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2019.03.06 (Wed)

第229回 「こちらヒューストン」「すべて順調です」

清水大輔
▲アポロ13号のアクシデントを描く、清水大輔《マン・オン・ザ・ムーン~エピソード2》。


 今月のFM番組「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」(FMカオン:土曜23時~、調布FM:日曜正午~)で、「月面着陸50年! 吹奏楽で聴くアポロ計画ヒストリー」を放送する。たまたま、映画『ファースト・マン』が公開されているが、今年は、アポロ11号の月面着陸から50年にあたる。
 宇宙開発エピソードは、意外と多くの吹奏楽曲になっている。たとえば、人類初の宇宙飛行士、ソ連のガガーリンを描く《ガガーリン》(ナイジェル・クラーク作曲)《アポロ11/月へのミッション》(オットー・シュワルツ作曲)、そして、清水大輔作曲の《マン・オン・ザ・ムーン》シリーズなど……。
 FMでは、これらの曲を流すのだが、やはり、わたしの世代には、1969年7月の、アポロ11号月面着陸が強烈な印象を残している。

 このとき、わたしは小学校5年生だった(月面第一歩は、日本時間で7月21日午前11時56分。ということは学校で見たのだろうか。もう夏休みだったのか、あるいは夜に自宅で再放送を見たのか)。
 スタジオで番組を仕切っていたのは、鈴木健二アナウンサーだった(らしい。当時はこんなひと、知らなかった)。先日、産経新聞に、当時を振り返るインタビューが載っていたが、月面第一歩の際、鈴木氏は“沈黙の中継”を行なったという。「何も言わず、無言で見守り、画面ではアームストロング船長の声だけが淡々と流れていました」。36年間のアナウンサー生活で「最高のアナウンスだった」と自負しているそうだ(産経新聞2月25日付「話の肖像画」より)。

 だが、これは正確ではない。確かに鈴木アナは沈黙していたかもしれないが、「同時通訳」はつづいていたはずだ。わたしは、「人類が月面を歩く」偉業よりも、この「同時通訳」のほうが、気になって仕方なかった。こんな仕事があるなんて、夢にも思わなかった。なにしろ、地上と月面とが、雑音だらけの英語で会話しているのを聴きながら、その場で日本語にしていくのだ。よくそんなことができるものだと、子供心にも、びっくりしてしまった。
 おそらく当時の日本人のほとんどが、「同時通訳」の存在を、このとき、初めて知ったのではないだろうか。

 この同時通訳を担当したのが、西山千さん(1911~2007)だった。
 ほかにも何人かいたが、西山千さんがいちばん印象に残った。声がたいへんきれいで、カッコいい口調だったのだ。少々、英語なまりとでもいうのか、日本語のうまいアメリカ人が話しているような感じがあった(西山さんはアメリカで生まれ育った日系アメリカ人で、のち、日本に帰化したのだった)。
 ほかの中継時には、たしか、鳥飼玖美子さんもいたと思う。数か月前まで、上智大学の学生だったそうで、これまた、こんなスゴイ仕事を平然とこなす女性がいることに、驚いてしまった。

 おとなになって、どこかで読んだのだが、当初、同時通訳者はあまり画面に登場しなかったらしい。ところが視聴者から「あんなに早く訳せるわけない」「事前に録音してるんじゃないのか」との問い合わせが殺到した。そこで、スタジオの中で、アナウンサーの横に常に登場するようになった。その際、ヘッドフォンをしているのが、これまたカッコよくて、あの姿に憧れた日本人も、多かったと思う。

 さらに、あの中継で忘れられないのは、ビーコン音の「ピー」につづいて、何度も登場する「こちらヒューストン」「すべて順調です」の2つのフレーズだった。地球側の発信基地を、組織名でなく地名で呼ぶことも初めて知った。
 ちょっとした流行語になり、親に「ちゃんと勉強してるのか」と聞かれて「すべて順調です」などと答えていた。
 翌1970年、このアポロ11号が持ち帰った「月の石」が、大阪万博アメリカ館で展示された。父と2人、仕事用の自家用車でヒイコラ言って東京から行ったが、結局、「月の石」は観られなかった。朝いちばんで入場して並んでも、その日のうちにアメリカ館に入れるかどうか、それほどの混雑だったからだ。
 そんなことを思い出しながら、FM番組を制作した。

■「月面着陸50年! 吹奏楽で聴くアポロ計画ヒストリー」の放送は、4回あります。
FMカオン:3/9(土)23時、3/23(土)23時
調布FM:3/10(日)正午
※ともにパソコン、スマホで、全国どこででも聴けます。詳しくはこちら


◆「富樫鉄火のグル新」は、吹奏楽ウェブマガジン「BandPower」生まれです。第132回以前のバックナンバーは、こちら。

◆毎週(土)23時・FMカオン、毎週(日)正午・調布FMにて、「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティをやってます。
 パソコンやスマホで聴けます。 内容の詳細や聴き方は、上記「BandPower」で。

◆ミステリを中心とする面白本書評なら、西野智紀さんのブログを。 
 最近、書評サイト「HONZ」でもデビューしています。
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