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2018.11.21 (Wed)

第214回 手塚治虫 生誕90周年

手塚
『手塚治虫 原画の秘密』(手塚プロ編/新潮社とんぼの本) 
※手塚先生の没後、わたしが担当編集した本。2006年刊行だが、いまでも読まれているロングセラー。


 1988年9月、ミラノ・スカラ座の来日公演があり、NHKホールで、プッチーニの《トゥーランドット》を観た(ロリン・マゼール指揮、フランコ・ゼッフィレッリ演出)。
 第1幕後の幕間に、ロビーを歩いていたら、隅のほうに、手塚治虫先生がポツンと立っていた。驚いた。そのころ、先生は、体調を崩して入院中だと聞いていたからだ(あとで公表されるのだが、胃ガンだった)。
 わたしは、先生の生前に、著書や作品の担当をしたことはないが、対談やインタビューで何度かお世話になっていた。しかも、出版編集の仕事に興味を持つようになった、おおもとのきっかけを与えてくださった方である。よく「漫画の神様」と称されるが、私自身にとっても神様のような方だった。

 わたしはすぐに走り寄って、あいさつをした。顔色も暗く、やせて、なんとなく呆然としているように見えた。顔もひとまわり小さくなり、ベレー帽がゆるそうだった。これほどの方が、まわりに誰もいなくて、ひとりでポツンと立っているのも不思議だった。
「先生、入院中だとうかがってましたが、大丈夫なんですか」
 手塚先生は、いかにも「まずいところを見られた」とでもいうような表情で、小声で、
「病院から、こっそり抜け出してきたんです。松谷(手塚プロ社長)も知らないんです。見つかったら、まずいんです」と恥ずかしそうに語った。
「そうですか。ご無理ないですか」
「まあ、大丈夫です。この演出、前から観たかったんですよ。派手でいいですよねえ」
 確かに、《トゥーランドット》は、このフランコ・ゼッフィレッリの演出が最高傑作といわれている。ミラノ・スカラ座のほか、メトロポリタン歌劇場も同演出である。
 それにしたって、胃ガンで入院闘病中だというのに、抜け出して、3~4時間かけてオペラを観るとは、すさまじい体力と好奇心である。
 第2幕の開幕アナウンスがあり、笑って手を振りながら客席へ戻っていく手塚先生の背中を眺めて、少々、鬼気迫るものさえ感じた。

 11月20日に、帝国ホテルで「手塚治虫生誕90周年記念会」があった。おそらく1,000人は下らないと思われる招待者で、巨大な孔雀の間が、まさに山手線なみの混雑であった。わたしのカンだが、あそこには、昔ながらの出版関係者以外のほうが多かったような気がする。手塚キャラを使用している企業や団体などだ。それだけ、手塚作品は、広がりを見せているということだろう。
 そういえば、シエナ・ウインド・オーケストラが、創立30周年を迎えた年、『火の鳥』を記念キャラに制定し、手塚プロとの様々なコラボを展開したことがある。鈴木英史の吹奏楽オリジナル曲《鳳凰〜仁愛鳥譜》も『火の鳥』に触発されて生まれたし、宮川彬良の組曲《ブラック・ジャック》は、手塚の同名作に感動し、自主的に作曲された。
 手塚作品は、意外と吹奏楽界にも影響を及ぼしているのである。

 手塚先生が亡くなったのは、わたしがNHKホールでお会いしてから5か月後。昭和天皇が崩御し、平成となってすぐの、1989(平成元)年2月だった。60歳の若さだった。
 あれから約30年。その平成も終わろうとしている。
<一部敬称略>

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