマホで聴けます。 内容の詳細や聴き方は、上記「BandPower」で。

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