2018.10.26 (Fri)
第211回 吹奏楽部の練習時間

▲産経新聞社が主催する「全国ポピュラーステージ吹奏楽コンクール」
10月14日付の産経新聞社会面に、こんな記事が載った。
《吹奏楽 練習5時間も/中高部活/文化庁、軽減目指す》
文化庁が、文化部活動の盛んな中高を対象にアンケートを実施、68校、359部から回答を得た。その結果、「吹奏楽部の約5割が土曜日に5時間以上活動するなど、一部で練習が長時間に及んでいることが分かった。コンクール出場に向けた準備などが理由とみられる」「学校が休みの土曜日に活動している部は、全体の約半数。吹奏楽部は27部のうち48.1%が、土曜の平均活動時間が5時間以上だった」。
ほかに(土曜5時間以上は)演劇部15.3%、美術・工芸部9.7%、合唱部5.9%なので、確かに吹奏楽部の練習時間は突出して長い。
だが問題は、この記事が「産経新聞」で、本文に「コンクール出場に向けた準備などが理由とみられる」とある点だ。どことなく、主催者の一社である朝日新聞がコンクールを盛り上げるあまり、練習時間が長くなった、と言いたげである。
すると、1週間後の朝日新聞、全日本吹奏楽コンクール(高校の部)結果を全面で詳報する隅に、こんな記事があった(10月22日付)。
《部活「時短」手探りの現場/朝練休み増やす/地域活動とどう連立》
文部科学省が文化部について、運動部同様の指導(週休2日制の導入)を検討中だという。先の産経記事によれば、長時間練習はほとんどが吹奏楽部だから、要するにこれは吹奏楽部に対する指導であり、コンクールを主催している朝日新聞にとっても他人ごとではないのである。
だが読み進めると、すでに「時短」に取り組んでいる吹奏楽部はけっこうあると、朝日は主張する。「もともと平日は正味1時間練習できればいい方」「原則的に平日は午後6時半に終了。朝練、昼練などはなし」……それでも、彼らは全国大会に進出している。だから吹奏楽部=長時間練習ではない――そう言いたいようである。
その一方で、「効率化が正解とは限らない」「そもそも音楽は時間がかかるもの」「週末が1日休みになると(地域活動が)ほとんどできなくなる」と訴える顧問もいて、要するに単純に「時短」すればいいというものではない、とも述べている。コンクールがこれほど巨大になってしまった(させてしまった)朝日新聞が、困っている様子がうかがえる。
だが、そんな朝日新聞を批判している(ように見える)産経新聞が「全国ポピュラーステージ吹奏楽コンクール」を主催しているのをご存知だろうか(日本吹奏楽普及協会との共催)。そのほか、産経新聞は、マーチングとバトントワリングの全国大会「ジャパンカップ」も後援している。意外と吹奏楽の世界にかかわっているのである。どちらも朝日のコンクールの規模にはおよばないが、それでも、長時間練習が常態化している部も参加しているようである。
生徒の健康や精神にまで影響をおよぼすような練習は論外だが、部活のあり方は、十人十色、百部百色だと思う。短時間で高水準に達する部もあるだろうし、長時間が必要な部もある。そもそも、名門吹奏楽部ほど、部活目的で入学してくる生徒が多い。彼らは、部活=学校生活なのだ(わたし自身、そうだった)。だから、高額な部費も平気で払うし、保護者も一緒になって熱狂する。これを国家が管理規制するのは無理があると思う。問題が発生したら、それは学校長と顧問の責任である。
わたしは朝日新聞も産経新聞も、どちらの味方でもない。マス・メディアが主催している以上、ひたすらエスカレートするのも宿命だと思う。ただ、吹奏楽関係者でもないかぎり、朝日を読まないひとは「全日本吹奏楽コンクール」なんて詳しくは知らないだろうし、産経を読まないひとは「全国ポピュラーステージ吹奏楽コンクール」「ジャパンカップ」なんて知らないだろう(もしかしたら、フェルメール展も知らないかも?)。いかにも日本的な状況だなあと思う、それだけである。
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