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2019.01.18 (Fri)

第222回 市原悦子さんの「声」

太陽の王子
▲市原悦子さんの日生劇場時代の「声」が聴ける、貴重な記録。


 市原悦子さんが亡くなったが、「家政婦は見た!」と「まんが日本昔ばなし」の話題ばかりだ。まるでこの2つの仕事が市原さんの大半だったようで、あんまりだと思う。
 その中で、かつて俳優座で共演していた仲代達矢は、さすがに鋭いコメントを出している。

「やはり一番記憶に残っているのは、日生劇場で私がハムレットを、市原さんがオフィーリアを演じた時のことです。彼女は後輩で、まだ20代だったと思いますが、声のすばらしさに感動したのを覚えています。(略)演劇の役者にとってはやはり、声というものが猛烈に大事なんです。(略)姿かたちよりまず、俳優は声なのだと。彼女の声のすばらしさは日本の演劇界の宝でした。ただきれいというだけではなく、声の質をもって、ものを言うという才能。1500席の劇場で、マイクなしで己の声を通していく力を、彼女は先天的にもっていた」(朝日新聞1月15日付より)

 この『ハムレット』とは、1964年、俳優座創立20周年記念公演として、日生劇場で上演された舞台のことだ(演出=千田是也)。ハムレット=仲代達矢、オフィーリア=市原悦子(当時27~28歳、ゴールデンアロー新人賞受賞)のほか、平幹二朗、小沢栄太郎、東山千栄子、三島雅夫、横内正、東野英治郎、稲葉義男、横森久……と、現在、名画座のスクリーンでしか観られない顔ぶれが、大挙出演していた(ほかにも、若き日の永井智雄、田中邦衛、加藤剛、岩崎加根子、井川比佐志、佐藤オリエなども)。もちろんわたしは幼児だったから、観ていない。どれほどスゴイ舞台だったことか。

 だが、仲代コメントにある、当時の市原悦子さんの「声」だったら、いまでも聴ける。アニメ映画『太陽の王子ホルスの大冒険』(高畑勲監督/1968、東映動画)である。それどころかこのアニメには、市原悦子のほか、平幹二朗、三島雅夫、横内正、東野栄次郎、横森久といった、1964年に日生劇場で『ハムレット』に出演した顔ぶれが、声優として大挙出演しているのである。おそらく、高畑監督たちスタッフは、日生劇場の『ハムレット』を観て、彼らの「声」が必要だと感じたにちがいない。
 いま『ホルス』について詳述する紙幅はない。複雑な役柄(悪魔の妹ヒルダ)を演じた市原さんの、まさに「1500席に通る声」を、ぜひDVDで聴いていただきたい。

 わたしは、20年ほど前、市原悦子さんによる文学朗読(カセットやCD)の制作にかかわったことがある。
 市原さんは、顔が小さいので、スクリーンやTVでは小柄に見えるが、実際にはとても大柄で、がっしりした体格の女性だった。
 松本清張の『家紋』『巻頭句の女』を読んでいただいたときは、すでに「家政婦は見た!」シリーズが好評を博していたので、そのイメージで起用されたのではなかったか(「家政婦は見た!」の原作は、松本清張の短篇『熱い空気』である)。
 野坂昭如『戦争童話集』や宮沢賢治『風の又三郎』と、松本清張作品では、これが同じひとかと思うほど、声質も読み方も変えている。説明がむずかしいが、前者では幼児に、後者ではシニアになりきっている。事前に隅々まで読み込んできてくれて、ほとんどが一発OK、録り直しはほぼなかったはずだ。とてもよく通る声質なので、ディレクターが、マイクを後方へ下げていたような記憶がある。「声のプロ」とはこういうものかと、恐れ入った。

 仲代達矢がいう「役者は声」を、見事に体現しつづけたひとだった。滑舌が悪いどころか、ひとの名前を間違わずに読むことすらできない昨今の若手タレントは、彼女の残した「声」を聴いて、少しは学んでいただきたいものだ。
<一部敬称略>

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