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2019.02.14 (Thu)

第225回 堺屋太一さんの「女子プロレス」と「N響」

第三の敗戦
▲N響の仙台移転を提唱する『第三の敗戦』(講談社、2011年刊)

(前回のつづき)
 堺屋太一さんは、女子プロレスの大ファンだった。
 あるとき、半ば照れるように目を細めて(普段から細目だったが、さらに細くして)、「あなた、女子プロレス、お好きじゃないかな?」と訊かれた。
 正直いってあまり興味がなかったので「いや~、あんまり……」と口を濁して「先生は、お好きなんですか?」と返すと、はっきりした口調で「好きなんです。もう大好きなんですよ」とうれしそうに言った。これには驚いた。
 どうやら、女子プロレスの草創期からファンのような口調だった。時間を見つけては、リングサイドで観戦するのだという。この当時(1983~84年頃)は、クラッシュ・ギャルズ、ダンプ松本、ブル中野といった、わたしでも名前を知っている女子プロレスラーが大人気だった。小柄な体格で、難しい経済の話を立て板に水のように話す堺屋さんに、そんな趣味があるとは意外だった。高校生のころ、ボクシングをやっていたと聞いたので、もともと格闘技はお好きだったのかもしれない。

 尾崎魔弓が1986年にデビューすると、大ファンとなり、応援しつづけた(もしかしたらデビュー前から知っていて応援していたのかもしれない)。のちに彼女が小説を書くようになったのも、堺屋さんの応援があったからだと思う。もちろん、推薦文は堺屋さんだった。一度、彼女の試合にご招待されたのだが、仕事の都合で、どうしてもうかがえなかったのが、いまでも心残りだ。
 その後、新宿・歌舞伎町に、格闘技もできるライヴ・ホール「新宿FACE」がオープンしたが、これも堺屋さんの実質プロデュースだと聞いたことがある。大阪万博や沖縄海洋博から、女子プロレスのホールまで、堺屋さんの「プロデュース」パワーは、とどまるところを知らなかった。

 そんな堺屋さんが、後年にプロデュース提唱したなかで、忘れられないのは、「NHK交響楽団の本拠地を仙台に移転せよ」だ。
 これは、著書『緊急警告! 第三の敗戦』(2011年、講談社刊)のほか、TVのインタビューやコラムなど、数か所で述べているので、それらを(わたしの記憶も交えて)まとめてみると、こうなる。

◆日本は、いま、“第三の敗戦”を迎えた。第一は幕府崩壊(明治維新)、第二は太平洋戦争の敗戦、そして第三が東日本大震災である。
◆この下り坂を、大改革で乗りきらなければ、日本はこれからも敗けつづける。特に東北の復興は、道路や建物ばかりではなく、「文化」面も考えなければいけない。
◆役所をいくら移転したって、ひとの流れは変わらない。「文化」施設を、東京から東北へ移転させ、自然と東京からひとが移動する流れをつくる。たとえば、大相撲東北場所の開催、歌舞伎専用大劇場の建設だ。仙台だったら新幹線で90分、大阪よりずっと近い。
◆そこで、まず、日本を代表するオーケストラ、NHK交響楽団の本拠地を仙台に移す。N響は「仙台に聴きに行く」「仙台から東京に来る」オーケストラになる。プロ野球の日ハムやソフトバンクは、北海道や九州から「東京に来る」球団で、大人気だ。ボストン交響楽団もニューヨークに来て、大人気を獲得している。これくらいのことをダイナミックにやらなければだめだ。

 わたしは、かつてニューヨークのカーネギー・ホールで、小澤征爾指揮/ボストン交響楽団のコンサートを聴いたことがある。メンデルスゾーンの劇音楽《夏の夜の夢》全曲を、シェイクスピア原作の抜粋朗読を交えながら演奏するユニークなプログラムだった。確かに満席の大人気で、定期的にニューヨークに来ているようだった。まさに堺屋さんの言うとおりだった。よく、こんなことを知っているなあと、感心した。
 女子プロレスを愛し、平気でN響の仙台移転を提唱する――いまの安倍政権に必要なのは、失言に弥縫策で対応する政治家ではなく、堺屋さんのような、自由で面白い発想のできるひとではないのか。

■堺屋太一(1935/昭和10~2019/平成31年) 作家、評論家、通産官僚、元経済企画庁長官。2月8日逝去、享年83。


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